第26話
「パスワードは⁉」
「あと少し! ああくそ、こんな難しいコードにしないでくれよ《明晰》……‼」
菊と桜蓮の二人がミーミル・オムニポテントにアクセスし、パスワード突破のコードを打ち始めてから早八分が経過していた。
二人ともこういったデータ系の覚えは研究者よりも三歩以上劣る。
それでも突破に向けて動けているのには、一馬から渡された《明晰》のガイドブックの助けに他ならない。
時間があれば、素人でも突破できるであろう分かりやすい説明と手順。
しかし、時間は無い。加え、頑丈な防御を誇るミーミルに一度のミスでも気づかれてしまえば即終了というハードミッションも重なり、菊は浮かぶ脂汗と絶えず襲い掛かってくる緊張との戦いに発狂しつつあった。
「……上で、多分接敵した? 剣戟の音が聞こえる気がする」
すん、と桜蓮が鼻を鳴らす。
彼女の目もまた、微かな振動を届ける天井に向いていた。
中途陣営。西日本側にとっても、重要拠点の一つに違いない場所。
もし西側の上に立つ者が無能でなければ、配置する役はほぼ確実。
———十二降天。あるいは、その位に匹敵する実力者。
シストは強い。彼女の性格上、無駄な軋轢などを生まないように菊と行動を共にできるように、全力を出さずに試験に臨んだであろうことは簡単に推測できる。
本来ならば黄級程度で収まる器ではない。そこらの有象無象であれば問題なく、確実に対処できる。しかし、それが幹部であるのならその確実性は失われる。
「…………っ」
菊は横で祈るように佇む桜蓮を流し見る。
当たり前だ。『七賢人』の《英雄》でさえ、十二降天には苦戦を強いられるのだから。
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