第24話

 中途陣営は、一目で言えば派手だった。


 陣営を映えさせている壁は、多少悪趣味とも思えそうな程の黄金色。

 壁の至る所についている換気口は漆黒に染まっており、薄くとも主張強めに壁を照らしている黄色の街灯。


 日本という国が東と西に分かれ、今の状況を引き起こす最初の原因、関ヶ原合戦。

 その舞台である岐阜県に設置するということは、遠からず戦争に対しての優位さを西が東へとアピールしている意味合いも含まれている、と思っていた菊たちであったが、その建物を見れば、その持ち合わせていた認識は全くの間違いであったことを知った。


 含まれているのではなく、この戦争に勝つという意味しか無いという事に。



「相当気合入れてつくったな、コレ。支配色ドミナントカラーなんて、面倒にも程があるだろ」


 陣営の周りを大きく堅固な塀で囲い、背後は誰もが登るのに苦労しそうな急な崖。

 正面突破以外に手はないと思わせる造りは、正面に掲げられている鳥居を模したような鮮やかな赤い門が更に相手への緊張感を増幅させるものだった。


 そしてそれは内部も同様。

 目が眩しくなるほどの明るい配色を基盤として作られている中途陣営の中は、まるで囚人をしまい込む刑務所のように同一タイプの扉がただただ並べられていただけ。

 どこが何の部屋なのか、その情報すら何もない閉鎖的空間だった。


「……流石に静かすぎないか? 陽動側に人を割いたにしても、気配が無さすぎる」


 無事に電子カッターで壁に穴を空けて侵入に成功した三人は、手元の地図を見ながら進みつつも、身を取り巻く違和感に嫌な雰囲気を感じ取っていた。


「静けさがこんなにも不気味だなんて……。でも、ウチらが侵入したことには気づいてないはず」


 菊が漏らした違和感に、桜蓮も同意の頷きが起こる。

 いつもは爛漫なシストでさえも真剣な表情で辺りに気を配っている。


 ———何かが、ある。


 その確信を抱かせるのには十分だったが、元よりリスクを負うのは承知している三人の足は止まらない。《明晰》を信じて、ただひたすらに突き進む。


 時間との勝負でもあることを忘れてはいけない。

 新潟からの部隊であっても貴重な戦力。むざむざ失うようなことは、ひいては東日本の損害に繋がると理解しているからである。


 中途陣営と言えど、本部との通信機能は兼ね揃えていないと意味が無いとの見解で、機密データを置くとして最適な場所は何処なのか。


 《明晰》が導き出した答えは———


「ここだ。この階段の先にデータバンクがあるはず。……地下か」


 隠し扉を開いた先、暗がりの先に階段が繋がっている。

 下がっていくような螺旋状の性質から、地図通りの地下にあることを確認した菊は、シストへと声をかける。


「シスト」

「委細承知。任せてよ、quickly」


 扉の前にシストを残し、菊は桜蓮を連れて暗がりの中へと足を踏み入れていく。


 階上から伸びていた灯りが進むにつれて弱まっていき、暗黒に包まれる一歩手前で明かりを点灯させる。

 罠の可能性を十分に加味しながら進んでいったその先に、目的地は聳えていた。


 大きく展開されている三枚の液晶、その各液晶下には数えるのにも難儀しそうな程のボタンとキーが陳列されており、彼らが足を踏み入れた刻から少し遅れ、起動する。



 〝終末演算装置ミーミル・オムニポテント〟



 中央の液晶に、データバンクの正式名称が映し出された。

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