第23話

「……あれか」


 ホーホー、と梟の鳴き声が暗闇に反響する。それに紛れ、菊の声が二人の耳に届く。

 三人は目標である岐阜県に聳える中間基地の外観を目に映していた。


「ね、作戦ってなんだっけ? 正面突破? question」

「そんなわけないだろ……。たった三人で城は落とせねぇよ」


 呆れた顔でじろりと発言者シストを睨みつける菊だが、困り眉で申し訳なさそうに頬をかく彼女をみてその呆れも半分は収まる。


 あはは、と愛想笑いを浮かべる桜蓮の下、もう一度作戦について頭を寄せ合った。


「あと数十分で、新潟から派遣された部隊が安全圏ギリギリに陣を構える。そうすれば西日本側も無視できずに、そちらに注意が向く。その間にウチたちが裏から潜入して、情報を入手する、という手筈だね」


 かちゃり、と彼女が手に持つのは電子カッター。

 音を出さずに鋼鉄さえも瞬時に切り落とせることが出来てしまう代物。


 かなりの力技だが、裏口などが存在してその警護との戦闘というケースを躱すためにも一番安全な作戦である。


「で、これが内部地図。全部が全部合っているわけでは無いとは思うけど、最短ルートに関してはほぼ確実だって。未知のトラップが無い事だけ祈ろう」

「本当、大丈夫なんだろうな……? 前々から思っていたが、敵の拠点の内部まで見通せる力まで持ってるのかよ《明晰》って」

「いや、違うよ。《明晰》の本領は〝解き明かす〟こと。情報を入手して、勝ちに導くための最善手と背中を押す事。拠点構造レベルだったら、地形と建造することになった背景さえわかれば八割方看破できるって。前に話した時に言ってた」

「元『七賢人』からのお墨付きなら、疑う余地は無いか。それより《将軍》もよくこんなものを急ピッチで用意してくれたよな。漏洩の保険として当日に言ったのに」

「ま、伊達に《将軍》として全てを差し出してきてない、ってことだねー」


 そんな話をしていれば、作戦開始の時間———新潟から派遣された軍隊がプレッシャーを中途陣営にかける時間が迫ってきていた。


「合図は打ちあがる赤い花火。ギリギリまで粘ってくれるらしいが、限界の時点で連絡が入る。その場合、ミッション未達成でも全力撤退だ」


 黄色が上がれば東日本全体の危機が迫っていることだ———、と菊はそこまで言うのは抑える。

 色で判断する合図など、白級でも知っていることであり、確認作業に過ぎない。

 そんな時に、必要のない想像をさせてしまうのは愚の骨頂だ。

 首をふり、桜蓮とシストの目を見る。


「安全に、最速で。必ず成功させるぞ」

「勿論。背水の陣なんて、何度も乗り越えてきたんだから」

「私がいれば絶対に成功する、success」



 拳を合わせた瞬間、鬨の声がする。その数秒後、赤い花火が打ちあがった。

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