潜入作戦は、姉貴面とインビジブルガールと

第20話

 裁判から一週間が経ち、桜蓮周りの状況も落ち着きを見せてきていた。


 菊はシストと相談し、ひとまずは桜蓮に対しても親戚であることを貫き通し、まずは状況の大きい改善が見込めるまでは無用な情報は流さずに静観していくことに決めた。


『でも、隠しすぎるのも良くないから早めにタイミングを見つけようね。私のせいできっくーの未来のお嫁さんがいなくなるのは、お姉ちゃんとしてはとても忍びない、warning』

『余計なお世話だ』

『いやいや、結構ある話なんだよ? ちょっとしたすれ違いがいずれ大きな亀裂に。気づかないまま時間が経って、気づいた時には修復不可能な状態に……。おお、考えただけでも怖いね、no way』


 結婚とかそういうことには全く関係ないが、と菊は誰かに言い訳するようにその言葉をしっかりと頭に叩き込み、まずは第一歩である分体を倒す作戦を立てていた。


「一体どこまでこっちの事情を知っているのか疑いたくなるレベルだが……。あの《将軍》様は、どうやら俺たちに東日本西日本内外の出入りを好きにできる遊撃隊の立場を与えてくれたようだ」

「……なるほどね。確かに分体を見つけるのに東日本エリア内の行動だけじゃ、遅々として進まないのは明白。多少のリスクを背負ってでも西日本側への調査は必要になってくる」


 本来ならば詳細な理由と共に届け出が必要なのが、西日本側への潜入あるいは侵攻作戦だが、一馬はその面倒な届け出を飛ばせる特例を菊たちに既に付与していた。

 確かに背筋が自然と伸びるほどには、彼への恐れ多さに頭が下がる。


「えー、でもそれなら好き勝手にやっちゃおうよ。いつ気分が変わって今の立場を取られるか分からないんだし、quick」

「一馬はそんなことはしないタイプなんだけどね。ま、用心には用心を重ねた方が良いって聞くし。さっさと作戦立てて分体をのしちゃおう」


 桜蓮の言葉にどこかもやもやとした気持ちを覚えつつも、菊は目先の案件に意識を向ける。

 手元に広げた日本地図のある部分に指を当て、覗き込んでくる二人に目を合わせた。


「まずは前提条件の確認から。東日本は現在、東京都まで前線を下げている。並行して南は神奈川、北方面は埼玉から群馬と新潟で凌ぐ状況が二年近く。これは英雄の誰かさんの奮闘で保てていた事であって、この数か月で前提が崩れることは容易にあり得る」

「誰かさんじゃない、ちゃんとこういう場では私の名前だして? 忘れられた人扱いって結構効くんだから」

「んー、でも安易に《七賢人》クラスの名前と桜蓮の名前を出したら、また疑惑ありってことで投獄されかねないんじゃない? 面倒事は極力避けていきたいよ、through」


 ぐうの音も出ないほどの正論を言われて膨れる桜蓮をスルーし、菊はなおも話を続けるべく人差し指を一本立てた。


「本部の東京が落ちれば、東日本はほぼチェックだ。逆に言えば、東京だけは国としても絶対に死守する。だからこそ、防衛の手が薄くなりがちな北に目を向けるべきだ」

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