第18話
「…………これで、証明にはなったよな《将軍》さん?」
「あぁ。流石は《影装束》だ。直近では後方支援に徹していたようだが、その潜在能力までは後ろ向きにはなっていなかったらしい。昔と変わっていないようで一安心だ」
「お褒めの言葉、有難いですね。では、今後は俺と桜蓮はコンビとして動きますよ」
「あぁ、良いだろう。だが、白級といてもお前が使えなくなる。……そうだな、一か月か。その期間であの女を黄級以上に上げられなければ、コンビは解消だ」
これで窮地は凌いだ。だが、このままでは状況は好転しない。
「いいえ、それよりももっと楽な方法がありますよ。桜蓮を黄級に上げれば良い。同じく黄級のシストを加えて、トリオで組めば役に立てるんですから」
「おまえ、いい加減にしろ! 《将軍》様になんて口をきいて———」
余計な口を挟もうとしてくる外野に、菊は鋭い目線を送る。悔し気に口を噤む彼らは、今の状況では菊に反抗できるほどの立場に無い。
だからこその、圧倒。己の有用性を知らしめるための、早期決着。
全ては、桜蓮の事情を知る三人だけで行動ができるように話を進めるため。目的である魔女からの記憶の奪還、それを最速で成し得るための策略。
———足踏みの余裕は無い。
もう一度目線を一馬へと送る菊。目線が合わさり、お互いに避けることなく合わさって数秒が経ったのち、一馬が面白そうに笑いを溢した。
「はは、良いだろう。何か考えがあるようだが、深くは聞かないでおく。《将軍》の名前に置いて、鏡桜蓮を黄級に任命。北山菊、シスト・キタヤマ、鏡桜蓮の三名は調査部隊兼特攻部隊として前線に配属することを命ずる。———これで満足か?」
「えぇ、勿論。寛大な理解に変わらぬ敬意と、一層の感謝を《将軍》に捧げますとも」
「その不可思議な口の回り方だけはいつになっても気に食わんな。……励めよ」
「承知いたしましたとも」
「……それと、もう一つ。あの時よりも弱体化していないことに安心はしたが、現状維持は衰退と同義だ。あまり失望させてくれるなよ? 《影装束》」
そう言って姿を消していく一馬の背中を見送りつつ、菊は心の中で心底安堵の息とガッツポーズをとってみせる。胸の内に浮かんだ、少しの不服さを覆い隠すように。
「……あっぶね」
小声で漏らす安堵は、すぐさま背後から飛び掛かってくる衝撃にかき消される。
振り返らずともわかる、シストの体当たりが菊へとクリーンヒットして地面へと彼の顔面がめり込む。
「流石は私の弟、よくやった、nice!」
「…………どいてくれ、重い……」
なおも抱き着いてくるシストを強引に剥がし、座り込む菊はやっと人目をはばからずに一息をつく。
一仕事終えてもなんの感情も示さない必殺仕事人スタイルを見せつけることで周りへの更なる牽制をすることも考えたが、過度な演技は
シストが緊張感を壊してくれたこともあり、多少なりとも安心した菊。
その目に、どこか挙動不審な桜蓮の姿が入り、首を傾げた。
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