第17話

「本当に一人で来るなんて馬鹿だな! 全体の数パーセントしかいない茶級だろうが、所詮は反則技で手にした偽りの称号! 緑級フィフスとはいえ俺たちは《将軍》の副官だ、舐めるのも大概にしとけよ‼」


 白い甲冑に身を包んだ男が、乱暴な言葉と共に吐き捨てる。周りを揺さぶる程の風圧が、模擬戦闘場の中心に姿を現した。


「コミュニティに入れてないスパイ野郎は知らなかった? アタシたちは二人でのコンビネーション技で副官にまでのし上がったの! それをたった一人で、大した実力もないアンタが勝てる訳、無いでしょ!」


 鮮やかな青色の甲冑に身を包んだ女が高い声で絶叫する。風圧に混じり、霜が降りる程の氷河が周りを包んでいく。


 次元開放術式の風と水。固有ですらない汎用術式とは思えないほどの威力は、確かに副官になるだけのモノではあった。


「じゃあ、見せようか。俺がなんで《影装束シェード茶級シックス》なんて黒でも無いのに異名を付けられているのか。……その伸びきった天狗の鼻に教えてやるよ」


 だが、菊は臆さない。


 右手を伸ばし、唱えるは東日本人が口にすること自体があり得ない詠唱。


 罪の象徴、嫌悪の証明———。西日本側である機械人間が放つはずの、呪いの言葉。

「忠誠をここに。我が覚悟をここに示せ———装填しろ、機造兵器」


 菊の右手が展開し、どす黒い赤が混ざった腕へと変貌する。それは正に東日本人が恐れて嫌悪することが正しく思えるほどの様相。


 ———機械装填スロット宝珠墜星クラウンジュエル。未だ解き明かされていない、西日本の叡智の結晶である。


「お、まえ……! やはり、本当にスパイだったのか……‼」

「いやいや、スパイだったらこんな人目の集まる場所で披露する訳が無いだろ、もっと頭でモノを考えろよ。これはアンタらの崇拝する《七賢人》も知っていることだぞ」

「そんな嘘がまかり通る訳が———」

「……いいや、事実だ副官よ。北山菊は、東日本人でありながら西日本人の技術を使用できる数少ない適合者。だからこそ、クラスも茶級なのだ」


 苦悶の表情に顔を歪める二人に、上司からの冷酷な一言が飛ぶ。だが、その程度で戦闘が止まるはずも無い。


「機械装填という装束を影に潜ませる《影装束》とは、誰が言い始めたはた迷惑なことだったかな。———始めるぞ、影のベールに包ませているのはもう終わりだ」


 ちらりと桜蓮に目線を送り、菊は右手へと力を籠める。

 光り輝くソレが呼び寄せるは、天空に浮かぶ不要とされた塵の証。


「墜とせ、星々よ」


 手を振るうと同時、天空から落ちるは目で追いきれないほどの塵———星の欠片。


 先程から展開されている風圧と氷河の嵐の影響など感じないかのように、菊は機械装填を起動させる。キィーッと機械が擦れあう音が辺りへと響いた。


「が、あぁ……⁉」

「ぐ、ふ……」


 規則性も何も無いそれらは、しかし的確に彼、彼女の身体へと殺到しては甲冑に穴を空けていく。

 血が噴き出て苦悶の絶叫が聞こえてくるその様は、地獄と言っても差し支えない程である。



 煙が晴れていくと同時に見えるのは、星々が与えた衝撃を的確に表していくクレーターと、地面に倒れて動けなくなっている白と青の戦士であった。

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