第15話

「……ほう。もう一度言えるか、その言葉」

「そりゃあ、何度でも。———桜蓮は、俺の相棒だ。組めば誰にも負けることは無い。俺がアンタに勝てたら、桜蓮が東日本に害を成さないと証明できるよな?」


「一体何を用意してくるかと思っていたが……。そう来るとは意外だったな」


 裁判当日。ギャラリーが詰めかける中、菊は《将軍》へと不敵な笑みを送る。

 シン……とした数秒の静寂の後、怒号が飛び出した。


「お前が一馬様に勝てるわけないだろ、自惚れんなスパイ野郎!」


「身の程を知れー‼」


「忙しい《七賢人》相手に何言ってんだオマエ、さっさと消えろ!」


「おー。凄い声援。人気者だね、私の弟は、happy」

「シストはちょっと黙ってて」


 もとよりギャラリーの声などに耳を貸す必要性は無い。

 菊が求めているのはただ一つ。


「……良いだろう。では、証明して見せろ。お前たちが東日本に必要な要素の一つとしてなり得ることを」

「そう来なくちゃな、ナンバーツーさん」


 《将軍》自らの肯定、こちらの要求を受け入れる事ただ一つ。

 ギャラリーがどんなに声を上げて数を揃えようが、国のナンバーツーの一声で全ては決まる。


 ここにターニングポイントが訪れる。


 ただ一つのミスも許されない、その数ある一つの障害である。


「だが、俺も暇じゃなくてな。戦場を救える《英雄》がいない東日本は、俺が少しでも判断を違えば簡単に崩れ去る。……副官二人を相手にし、真実を証明してもらおうか。無論、そちらも二人で構わない。鏡桜蓮を出すか?」

「……へぇ、そりゃ有難いね」

「《将軍》! それは危険です‼ あんな不審人物を出す、あろうことか戦闘許可まで出すのは……‼」


 だが、その言葉に割って入るのは彼の秘書官。

 焦ったように考え直すように何度も懇願する彼を放り、一馬は合図を送った。


「大丈夫だ、今のあいつは無能力者。今は精々が後方支援しかできない格下だ。……不安なら、今この場でデータを取れば良い。許可は出してやる」

「そ、そこまで言うのでしたら……。おい、すぐさまデータを収集しろ、急げ!」


 ドタバタと忙しくなる上層部を尻目に、菊は用意された模擬戦闘場へと向かう。入念に右腕を回して準備する彼に、シストがそっと声をかけた。


「ねぇ、大丈夫なの? 目論見は外れているようだけど、danger?」

「ま、確かにな。まさか副官二人と戦うことになった上に、桜蓮まで出してくれるとは思ってなかったけど……」


 そこで口を止め、にっかりとシストへと笑顔を向けた。


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