第7話

 チャラチャラ、と学校より支給されている連絡端末についているキーホルダーが音を鳴らす。ついているのはどれも全て上司である桜蓮から押し付けられた物である。

 ただ、菊の好きなデザイン物であることもあり、上司からの貰い物という事で断り切れずに付け続けた結果が、この有様だった。


 午前八時半。

 学校に向かう為の最後の角を曲がり終え、菊は見えた校舎と横に歩く彼女の両方に視線を送る。まだ周りには人が居ないことを確認し、菊はそっと身体を寄せた。


「———で、存在証明力ってなんなんだ?」


 家の中で出た聞き慣れない単語。その詳細に対し、説明する時間は結局のところドタバタになってしまった朝の時間には無く、ここで初めてその内容を聞くことにする。


存在証明力レゾンデートル。人間であれば誰しもが宿している力で、この世界に生きるために必要な力の名称。ストレスで減ったり、リフレッシュで増えたり。まぁ、無くなったら死ぬ力って感じ、dangerous」

「ハチャメチャに重要なことをサラッと言わないで欲しい……」


 なおもマイペースな彼女に呆れるかの如く、ため息をついた菊ははた、と気づく。


「……うん? 出てきたのって、足りなくなったからって言わなかった?」

「うん、言ったよ? exactly」

「大問題じゃねーか! なんでそんな軽く言える⁉」

「まぁまぁ落ち着いて。足りなくなっただけで、無くなったわけじゃないの。だからまだ大丈夫。……アレを使わなければ、の話だけど。safe」

「それは、無理だろ。切り札は使えなきゃ切り札じゃない」


 ふい、と顔を背ける。学校は間近に迫っていた。


「てか、ずっとついてくるつもりか? 学校の中では話せないぞ、怪しまれる」

「えー? 別に良くない? きっくーのいけず、bad」

「独り言をブツブツ言ってる奴は、大抵ヤバい認定されるんだよ」

「独り言? なんで独り言? wonder」

「いや、だって———」


 首を傾げるシストに説明しようと菊は彼女の後頭部に手を当て、内緒話をするように寄せる。人が増えてきた中、怪しまれないように手の位置を変え———


「おい、北山。彼女が出来たのはいいが、人目があるところでいちゃつくのは辞めとけ」

「……は?」


 校門の前、生徒指導の教員が首をかきながら優しく諭すように話しかけてくる。

 思わずポカンとする菊に、教員はなおも気まずそうに目を背けながらも指導の責任を果たす。


「だが、見慣れない生徒だな? 転入生の知らせはあっただろうか」

「お前、他からも見えんのかよ⁉」

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