第6話

 一六〇〇年、関ヶ原の戦い。


 徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍によって始まった天下分け目の大一番。

 その結果は、様々な要素や関係により引き分けに終わった。

 そこから一切の関係を断って東日本と西日本に分かれた人々は、互いに干渉しないままこの四百年近くを歩んできた。


 二〇〇〇年に約四百年ぶりとなる公共の場にその姿を現すまで、一切の内情が不明であり、諸外国とすら関係性を持たなかった西日本に比べ、東日本は実にオープンな歴史の歩みを送ってきていた。


 一六〇三年、江戸幕府成立。一九一四年、第一次世界大戦勃発。一九三九年、第二次世界大戦勃発。一九四四年、世界和平宣言受諾———

 と、常に国内外との関わり合いを持ち、時には日本独自の文化と諸外国の文化を取り入れ、混ぜ込むなどといった形で発展してきた東日本は世界でも一目置かれる国の一つとして歩みを続けてきていた。


 だが、一六〇〇年に袂を分かって以来、ただの一度も交流や来訪なども無かった西日本との鉄のカーテン問題は一向に解決の糸口を見つけることが出来ていなかった。


 しかし、二〇〇〇年に世界が変わる。

 これまで一切の沈黙を貫いていた西日本側から、東日本側への話合いの申し出があったからである。


 天下分け目の関ヶ原合戦。

 その引き分けから約四百年の時を超え、やっと日本が一つに戻るのだと東日本人はともかく、諸外国からも最大級の注目が寄せられた話し合いは、国立競技場を使用して行われ、当日の四月一日には全世界から中継がされるほどであった。


 その様子を記した本『奇跡と地獄の特異点———二〇〇〇年の真実———著・織野汐里』には、こう記されていた。


〝四月一日、正午。時間通りにその姿を現した西日本人は、三人だった。

姿は奇妙と言わざるを得ない格好であった。未だ全世界が忌避を覚えてしまうであろう格好である、兜と甲冑。戦争をイメージさせる姿に身を包み、彼ら、彼女らは現れた〟


 当時の中継されていたテレビ映像を見ても、確かにそれに近しい格好であったことは確認できる。だが、当時の人々はそれよりも今から訪れるであろう歴史が変わる瞬間、それを見逃さないことへの意識が強かった。

 ———一体、この四百年の間に西日本ではどんな歴史を送ってきていたのだろう、と。

 そしてその疑問は、話し合いが始まってからわずか数分で答え合わせが成された。


『我ら西日本は東日本への宣戦布告をここで示す。今から始まる行動は、私たちが決して嘘をついていないことを証拠とするものだ。———革命を、最期の目に焼き付けろ』


 腹に響く、不気味な声。変成器で加工されていたであろうその言葉が広い競技場に広がるのを待たず、鮮血が宙に舞った。

 その主は、当時の内閣総理大臣である鹿賀史一。下手人は、自らを西日本大統領と名乗った赤い甲冑の男であった。


『ひれ伏せ、東日本人共。貴様たちが先祖から伝わる己が主、あるいは国への忠誠を忘れて戦争に敗北した愚行を、そしてその後も平和ボケしていた間も我らは常に発展を繰り返してきた。対抗できる軍隊も、自らが生み出す発展すらも捨てた貴様たちにはここで滅びよ』


 一瞬にして国立競技場は血の海へと変貌する。

 どこからともなく出現した、同じように甲冑に身を包む西日本人はたった七人。

 そのたった七人が、諸外国が用意していた警護隊、東日本が配置していた特殊部隊を一瞬で討ち果たし、その魔の手を観客までに伸ばすのに時間はかからなかった。


 そこからのデータは無い。当時の記録を本にした文献の何処にも、その後の詳細を詳しく描写するものは無い。

 ただ、一言だけ。

 〝諸外国や東日本が力を合わせ、撃退に成功した〟その旨だけ。

 〝奇跡と地獄の特異点〟と後に呼ばれるようになる事件は、そう締め括られている。

 だが、関係者は本当の事実と、本当の奇跡を知っている。


 ———次元開放術式オープンゲート


 それこそ、奇跡。その奇跡を一級に扱う事を許された者だけが通う組織〝次元守護者ゲートカウンター〟。

 そしてその下部組織として存在するのが、最後の砦ラストスタンドと呼ばれる養成学校である。

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