146 こちらの不手際 ―ホテルにゃーこや従業員side―
「…ねぇ、エア様たちが予定を繰り上げて出立したのってさ…」
「あのお嬢様のせいでしょ。アイリス様を見かけて、無言で駆け寄ろうとしてたし。止めたけど、何か必死過ぎて怖かった」
「お茶にも誘ってたんだよな。護衛の人経由だったけど、弟の名前使ってお嬢様が。エア様は断ってたけど、そもそも、いつ戻って来たのを知ったのか。エア様、影転移でダイレクトに部屋に移動したようなのに」
「護衛に気配察知か探知魔法が使える人がいるんだろ。お客様も使ってる部屋も少ないから特定出来るだろうし。…って、オーナーに対策してもらった方がよくない?」
「そうした方がいいよな。ここまで執着するお客様が出たの、初めてだし…」
「エア様、カッコいいもんな…」
「エア様、貴族みたいな格好でも似合いそうだよね」
「精霊獣目当てってこともあるかもだけど」
「鮮やかなエメラルドグリーンの目もあるかも。エルフの先祖の目の色だと言われてるし」
「…そうだっけ?」
「あ、だから、六体もの精霊獣と契約出来たというのもあるのかも?」
「なら、同じ目の色のアイリス様は?そこまで単純じゃないだろ」
ともかく、オーナーに報告を、と従業員たちから連絡を受けたシヴァはため息をついた。
「何歳でもストーカー気質の奴はいるんだな…。エアたちには謝っとこう。審査が甘くて不快な客を入れたのはこちらのミスだ」
シヴァはホテル内を統括管理しているフォーコに確認した後、カリーナを拉致して自白させた。
ホテル内映像だけでは、エアたち兄妹のどの辺に執着したか分からなかったからである。
「あんなに見目が整った方は中々いません!更に、強くて精霊獣まで従えていらっしゃるのですから、手に入れれば何でも思うままです。裏から国を牛耳ることも…」
くだらない野心であり、決して実現することのない妄想だった。
少し早く『
更に、カリーナがアイリスに駆け寄ったのは、自分の侍女をやらせたかったらしい。エアと並べておきたいのもあって。
「平民には大出世でしょ。有り難く思いなさい」と断られることなど、まったく考えてない言い草だった。
もし、エアが護衛、アイリスが侍女というのが実現したとしたら、十人並よりはマシ程度のカリーナは全然目立たなくなると思うのだが、甘やかされて褒められて育ったお嬢さんはそういったことは考えないらしい。
唖然としていたコーディフェイト伯爵には「娘をしっかり教育しとけ!」と娘のやらかしたことを文書にしてクレームを入れて一行を即追い出し、屋敷前に荷物と共に送り届け、賠償金もしっかり請求した。
そして、シヴァは事前審査に深層心理テストを加え、他の客や従業員たちを特に気にしないように暗示をかけるマジックアイテムを開発した。
ここまでやってもストーカーを排除することは難しい、というのはシヴァの経験でも分かっているが、やらないよりはマシだった。
後日。
宰相経由でコーディフェイト伯爵からの謝罪文をシヴァは受け取った。
それによると、息子のフレドリクソンは普通だったのに、娘のカリーナだけおかしかったのは、家庭教師と専属侍女の偏った思想の影響をモロに受けていたらしい。
そちらには迷惑をかけたが、早めに分かったことを感謝する、と。
派閥闘争のとばっちり、というのもあるのだろう。
これだから貴族社会はどうしようもない。
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新作☆「番外編64 遅牛(おそうし)でも早牛(はやうし)でも『ぎゅうー』っとしたい」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093085391324661
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