第8章・義手冒険者の後輩指導
147 そうだ、護衛依頼を受けよう!
ベッドが硬い。
人間、
少し前までなら、この程度のベッドの硬さは気にならない、どころか、喜んでいたハズだが、柔らか過ぎず硬過ぎずの極上の寝心地のベッドに慣れてしまうと気になって眠れず、結局、手持ちの極上ベッドと取り替えて寝た。
キーラの街のいつも泊まる宿の、奮発していつもよりいい部屋でこれなので、エアはちょっとがっかりした。
しかし、もっと劣悪な環境でもしっかり寝て体調を崩さないようにしないとならない冒険者としては、ここ最近、安全な場所での超快適生活だったので、常在戦場の感覚を取り戻すためにも護衛依頼を受けよう。
そうは言っても、猫型精霊獣六体と一緒なので、敢えて劣悪環境にはしない。
「普通のテント」と鑑定偽装してあるマジックテントを使うし、こっそり快適グッズも使うし、気付かれない範囲ならイヤーカフ型の時間停止のマジック収納にある食材を使う。
人間世界経験が浅い精霊獣たちにも一般的な冒険者生活を見せて、今のエアがどれ程、快適な生活をしているのか教えてやりたい。
同時にエアも初心を忘れない戒めにもなる。
温泉があるキーラの街からの護衛依頼はあまりないので、近くの街で探した所、ビアラークの街から南にあるイルーオの街へ行く護衛依頼を受けることにした。
ビアラークダンジョンの食材を各地に運んでいるので、護衛依頼が多いのだ。中でもイルーオの街は交易の要所でそこそこ大きい街だった。
駆け出しの頃に何度も護衛依頼を受けているので、土地勘もあるし、当時、先輩冒険者たちにお世話になったので、自分も後輩に少しでも返したい。
Cランクのエアが受ければ、Dランクパーティ、規模が小さい護衛対象ならEランクパーティでも依頼が受けられるのだ。
妹のアイリスの護衛に日替わりで精霊獣を一体つけて、五体はエアと一緒に、というつもりだったが、アイリスは『ホテルにゃーこや』に戻ることになり、精霊獣の護衛もいらなくなった。
先日、変な客に執着されそうだったので予定より早く滞在を切り上げた所、『ホテルにゃーこや』オーナーのシヴァや従業員たちの方が気にしたらしく、お詫びに観光出来る街に転移で案内し、護衛もしてくれるそうだ。
従業員たちが護衛経験も積めるので一石二鳥、だそうで。
後でエアも他の街へ転移で連れて行ってくれる。しかも、エアと緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータが協力した場合に転移出来る範囲に、転移ポイントを置きつつ、だそうなので楽しみだった。
******
護衛依頼は商人一行二組、馬車二台の四人、五日の行程で、二日目の夜にコメリ村に宿泊、後は野営。
同じ時期に移動するのなら組んだ方が護衛依頼料も安くなると、利害で組んだ依頼主たちだ。
このルートは行き来する人たちが多く危険性も低いため、数日かかる護衛依頼は初めてな低ランク冒険者でも、依頼主がよければ受注出来る。
依頼主は安くなるのなら是非とも!だったのでEランクパーティが受注した。
護衛は徒歩なので馬の飼料や水の費用もいらず、食事はそれぞれで護衛費用も元々安いが、御者や馬の世話が覚えられるので、護衛経験が浅い冒険者は経験を積むため割と喜んで受ける。
エアは受付に頼んで他に護衛依頼を受ける冒険者を探してもらったが、かなり人気だったらしい。
なにせ、精霊獣が六体もいる時点で安全性は抜群で、護衛リーダーをやるのは精霊獣を使い魔に出来る力量があり、エレナーダダンジョンをソロ攻略したCランク冒険者なのだ。
「本当によろしいのですか?」
ビアラークダンジョンでの依頼を頻繁に受けていた時期もあるため、顔見知りの受付嬢や職員に心配されたが、エアも精霊獣たちもまったく問題なかった。
一緒に護衛依頼を受けるEランクパーティは、駆け出しの十二歳から十六歳までのかなり若いパーティだ。
剣士二人、槍使い二人、斥候兼弓師一人の五人。
剣士ドニヤ(16)と弓師ミズラ(14)の二人が女だが、犬と狐の獣人なので運動能力はかなり高い。
犬の獣人で槍使いクリフ(12)はドニヤの弟で、剣士バズー(15)、槍使いランガル(14)は人間だ。
このパーティ「
なのに、このパーティ名。まったく意味が分からない……。
火魔法が得意なメンバーばかり、ならまだ分からなくも…いや、分からない……。
何故、牙なんだろう?
出発前、門前で待ち合わせた時、エアを見るなり、「火影の牙」のメンバーたちに「誰?」という顔をされてしまった。
「おれはCランク冒険者のエア。今回の依頼の護衛リーダーだ。精霊獣は六体。ロビン、ニキータ、クラウン、ロッソ、ルーチェ、シエロ」
金目金茶トラ柄猫型の土の精霊獣のロビン、緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータ、金目水色猫型の水の精霊獣のクラウン、金目真紅猫型の火の精霊獣のロッソ、金目銀色子猫型の光の精霊獣のルーチェ、金目ブルーグリーン猫型の風の精霊獣のシエロだ。
エアは自己紹介と手のひらに乗るぐらいのミニミニサイズになっている精霊獣たちの紹介をして、冒険者ギルドで聞いた情報の確認と持ち物の過不足がないのかの確認を入れる。
マジックバッグや収納スキルの類を持っていない「火影の牙」なので、荷物は馬車にも乗せていいことになっている。
かさばるのは野営道具と水と食料。飲み水程度は生活魔法で出せても、魔力量が少ない人は他に回したいので水袋は持ち歩くのが普通だ。道中の休憩場所に水場もあるので補給も出来る。
ケチりたい商人の場合、出発前の馬車、馬と馬具の点検は必須だ。
その辺をエアが教え始めると、見た目は彼らと変わらないような年に見えてもエアの装備のよさと身軽さ、護衛依頼に慣れた雰囲気でCランク冒険者だとEランクパーティも納得したらしい。
「道中は比較的安全なルートとはいえ、空飛ぶ魔物や地中から出て来る魔物もいるし、人通りが多いと即席強盗も出るから、くれぐれも警戒は怠らないように」
注意して護衛の配置を決めてから出立する。
まずはペース配分が分からないだろうから、エアたちが先頭。馬車二台を囲むように護衛を配置。一台に三人ずつということだ。
「火影の牙」たちに経験を積ませるため、精霊獣は配置せず、猫サイズに戻ってエアと一緒に歩く。普通に歩いているだけに見えるが、馬に負担をかけないよう普通に馬車が進む速度だ。
どうせ、後ろの人たちには見えないのでエアは【結界魔法】の練習をしがてら歩く。
精霊獣の足元に階段のように張ったり、大きさを色々工夫したり、と。
馬車が引っかからないよう、すぐ消えるようにするのも魔力操作の練習になるのだ。
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☆4コマ漫画2本更新!
https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093085672460056
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