148 見せびらかすのも先輩の役目

 他事ほかごとをやっていてもちゃんと警戒しているので、街道の木の上で獲物が来るまで木や葉っぱに擬態して待ち構えていた蛇の魔物は投石でさくさくと落としておいた。

 小蛇でも毒蛇なので噛まれると三日ぐらい苦しい思いをする。

 毒消しを使うともっと早く毒が消えるが、他に毒を持つ魔物はたくさんいるので使い所もよく考える必要がある。


 ちなみに、エアが左手を失った時に噛まれた毒蛇は比べものにならないぐらい隠密性が高く、毒は猛毒だったので、切り落とすことも毒消しを使うことも迷うことはまったくなかった。


「こういったのがいるから気を付けろ」


 蛇の死体は「火影ほかげの牙」のメンバーに回して注意を促した。

 しっかり頭を潰して死んでいても、しばらく胴体が動くのが蛇。麻袋に入れてやったが、全員が恐る恐るだった辺り、本当に経験が足りない。


「エアさん、魔法で落としたんですか?」


 蛇入り麻袋を後ろに回してホッと安堵した後、槍使いのクリフがエアにそう訊いて来た。

 さん呼びはともかく、敬語はいらないのだが、依頼主たちのエアへの態度で全員、敬語になったのである。

 依頼主たちはビアラークの街に拠点があるだけに、エアの噂をよく知っていたので、ものすごく丁重だった。ケチなのに。


「投石。石を投げた」


「…えっ?いつですか?」


「落とす前に。魔法が苦手なら投石は覚えておいた方がいいぞ。石はどこでも手に入るし、利用方法も様々だ。鍛錬し続けてるとスキルが生えて命中率も上がる」


「でも、魔物相手に石投げてもあまりダメージがないですよね?…って、あれ?エアさん、さっきの蛇の頭を潰したの、石なんですか?」


「ああ。威力もどんどん上がる。さっさと威力を上げたいのなら鉱物でつぶてを作ってそれを投げればいいけど、費用はかなりかかることになる。ほぼ使い捨てだからな」


「そうなりますよね…。投石は魔法より覚えるのは簡単です?」


「魔力が少ないのなら投石一択だ。マジックバッグや収納系スキルがあって【チェンジ】の魔法を覚えると、いくらでも石が手に出せるようになるからな。【チェンジ】は生活魔法程度の少ない魔力で着替えが出来る魔法なんだけど、装備を自由に替えられるだけじゃなく、アイテムや物の出し入れも自由自在なんだよ。マジックバッグじゃなく、普通のバッグやリュックでも口を開ける必要もなく、触るだけで出し入れ出来る」


 【チェンジ】の魔法について知らないようだったので、エアはちゃんと説明してやり、果実水が入った瓶を【チェンジ】で手に出した。


「それはかなり便利ですね!」


 エアがついでに果実水を飲むと、ニキータたちも欲しそうだったので、もう二本、果実水を出し、


「クラウン、ウチのみんなに配って」


と頼んだ。

 水の精霊獣のクラウンは心得たもので、果実水の玉にして精霊獣たちに配る。エアではここまで繊細な水操作は無理だ。


「…魔法!すごい…」


「クリフも水分補給しとけよ。暑い時期は特にこまめに」


「あ、はい」


 戻って来た蛇入り麻袋は影収納に入れておいた。

 毒蛇はそのまま燃やすと有害ガスが発生する。かといって街道近くに捨てると腐った臭いと腐臭ガスが通る人たちに迷惑をかける。結構、始末に困るものなのだ。

 毒袋を取り除いてから燃やすのが一般的である。

 毒抜きすれば身は食べれないこともないのだが、小骨が多過ぎでさほど美味しくないのでそこまで手間をかけて食べない。

 毒袋を潰したり切ってしまった場合は、もうどうしようもないので離れた所で燃やす。



 休憩の時、エアは馬車の馬の世話のやり方と「火影の牙」たちに毒蛇の始末のやり方を教え、一匹ずつやらせた。

 毒袋の中の毒はたくさん集めて煮詰めれば、まぁまぁ使える毒になるが、やはり、そこまで手間なんてかけず、埋めるのが一般的だ。


 それから護衛たちも休憩。

 エアがテーブルと椅子を出して座り、精霊獣たちにも冷たいお茶とお茶菓子を配ると、かなり驚かれた。

 今日のお茶菓子はシューアイスだ。シュークリームの中身は見えないし、飲み物の温度も分からないので問題ない。


「…エアさん、マイペース過ぎませんか」


 犬獣人で剣士のドニヤがそんなことを言って来た。


「休む時はゆっくり休みたいものだろ。テーブルと椅子なら、マジックバッグ持ちの大半が持ち歩いてるぞ」


 その辺の石や丸太や地面に座るより、ゆっくり出来るので。


「お菓子もですか?」


 狐獣人で弓師のミズラがそんなツッコミを入れた。


「稼ぎ次第だな。甘党は多い。ビアラークダンジョンは砂糖がドロップするし、果物も簡単に採取出来るから、菓子もそこそこ安いが、他では高級品だ」


「見せびらかして食べるって酷くないです?その『猫』にはあげて」


 槍使いのランガルが文句を付け、「こら、やめろ」とリーダーで剣士のバズーが止めに入る。エアは鼻で笑ってやった。


「精霊獣だ。身内に何をあげてもおれの自由だろ。見せびらかすのも先輩の役目。

 羨ましいのなら強くなって安定して稼げるようになればいいだけ。おれがマジックバッグを手に入れたのはまだ一年前、精霊獣たちと契約してから一ヶ月ぐらいしか経ってない。そんな短い期間でも安全に一財産稼がせてもらってるんだから敬って当然」


 精霊獣たちがアイリスの護衛をしてくれるだけでも、十分以上にお役立ちだ。


「……猫、にしか見えないんですが……うおっ!」


 しぶとくランガルが言うと、「何か文句ある?」とばかりに金目水色猫型の水の精霊獣のクラウンが5mぐらいに大きくなって、ランガルに顔を寄せたので石に座っていたランガルは後ろにひっくり返った。


「高位の精霊獣は言葉が分かるんだよ。もっと大きくもなれる」


 ふんっ!と鼻で笑ってから、クラウンは元通り猫サイズに戻り、その頭をエアは撫でた。


「言葉に気を付けろ。超気が短い冒険者だと殴られてるぞ。自分の使い魔を侮辱されたようなもんだからな。ポーションがあるからいっか、と治る範囲で何度も痛め付けるタイプの冒険者もいる。後でギルドに訴えても証拠がないし、『後輩への指導』の範囲は人によっても様々だからな」


「は、はい。気を付けます…」


「殴って教える先輩の方が熱心な指導だという見方もあるが、ただでさえ、使ってなさそうな頭にそうダメージを与えるのも何かと思うんで」


 嫌味じゃなく、エアは本当にそう思っていた。自分のように若く見える細身で中背の男じゃなければ、もっと言葉に気を遣っていただろうから。



 休憩の後は、配置転換して出発した。

 エアは最後尾、交替交替で先頭を変わる。ペースが遅れたり速くなったりした時は、精霊獣が先頭に行って調整したので、昼時には予定通り、街道の側にある空き地に到着した。





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☆4コマ漫画2本更新!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093085672460056


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