222 ダンジョン内販売

 フォボスダンジョン1階フロアの終盤になって来ると、切り立った崖に出た。

 谷底に2階への階段があるのが見えたが、崖に強いヤギ、カモシカ系魔物、イワヤギ系魔物がたくさん獲物を待っている。

 アリョーシャダンジョンにいたジャンピングゴートもたくさんいた。他のイワヤギ系魔物よりジャンプ力とバランス感覚が優れており、わずかな出っ張りでも足場にしてしまうので、中々動きが読み難い魔物だった。


 まぁ、エアが手間取る程の魔物じゃないので、満遍まんべんなく狩って行く。

 多少は食材もドロップするのでヤギチーズが出ないかな、と期待してみた所、ドロップ確率は低いものの、少しはドロップした。牛系魔物チーズも美味いが、こちらも美味いのだ。

 食材ダンジョンの方がやはり自分には向いているらしい。


 ステータスを上げるマジックアイテムも高く売れるが、エアのステータスが既にかなり高く、そういったアイテムを必要としていないので、少々盛り上がりにかける。



 ******



 2階は草原フロア、と見せかけて所々穴の空いた草原の下に地下遺跡のあるフロアだった。

 隠密にけた虫系魔物が襲って来るが、ビアラークダンジョン深層でもっと手強い魔物をたくさん相手にしていただけに、エアは何だか拍子抜けした。


 この魔物にも他の冒険者たちは結構やられるらしいが、そこはステータスが高いCランク、やはり、死ぬ程のダメージは受けない。


 しかし、一つのフロアが広く、クセのある魔物も多いため、ここまで来る間に予想以上にポーションを消費してしまう冒険者は多かった。


「ちょっと待ってくれ!ポーションに余裕があるなら売ってくれ!」


 通りすがりの冒険者に対して、そう呼び止める冒険者が多くなった。

 崩れた建物が多い遺跡なだけに、通れる場所も限られていたのだ。エアのように空を飛べなければ。

 アリョーシャの街のハーピーの大群襲撃でたくさんポーションを放出したのだが、その後もエアは錬金術の修業がてらポーション類をたくさん自作した。  

 三組に十分な量を売ってもまだたっぷりあるぐらいに。


 エアには【回復リング】があるし、少し回復魔法も使えるし、光の精霊獣のルーチェが高度な回復魔法を使える。なので、精霊獣たちとの鍛錬以外には滅多に怪我をしなくなってるので、ポーションは持て余し気味だった。買い取りに出そうと思っていた所なので、ちょうどよかったとも言える。


 ポーションの代金は金ではなく、ドロップ品で物々交換にしてもらった。あまりポーションはドロップせず、価格は街より高くて当然なので相手も大喜びである。

 エアが希望する交換ドロップはマジックアイテムじゃなく、鉱物や魔石。そこそこの値段で売れるものの、魔道具の交換魔石の数個以外はダンジョンの中では何の役にも立たない。

 エアのように錬金術を使えるのなら別だが、早々いない。


「なぁ、しばらく、ダンジョンの中にいる?」


 マジックバッグの容量ギリギリまですべてポーションを詰めるワケにも行かないので、供給先を確保して置きたいのだろう。


「いや、日帰りのつもり」


「日帰りぃ?ここまで来るのに数日はかかるのに…って、まさか、空飛ぶ魔道具持ち?」


「そんな所」


「臨時でウチのメンバーにならない?」


「こら、勝手に勧誘すんな!」


「だって、大容量収納と空飛ぶ魔道具持ちだぜ?ソロでここまで余裕で来てる所といい、超逸材だし!」


「だから、逆におれらが足手まといだろ。装備からしても金持ちそうだし」


「……くっ、否定出来ない…」


「もし、サポート依頼を出したら受けてくれるか?ウチのパーティには料理が出来る奴がいるから、食事事情は改善すると…」


「残念。おれ、そこそこ料理上手で作れる料理の種類も多いし、パンも焼けるし、菓子も作れる」


 更に時間停止のマジック収納、各種【食品メーカー】があるので食事事情に関しては、冒険者の中でも随一…シヴァもアカネも一応冒険者か。まぁ、結構な上位に入るだろう。


「…是非ともうちに来て欲しい…」


「出来る、であって、塩味スープ、焼き加減がその時々で違う焼き肉程度だしな…」


「そろそろ昼時なんで料理も売って欲しい…」


「代価はどういったマジックアイテムがいい?武器や防具でも…」


 ダンジョンに潜って結構経つのだろう。切実らしく必死過ぎた。


「オーブは持ってる?どのぐらい?」


「譲れるのは五つかな。でも、さすがに日持ちしない料理との交換は…」


「容量はリュック程度で少ないけど、時間停止のポケット型マジック収納がある。そこに料理や果物を詰めてオーブ二つと交換でどう?」


 エアはさり気なく鑑定したが、問題ない人たちなのでもちかけてみた。

 もし、鑑定偽装していて闇討ちされたとしても、別に倒せば問題ない。


「え、激安過ぎないか?時間停止タイプは容量が少なくてもかなり高額なんだけど、知らないとか?」


「もちろん知ってるけど、おれにとってはオーブの方が価値が高いんで。大きめの鍋なら二つ、後はパンや果物が少し入るぐらいかな」


 詰めてみたことがないので、予想だ。

 エアは作業テーブルを出すと、その上に作り置きのオーク汁鍋、ホワイトシチュー鍋をイヤーカフ型時間停止収納から出した。料理メーカー製で試しに色々出して収納してあった。熱々である。

 鍋は土の精霊獣ロビンにたくさん作ってもらった土鍋だ。

 パンもパンメーカー製の焼きたてパン。腹持ちする方がいいだろう、と中にソーセージや野菜炒めや玉子やツナといった惣菜が入った惣菜パンをチョイス。トングで紙袋に適当に詰めて時間停止のポケット収納にしまい、続いて鍋もしまう。

 不足し勝ちなビタミン補給で食べ頃の果物をいくつか、でいっぱいだ。

 ぽかーんと口を開けて見ていた連中は、そこで我に返った。


「時間停止収納持ちかよっ!」


「そりゃ容量少ないのは価値が下がっちまうか…」


「もっと持ってるのなら、是非とも売ってくれ!オーブ五つだけじゃなく、宝石や鉱石も便利なマジックアイテムも色々あるから!もちろん、金貨でもいい!」


 五人パーティで時間停止とはいえ、リュック一つ分のマジック収納では一食分がせいぜいだろう。

 では……。


「常温でも日持ちする食材も色々持ってるぞ。全部そのままで食べられる」


 魚の切り身やきのこや野菜のオイル煮漬け、果物のシロップ漬け、野菜の甘酢漬け、野菜の漬物の瓶をずらっと並べてやった。更に露店で売ってる紙に包んだパウンドケーキも何本か。

 味が馴染んだ方が美味しい食べものばかりである。


 思わず、といった感じで拍手される。

 金貨5枚分と言われたので、相応分を並べた。

 リーダーがそそくさと支払うと、パーティメンバーたちは自分たちのマジックバッグに争うように収納する。


「時間停止のマジック収納がもう一つあるのなら、是非とも欲しい!言い値でいいから!」


 そうねばられたので、エアはオーブ三つでもう一つリュック一つ分容量の時間停止のポケット収納を売った。

 値上げになったのは肉料理を希望したからである。カウシチュー、オーク肉の生姜焼き、ローストボア、ハンバーグ、鳥羊トカゲ蛇カエルウサギといった色々肉の唐揚げ、フライもたっぷり入れてやった。

 食べ盛り五人で遠慮なく食べたら、二日ぐらいでなくなってしまうだろう。計画とは無縁そうだ。


 じゃ、これで、とエアはさっさとその場から離れる。

 エアたちもそろそろお昼にしたいが、近くにいると更に売れと言われそうだし、魔物の群れが襲って来たら手伝わされそうだった。






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新作☆「番外編69 手をとりて 煌めく古都や ささめ雪」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093089938515440


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