200 すごくすごく画期的ですよ!

「相場が分からないから、商業ギルドの人に見てもらった方がいいんじゃない?そう高く売るつもりはなくても、知ってて売るのと知らなくて売るのとは違うし。もちろん、信用の置ける人で」


 アイリスがいいことを言ったので、エアたちはアリョーシャの街の商業ギルドに向かった。

 従業員たちにはマジックペーパーの量産をしてもらい、アイリスと猫型精霊獣たちだけ連れて来た。


 そして、受付でサックスかその父のトロンを呼び出してもらうと、ちょうど手が空いていたらしくサックスが来る。

 奥の応接室に案内してもらう。


 サックスは三週間前にイルーオの街からアリョーシャの街まで、家族で引っ越しした時の護衛依頼の依頼主だ。五日の行程をたった一日半、大きくなった精霊獣にサックスたちを乗せたので、ほとんど揺れない快適な旅になった。

「何かあれば力になります」と言われていたが、ここまで早く力を借りることになるとは思わなかった。


 アイリスを紹介し、早速、サックスにマジックペーパーを見せ、試しに使わせてみると、サックスは大興奮だった。


「これはすごくすごく画期的ですよ!レシピ登録は当然して下さるんですよね?」


「ああ。でも、この魔法陣は正確に描いても魔力ムラがあれば発動しない。スタンプ化するのもちゃんと魔法陣全部がはっきりくっきり写るよう精密に作り、インクも満遍まんべんなく付けてスタンプし、マジックペーパーの配合もしっかり量ってこの通りじゃないと発動しない。繊細で緻密な作業が出来ないと無理、と強調した方がいい」


「そ、そこまでですか…」


「簡単に見えても魔道具だからな。で、1枚いくら付ける?」


「そうですね。保存する場合はどのぐらい保つでしょうか?紙が折れないようにするのは当然として」


「保証出来るのは一週間程度だな。インクの劣化、魔力の抜け具合の速度までは検証出来てない。魔法契約で使う上質な魔法紙なら十年は保つだろうけど」


 環境によるので断言は出来ない。

 【状態保存】を付与してあるケースに入れれば、もっと保つだろうが、使い捨てのマジックペーパーにはそこまでしない。

 作成したマジックペーパーは、エアとアイリスの時間停止のマジック収納にそれぞれ入れてあるので、販売してから一週間は確実に保つだろう。


「それはかなり上質ですね。一週間でも簡易魔道具のマジックペーパー。手間や人件費も考えれば、1枚金貨1枚以下では売れないんじゃないですか?」


「逆。赤字にならない程度でなるべく安価で出したい。魔術の馴染みが薄いから少しは普及させたい、というのもあるんだよ。5枚で金貨1枚ぐらいなら庶民にも手が届くだろ?露店で気軽に売るぐらいだし」


「露店で、ですか?かなり、賑わって、奪い合いになりそうですよ?」


「おれも精霊獣たちもいるから大丈夫。売り子も戦闘力がない人は使わないしな」


 一応、露店の始め方を聞いたが、スペースは押さえなかった。

 アリョーシャのような活気のある街じゃなく、もうちょっと寂れた街の方が落ち着いて商売がし易い。

 売るのは容量の少ないポケット型マジック収納が大半なのだ。駆け出し冒険者、商人もそこそこ多く、交易の要所ではなく、噂が広まるのが遅い街。

 その条件に合うのは、エイブル国ニーベルングの街だろう。


 街の側にニーベルングダンジョンがあり、すべて洞窟タイプのフロアで、30階以上からはアンデッドが出るが、何度か攻略されている。

 ダンジョンドロップ採取の納品依頼が多く、街中はそう賑わっていない。

 場所は王都エレナーダから東だ。

 かなり南のイルーオの街で貸しマジック収納屋を始めたので、このぐらい離れた方が地域が集中しなくていい。

 露店の手続きはどこの街でも大して変わらないだろうが、一応、後で訊きに行くか。

 今度、レシピ登録に来る、と言い置いてから、商業ギルドを出た。


 おとなしくやり取りを見ていただけのアイリスだが、何か考えているようだ。


「何?」


「あ、うん。予想以上に混雑する状況になりそうだなぁ、と思って。わたしは売り子をするのはダメ?」


「ダメ。アイリスは裏方。目立たない売り方をした方がよさそうだしな。口コミで広まって騒ぎになって来たら即座に撤収」


「目立たないって、その辺の雑貨を売るみたいな感じで、冗談っぽく『意外と便利で涼しくなれますよ』とか『騙されたと思って』とか?ポケット型マジック収納は『見た目より入るんですよ』って?」


「そうそう。従業員たちの作ったアクセサリーも売るだろ。結構、紛れるんじゃないかと…希望」


「紛れるかなぁ?アクセも他では見かけないアクセだし。製紙魔道具があるんだから可愛い便箋とかカードとかも作って売ればよくない?紛れるよ」


「印刷する必要があるだろ。それとも、スタンプ作って押すか?」


「それ、いいね。ちょっとワンポイントあるだけで可愛いし。色はインクを混ぜればいいの?」


「染料なら何でもいい。そう濃い色じゃなくてもいいなら、花や草、野菜の皮でも。従業員たちはとっくに色々作ってると思うぞ。売り物にしているのかどうかはともかく」


 働く環境が快適過ぎて、自由時間が多いそうなので。

 まぁ、ホテルにゃーこやは高級宿なので客が多くて忙しくて困るようなことはないし、重なった場合の調整もちゃんとしているワケだ。





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新作☆「番外編67 色葉散る村、森の主」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093088696513502




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