199 錬金術は使ってこそ

「そういえば、この魔法紙、魔法契約用だからトレントが入ってるし魔石も砕いて混ぜてあったな…。コストも結構高い。Cランク魔石。インクも元々魔力が含まれた鉱石から作るインクだった」


 魔力伝導率を上げる素材を使っているのだから、どうしてもコストがかかっていた。


「……Cランクってオーク?」


 アイリスのイメージとしてCランク魔物代表はオークらしい。


「オークですね。ワイルドボアも。使い捨てならもっと低いEランク魔石で作れませんか?魔法紙の質も落として」


 子供ばかりの従業員の中では年かさになる十三歳のサーシェが、そう提案した。


「じゃ、まず紙を作る魔道具から作ろう。植物系魔物なら魔力が含まれてるのは知られてるけど、他の植物も多少、魔力が含まれてるから、どれなら使い捨てで適度に発動するか、色々と試してみないと」


 買いに行っても紙を作る魔道具の在庫があるか分からないし、魔道具の本を色々取り込んであるマルチツールの【タブレット】にも作り方が載っていたので、それならエアにも作れる。


 作り方を改めて見ると、結構、大掛かりなものなので、魔術でショートカットが出来る所はして、空間魔術も使ってコンパクト化した。アイリスもだが、子供ばかりの従業員たちにとっても、あまり大きいのも使い難いので。


「…エアさん、思った以上に錬金術のレベルが高いですね」


「何かと規格外のオーナーだからああも簡単に、と思ってましたが、エアさんも規格外ですね…。ぼくたちも、一応、錬金術の勉強をしているんですけど…」


「ポーションとちょっとした補修がせいぜいで…才能の差ですかね…」


「いや、努力と社会経験と切実さの差だろ。ポーションは持ち込めばいいけど、武器や装備のメンテは自分で出来ないと、長いことダンジョンに潜っていられないし」


 どうしても、使って行くうちに劣化も破損もするので。


「戦うのに錬金術は使えませんか?魔物の毛皮や装甲を劣化させたり」


 サーシェと同い年で冒険者活動ではサーシェと組むことが多いリミトが、そう訊いて来た。


「生きてる魔物を劣化させるのは無理。魔法や魔術と違って、錬金術は発動も遅いし、手で触れてないと詳しい情報が分からない。そうなるとどう劣化させていいのかも分からない。魔物自体の魔力が防御してるのに錬金術を仕掛けるのも難しい。

 錬金術を使って戦うのなら罠だな。石や木を武器に錬成して、とやってる間に手数を増やした方が倒せる」


「……そうですか」


「魔法や魔術より、錬金術の方が魔力消費も大きいから現実的じゃないな。味方が大人数で武器が足りない時は補助に回った方が多く倒せるかもしれないけど、その魔力で殲滅した方が早いかもしれず」


「…殲滅ですか…」


「ごめんね~。ウチの兄、自分が普通じゃない自覚が薄いから」


 エアは別にやたらと殲滅しているワケではないのだが、実情を詳しく聞いていないアイリスの兄のイメージがズレているのだろう。


「ダンジョン以外では他に被害が出る前に、魔物も盗賊も殲滅するのが普通だぞ。完全に出来るかどうかはともかく、ずっと狙われてる方がストレスだし」


「それは確かに」


 エアはサクサクと製紙魔道具を作り、色々と素材や配合を変えて試してみた所、一度か二度使えるだけの使い捨て魔術紙…マジックペーパーが完成した。

 紙のサイズは成人女性(アイリス)の手のひらサイズ7cm四方の正方形、素材はその辺の雑草、インクは一番出回っている安いインクでインクに溶かす魔石はEランク、効力範囲は成人女性が両手のひらを合わせたぐらい、と中々の塩梅あんばいだった。


 氷結ペーパーは水魔法が使えなくても、魔力を流して起動して凍らせたい対象にマジックペーパーの魔法陣側を向ければ、効力範囲が凍る。

 カップサイズのかき氷なら十杯分ぐらい、飲み物に氷を入れるなら二十杯ぐらい。小さい容器だと容器ごと凍り付くので注意だ。

 カップやバケツをひっくり返して魔法陣に水を垂らせば範囲内が凍る。肉や魚も範囲内が凍るので、大きい物は徐々に凍らせて行くのがいいだろう。

 アイスクリームを作る場合は魔力を流す止めるでオンオフが出来るので、凍らせ具合を加減しながら作ることになる。


 温風ペーパーは五分間、温風が出て、髪や身体を乾かすのなら手のひらに貼り付けて使うと使い易い。髪を乾かすのなら長髪で二回は使えそうだ。


「1枚銀貨2枚でどう?」


 にゃーこやのかき氷の自動販売魔道具は、銅貨2枚で売っていたので、十杯作れるのなら銀貨2枚。目安にしてみた。

 ちなみに、にゃーこやは今年の夏もかき氷の自動販売魔道具の設置をしているが、街中だとトラブル満載なので、ダンジョン前で売っている。街中にあるダンジョンだと浅層のセーフティルームだ。


「安過ぎですって!」


「5枚一組で金貨1枚。このぐらいだと思うぞ。レシピを登録すると、すぐ似たような商品が出て来るだろうし。氷結魔法陣自体は昔からあるから凍らせる魔道具があるワケだ。

 でも、中々出回らないのは魔道具師や錬金術師が貴族や有力者に囲われて秘匿してるから、魔法陣の知識自体が廃れて、上手く使える人が少なくなっただけで」


 この氷結魔法陣自体は改良していないのだ。効果範囲を限定しただけで。

 温風の方は書物に載っていたが、シヴァが効率化した魔法陣を使っているので、にゃーこや名義で商業ギルドに登録予定だ。


 マジックペーパーの権利は開発したエアにあるが、実験を手伝ってもらったし、色んな意見も参考になったので、何か報酬を渡すつもりである。金貨だと拒否されそうなので。

 当然、アイデアを出したアイリスには利益の何割か渡るよう手続きをするつもりだが、変に目立つようならエア名義にしてまとめて渡そう。






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新作☆「番外編67 色葉散る村、森の主」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093088696513502



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