198 あれ?使い捨てじゃない
『ホテルにゃーこや』は快適なのは言うまでもなく、エアにとっては古代魔法の勉強にも実践にも鍛錬にも都合がいい場所だった。
更に、つい先日、妹のアイリスがにゃーこやの従業員になったので、様子も見れる。
アイリスもエア同様、もう働く必要はまったくないのだが、遊んで暮らすのも性に合わないし、あちこちに行ってみたい、異文化や面白い物が見たい。
しかも、にゃーこやの従業員待遇は破格。快適生活に慣れてしまったので、もう前のような生活は出来ない。
にゃーこやとしても、アイリスの鑑定スキルがお役立ちで、接客・商売知識に明るく、家庭料理も豊富に知っているので従業員たちに教えてもらいたい。アイリスも苦労しているだけに元孤児が困ったり、戸惑ったり、悩んだりすること、足りない知識も分かるし、子供たちとも上手くやれる。
それに、信用出来る大人の従業員も欲しいし、アイリスを取り込んでおけば、エアも精霊獣たちも動いてくれるワケだ。
エアとしてもアイリスのやりたいことがやれて、淋しくもなく、安全が確保されているのは大きい。そう、お互いメリットだらけだったのだ。
従業員たちが内職で作ったアクセサリーは、お土産として出しているが、高級ホテルに来る金持ち客たちの人気はイマイチ。ターゲット層もセンスも違い過ぎるのだ。
なので、色んな街で期間限定の露店を出している。今後はアイリスに売り方や売れ筋商品を教えてもらうことになる。
その露店でさり気なくポケット収納を売るのはどうだろう?
長期なら強盗が出るだろうが、短期間なら口コミで広まる前に撤収出来る。
普通の店なら相場を考えないとならないが、単なる露店でそんな協定はないし、エアとしては弱者に安く売りたいのだ。稼げるようになるので。
しかし、売り方次第では奪われるだろうから貸しマジック収納にしたワケだが、大量に出せば、狙いが分散されるので…いや、しかし、強欲な人間は全部回収しようとするかもしれない。
ポケット型マジック収納なら、見た目は単なるポケット。使う時に魔法陣が出るので、所有者本人以外には見えないよう認識阻害を付与するべきだろうか。
「300個以上もあるんでしょ?全部やるの?」
アイリスからそんなツッコミが入った。
確かに面倒臭いし、素材も全然足りない……。
「それより、魔法陣を使う他の目玉商品があったら、マジック収納が目立たなくなるんじゃない?便利なもので……そうだ、温風が出る魔法陣で魔道具を作ったらどうかな?パッと見じゃ魔法陣の違いなんて全然分からないし。作るのが簡単ならみんなで作って売るのもありじゃないかと」
「なるほど。そうだな。温風ぐらいなら難しくないから、一定に魔力を流せるのなら作れると思う。使い捨てにするのはどう?トレントで作った魔法紙に魔石インクで描けばいいだけ。紙を作る魔道具は普通にあるから材料にトレントを入れるだけでいいと思うし」
エアは魔法契約の用紙になる魔法紙を錬金術で作ったので気が付かなかったが、そういえば錬金術じゃなくても手作業でも作れるのだ。かなり、工程があるものの。
「あ、じゃ、凍らせることは出来るの?水を凍らせて削ればかき氷が簡単に出来るってことだよ?アイスクリームだって」
「!!アイリス、いい所に目を付けた!」
凍らせる氷結の魔法陣は当然あるのだ。
普及しないのは、魔道具にすると製作費も維持費も高くなるから。
今は八月、夏真っ盛り!
使い捨てでも低価格で魔道具が手に入れば、かなり需要があるだろう。
では、とホテルにゃーこや本館多目的ルームへと場所を移し、手の空いている従業員たちも集めた。
早速、エアは在庫の魔法紙で温風と氷結の魔法陣を魔石インクで数枚描き、それを見本にアイリスや従業員たちにも描かせてみる。
エアの描いた魔法陣は問題なく発動し、氷結の方は発動させてから水魔法で出した50cm程の水の玉を上に置き、真ん中まで凍らせたが、他の人が描いたのは温風の1枚だけしか発動しなかった。
「魔力ムラと正確な形が描けてないのが問題だな。…あ、形はスタンプを作ればいいか」
エアは弾力のあるスライムを使った樹脂っぽいものを素材に、錬金術で魔法陣のスタンプを作った。持ち手からスタンプ面に魔力が流れるようにしなくても、インクに魔石が入っているし、魔法紙に押すのでちゃんと定着する。スタンプ面が強度不足なので強化の付与をしておく。
出来上がると、そのスタンプに魔石インクを塗ってぺったん、と魔法紙に押す。
よし、魔力ムラはなさそうだ。
「スタンプなら魔石インクをスポンジに浸して、
そうアイリスに言われたのでスタンプ台も作る。
そして、ぺったんぺったん、と魔法紙にスタンプして使い捨て魔術紙を作成。
スタンプ台を使った方がよりムラなくスタンプされるし、魔力ムラもない。
「…ちゃんと発動するね。えーっ?こんなに簡単に出来ちゃっていいの?」
「いやいや、アイリスさん。エアさんのスタンプとインクと魔法紙の品質がいいからですって」
「使い捨てじゃなく、しばらく使えそうですが」
確かに。
――――――――――――――――――――――――――――――
新作☆「番外編67 色葉散る村、森の主」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093088696513502
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます