121 ドラゴン肉はみんな違ってみんないい!

「わぁっ!すっごくキレイな色ね!」


 アイリスに連絡を入れたので驚きはしなかったが、新しい精霊獣たちのカラフルさには驚いていた。

 水色の水の精霊獣クラウン、ブルーグリーンの風の精霊獣シエロ、銀色で子猫型の光の精霊獣ルーチェ、真紅の火の精霊獣ロッソ、とさくさくと紹介する。緑目のニキータ以外、全員金目だ。


 『ホテルにゃーこや』の地下、海の近くは海に入ってちょうどいいぐらいに温度を上げてあるが、涼しい格好なら暑くて堪らないという程でもない絶妙さだ。

 自由にしていいとエアが許可すると物珍し気に精霊獣たちが砂浜、波打ち際、海の上とバラバラに行動し出す。しみじみと個性豊かだ。


「あ、ロビンとロッソはちょっと待って。精霊獣たちの食器を作って欲しい。強化ガラスか丈夫な白い陶磁器で」


 タブレットで色んな食器が載ってる所を見せ、こういったのでどう?と具体的に提案してみた。

 飲み物はスープボールのような強化ガラスのお椀、食事する食器は白い深皿で。

 珪石を砕いて水と混ぜて粘土にし、形を作って乾かして焼くのが陶磁器で、形を作る所までなら土の精霊獣たるロビンが出来るハズだ。多少の水も使える。

 手順を説明すると、しっかり分かったらしく、ロビンはすぐ素材となる珪石や珪素を集め出した。


 エアは強化ガラスの器を作ろう。

 温度管理をロッソに頼む。割れないよう魔法で温度の調整は出来るようになったが、たくさん作るのならロッソに頼んだ方が作業が速い。

 アイリスは少し離れた所でデッキチェアに座ったまま見学し始め、子供従業員は精霊獣たちの世話を焼く。勝手に遊ぶと思うが、お客様だし、自分たちが一緒に遊びたいのだろう。


「うーん、シンプル過ぎるような…」


 精霊獣たちの食器はちゃんと出来上がったが、ただ真っ白な食器というのも……。

 デザインって何?な芸術と無縁な暮らしをしていたため、エアにとっては苦手分野だ。

 まぁ、柄は後でも入れられるので……。


「こういったのはどう?みんな猫型なんだし」


 アイリスが紙を出して、柄を描いていた。シルエットな猫が連なってる柄だ。お椀の外側にちょっとあるだけでオシャレになる。


「おお、可愛いな。何?こういったの勉強したことがあって?」


「ちゃんとは勉強したことはないけど、雑貨屋やってると、色々見る機会はあったからね」


 色はサファイヤブルーにし、エアが錬金術で錬成して柄を入れた。色の選定は単に塗料に使える鉱石で一番多い物である。

 いつの間にか寄って来ていた精霊獣たちにも好評なので、幸いだった。


「じゃ、バーベキューしよう!」


 大分、日も傾いて来て夕焼けになっていた。

 地下なので人工のものだが、地上とリンクしているので、早めの夕食にはいい時間だった。


 アイリスが頼んであったようで、串に差した肉や魚介類や野菜、鉄板も従業員たちが用意していた。炊飯魔道具も。炊飯も保温も出来る魔道具でもう炊けている。


 エアは三つ頭大雷魚みつあたまだいらいぎょの身とラウンドドラゴン肉も出して渡した。

 従業員とにゃーこたちが切って焼いてくれるので手間なしだ。

 にゃーこは小柄な人間サイズの二足歩行、猫型もふもふゴーレムである。学習機能が付いているからか、器用でそれぞれ個性があって可愛い。


 エアたちは別に構わないので、子供従業員たちも一緒に食べる。


「んん~~っまいっ!」


 アイリスが感嘆した。


「ラウンドドラゴン、ヤバイな。フロストドラゴンはあっさりな感じだったけど、肉の味が濃厚?な感じ」


 バーベキューグリルの上の物が半分以上なくなってから、の感想だった。

 精霊獣たちは感想を言わないが、更にバクバク食べていた態度こそが雄弁だった。


「他のお肉も魚介類も美味しいんだけど、格が違ってたね。さすがドラゴン。…っていうか、あっさりドラゴン倒して来る兄が怖い…二匹目よ?氷のドラゴン…」


「フロストドラゴンな」


「そう。フロストドラゴンに続いて」


「…ええっ?オーナーにもらったものじゃなくて、エア様、自力で討伐したんですか?」


 オーナー=シヴァだ。従業員たちは「Bさん」呼びもしている。

 子供従業員たちを一斉に雇ったので、すぐ覚えられるよう暫定名だったそうだが、定着していた。「Aさん」がアカネである。

 ちなみに、「様」付けはされたくないのだが、「規則ですので!」と従業員たちはかたくなだった。


「ああ。ラウンドボーンドラゴンだったんだけど、ちょっと思い付いて肉を希望したらちゃんとドロップで出たんで」


「…希望したら出るんですか?」


「普通は出ない。裏技?みたいな感じだな」


 どこまで話していいのか分からないので、適当に流しておく。


「シヴァさんも驚いてたぐらいなことをやらかしてるんだよ、この兄は」


「だから、ここのVIPパスをもらったワケだ。普通に利用出来る財力はあるんだけど、商売っ気がないというか」


 パンフレットを見ただけでも面白そうだったので、VIPパスがなくても割引がなくても来たと思う。安全な娯楽が少ないので。


「オープンして八ヶ月ぐらいですが、もう採算は取れてるそうですよ」


「それ、絶対に人件費が入ってないだろ。特にシヴァの」


 元侯爵家の敷地面積だけでも、屋敷の外観だけ多少残しただけで大幅に改変してあるのだ。

 リノベーション前、リノベーション後まで見れるマルチツールの【タブレット】を持っているエアは、シヴァの力が大きいとしみじみと思う。


「…あはははは。そうですよね」


 食べ切れない程、焼いても、時間停止の収納に入れておけばいいので、エアが持ってる食材をもっと出して焼いておいた。

 炭火焼きは美味しい!


「ひどーい、もうお腹いっぱいなのに~」


 アイリスがそんな文句を付ける。


「後で食えばいいだろ」


「…あ、そっか。収納に…ってバレちゃうとマズイんじゃ…。みんなも使ってるね、そういえばね…」


 冷たい飲み物や氷菓子がすぐに出て来るのは、時間停止の収納に入ってるからだ。


「はい。お客様情報の守秘義務もありますからご安心下さい」


「わたしは収納ぐらいだけどね」


「中に入ってるアイテムは割とレア物が入ってるけどな」


「くれたの、お兄ちゃんじゃん~」


「レアな点では精霊獣の方が格段に上だけど、戦闘力も高いから問題ないし。…はいはい、美味かったんだな」


 にゃんにゃん、すりすりとエアの足に頭をこすり付けたり、肩に乗って頬にヒゲを押し付けたりする精霊獣たちである。

 海の幸もドラゴン肉もご満悦だった。




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新作☆「番外編62 万物は相克(そうこく)し、相生(そうせい)する」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093083906353220


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