100 これも社会勉強
エアとニキータは散々、食べ歩いてから、アイリスに連絡してみると、今度は靴屋で悩んでいるらしい。
近くなので歩いてその靴屋に行くと、店の人も困った顔をしていた。アイリスはかなり、長い時間、迷っていたようだ。
「どちらも買えばいいだろ」
「でも、ロクに履かないうちにサイズが変わって履けなくなっちゃうのはもったいないでしょ。まだまだ育つ予定だし!」
「サイズなら何とか出来るから気にしなくていいのに」
両方でいくらか聞いて、エアが代金を払った。
「え、お兄ちゃんが買っちゃうの?」
「何か問題?」
「お金もらってるのに、更に買われちゃうんじゃ使う機会がないんだけど~」
「この先、いくらでもあるって。ほら、しまっとけ」
「うん。ありがとう」
アイリスが持っていた大きいバッグに靴をしまうと、一緒に靴屋を出る。
エアがあげたマジックバッグを持っているが、冒険者でもない若い一般人がマジックバッグを持っていると目立つので、ふるまいに気を付けているらしい。
「でも、どうやってサイズ変更するの?」
「錬金術で。武器や装備のメンテも出来るぐらい、熟練度も上がったからな。普通の靴のサイズ直しぐらいは楽勝」
「そうなんだ。なんて便利。そういえば、ガラスのマグカップも作ってたっけ。割れた瓶から作るの?」
「そっちからでも作れるけど、素材は川砂や海の砂だ」
「砂なんだ?」
「ガラスの素材が混じってるから精製する所からやるワケ。で、アイリス、まだ買い物するのか?」
「うん。お兄ちゃんがいるなら、ちょっと細い路地に入った所にある店も見てみたい」
護衛がいても、一応、気を付けていたらしい。
「いいけど、アイリスが欲しがる物なんてないと思うぞ」
エアは一通り見て回っている。しょっちゅう変わるような小さな店ばかりで、結構なボッタクリ価格だったりもするのだ。
「そう?どういった物があるのかも知らないんだし」
これも社会勉強かと、エアがアイリスを連れて細い路地を入って行くと、どんどん雰囲気とガラが悪くなって行く。
人通りが少なくなり、いかにも薄汚れた路地裏だ。店はたくさんあるが、大半は看板を上げておらず、訊かない限り、何を売っているのかが全然分からない。
異質過ぎるエアとアイリスは、かなり目立っていた。
「も、もういいよ…わたしが悪かったわ…」
値踏みどころか、勝手に値段を付け始めた路地裏の連中にアイリスは青ざめたが、エアの腕に絡むようなことはしない。
エアの邪魔にならないようにした方がいいと判断したらしい。
「そんなに
勝手に値段を付け始めた連中限定で、エアは石を投げておいた。十分以上に手加減して。コブぐらいは出来ただろう。
立ち塞がる連中は、問答無用でエアが蹴り飛ばす。
「…手加減、してるんだよね?」
「そうじゃなきゃ、内臓バラまいてる」
「……だよね」
エアの言葉に路地裏の連中は鼻で笑ったりはしなかった。
散々難なく撃退しているだけじゃなく、本当に日常のことのようにあっさり言うエアに、事実だと悟ったのだろう。
ガタイがよくなくても戦闘力が高い種族も有名な二つ名持ちも少数ながらいるのに、『ガタイがいい=強い』と思ってる人の方が多い。
路地裏の連中はようやく青ざめてそそくさと足早に逃げて行く。
また他の連中が絡んで来ようとして、エアが撃退し、と繰り返して大通りに戻った。
山間にあるキーラの街は温泉があって食べ物も美味しいため、不便な立地でも商人たちは仕入れや行商に来るし、貴族や金持ちも温泉目当てに来るが、どうしても閉鎖的になるので、街の規模の割にはこういった暗部も広めだった。
温泉があって地熱が高いため、冬でも過ごし易い、という理由もあるのだろう。
アイリスは引き続き、買い物や散策をする気分じゃなくなったらしいので、宿へと戻ることにした。
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新作☆「番外編59 ある日のある夫婦の会話3」更新!
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093082522779440
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