099 猫に玉ねぎは毒だぞ

 お昼に市場の近くでアイリスと待ち合わせて合流すると、アイリスの肩に乗った金目金茶トラ猫型の土の精霊獣のロビンと、エアの肩に乗った緑目夜色子猫型影の精霊獣のニキータは、挨拶するかのように手を…左前足を挙げた。


「どっちもおれが契約者だし、それが分かったから挨拶ってこと?」


「に」


 そうらしい。

 お互い紹介しておく。


「何でまた召喚したの?」


「ソロだと手が足りない時もあるから。命令しか利かないかと思いきや、結構、融通利くから便利だし、可愛いし」


 何も試しもしないでアイリスの護衛に精霊獣をつける程、エアは無謀じゃないので、散々色々と試していた。


 29階氷山フロアのイレギュラーボス…フロストドラゴンのエラードロップで、「妹の護衛になりそうなものが欲しい」と希望すると、ロビンを召喚するアイテムが出た。

 マイナス30℃の超厳しい環境のフロアでは、到底、召喚出来なかったので、一旦ダンジョンを出た時に召喚していた。

 そして、アイリスがケジメを付けようと色々動いている間に、エアは再びビアラークダンジョンに潜り、色々試しているのである。


「え、じゃ、ロビン、返さなくてもいいってこと?」


「ああ。アイリスに魔力がもっとあれば、契約主も変えるけど、そこまでないしな。おれが中々捕まらない時は魔石でいいし、そう魔力を使わないのなら普通の食べ物で全然いいようだから」


 ロビンの休憩場所としても使える召喚ペンダントはアイリスに渡して着けているが、契約主はあくまでエアだ。

 契約主じゃなくても魔力譲渡は出来るが、さほど多くないアイリスの魔力を譲渡するといざという時に困る。【チェンジ】も生活魔法程度とはいえ、魔力を使うのだ。


「そうなんだ。欲しそうに見てたの、気のせいじゃなかったんだね」


「やれよ」


「いや、だって、そこまで説明されなかったし、一度食べさせちゃったら次からも食べさせないとダメなのかも?と思って」


「とうに食べさせてるって」


 エアはロビンの頭を撫でつつ、「よろしく頼む」と魔力も少し渡す。

 そして、人気の食堂に行き、行列に並ぶ。今日はまだ短い方だ。



 店の人に断ってロビンとニキータを誰でも見えるまま連れ込み、精霊獣たちの分も注文した。胃袋があるワケではないので、少しでも一人前でも問題なかった。

 大きい従魔でも怖い使い魔でも、臭ったり、他の客に迷惑かける生き物でもない限り、別に気にしないし、彼ら(彼女ら?性別なし)の分も頼むのならいいお客さん扱いである。


 今日のランチは、蒸した肉と野菜を薄いパンに挟んだサンドイッチと色々野菜とベーコンのスープ。

 行列が出来るだけあって、この店もかなり美味しい店だった。

 ロビンとニキータの食い付きもいい。


 …いや、いつもよかったか。人間と関わらない限り、食べられないので新鮮なのもあるのだろう。

 いたずら好きで知られる妖精は勝手に食べるが、精霊は独自ルールでもあるのか、そういった常識は持ち合わせているのか、店の物や他の人たちの物を勝手には食べない。


「あ、おい、兄ちゃんら。猫に玉ねぎは毒だぞ」


 近くの客がそんな注意をした。


「猫じゃなく精霊獣だから平気。お気遣いどうも」


「いやいや。…精霊獣?使い魔ってこと?」


「そう。嗜好品しこうひんみたいな感じらしい」


「へぇ、そうなのか。…キレイな色の猫にしか見えないな」


 普通の猫も色んな色がいる。飼い主が染めていることもあるが、混血が進んでいることもあって。


「精霊獣と神獣ってどう違うんだ?」


 これまた近くの客がそんな疑問を呈した。


「魔力量と仕えてる相手が違う、んじゃないかな?神獣の方が圧倒的に魔力は多くて、仕えてるのは神様だろ。精霊は精霊王?一時的にこうやって契約することもあるけど」


 使い魔契約は仕えてる、というのとはまた違うとエアは思う。

 精霊王?という所では、ニキータもロビンも頷いていた。


「へぇ。言葉が分かるみたいだな」


「でも、普通は精霊魔法が使える人以外は、精霊は見えないもんだろ?何でこの子たちは見えるんだ?」


「見えるようにしてるから。料理だけ減ってるのは変だし」


「あーそれは確かに」


 それ以上は詮索になるからか、深くは訊いて来なかった。

 精霊獣たちも満足な昼食だったらしく、元のように肩に乗っても尻尾をリズミカルに振り、機嫌がよさそうだった。



 昼食後、アイリスとロビンは買い物の続きに戻り、エアとニキータは冒険者ギルドに行った。

 従魔は魔物だけなので、使い魔の場合は登録する必要はない。必要な時に召喚するのが使い魔なので、他から把握出来ないこともあるのだろう。

 エアは無難なドロップ品だけ買取に出した。

 一気に出すと目立つので、色んな街で売ろうと取ってあったのだ。

 王都エレナーダに行くのは、エアにとっても都合がよかった。

 大勢の商人も冒険者も集まり、各地からドロップ品も集まるので、そこまで目立たない。


 買取査定の間にエアは依頼掲示板を見に行く。

 護衛依頼も多いが、山道補修の作業員も大勢募集していた。

 ようやく、本腰を入れて直すことになったらしい。貴族の馬車も立ち往生していたので、クレームが入ったのかもしれない。頑張れ。


 短時間で終わる依頼は討伐ぐらいしかないが、ランクの低いものしかないので、出しゃばるのはやめた。今は残っていても受けたい冒険者もいるだろう。

 やはり、買取額が他の街より少しよく買い取ってくれたが、口座に入れておいた。既に大金も金目の物もたくさん収納の中に眠っているので。


 その後、ニキータは市場は初めてになるので連れて行った。

 精霊獣なので腹を壊すことはないだろう、とニキータの好きなだけ屋台や出店で軽食を買ってやる。

 ついでに、エアの時間停止収納に料理ストックも増やしておいた。




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新作☆「番外編59 ある日のある夫婦の会話3」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093082522779440


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