098 臨機応変の精霊獣ニキータ

 やがて、窮奇きゅうきの死体が消え、大きな魔石、長細い木箱、大きめの宝石箱がドロップする。

 エアが魔石をしまって長細い木箱を開けると、希望通りの武器だった!


雷虎らいこの魔剣・物理魔法耐性がある相手でも貫通する切れ味のいい大剣。熟練度により雷系特殊効果スキルが育つ】


 魔剣、だと?スキルが付いた剣はそう呼ぶのだろうか。呪われてたりしない、ようだが……。

 取りあえず、収納にしまい、宝石箱を開けると希望通りにバングルだった。黒い石が付いている。


【精霊獣の腕輪・精霊獣を召喚することが出来る腕輪。

 契約前は召喚して好きな個体を選ぶことが出来るが、契約は一体のみ。

 精霊獣はこの腕輪の石の中で休むことで回復する。魔力や魔石を与えてもいい】


 ロビンのマジックアイテムとは少し違うアイテムがドロップした。

 ロビンは個体限定だったが、今度は選べるらしい。


 バングルを右手に装着して魔力を注いで召喚すると、夜色の毛皮にエメラルドグリーンの目の子猫が机の上に召喚された。

 どこかで見た色彩、と考えるまでもなく、エアたち兄妹と一緒の髪と瞳の色彩だった。


「おれに合わせたんじゃなく、元々の色?」


「にゃ」


 子猫のステータスが頭の中に伝わって来る。

 影の精霊獣はロビンよりも更に戦闘特化のようだが、影収納も影転移も使えるし、護衛も問題なさそうだ。

 使い魔契約も承諾したので、すぐ名付けて契約する。


「お前の名前はニキータだ。いい名前だろ?」


「?」


 小首をかしげるニキータ。名前の良し悪しなんか分からないよ、ということらしい。子猫型なので、どんな仕草も可愛い。


「これからよろしくな」


 挨拶代わりに頭を撫でて魔力を少し渡すと、ニキータは気持ち良さそうに目を細めた。


 集中して戦闘したせいで腹が減ったので、エアは作り置きのホワイトシチューと焼き立てパンを出して食べる。

 興味深い感じだったので、小皿に取り分けニキータにも舐めさせてあげると、美味しかったらしく「もっと!」とばかりにねだられたのでもっと分けてやった。

 熱耐性があるらしく、熱くても全然平気らしい。


 お腹がいっぱいになると眠くなって来たので、エアはボス部屋を出た所で影に潜り、マジックテントを出し、クリーンをかけてからその寝室の極上ベッドで寝た。

 一応、エアはニキータに護衛を頼んだが、気付けば一緒に寝ていた……。

 危険はまったくない判断だろうが、臨機応変の精霊獣である。


 ******


 エアは二時間ぐらい熟睡した後、しばらく来れないので25階の牧場フロアで食材補給、及び、新しい【雷虎らいこの魔剣】を試したが、その威力の高さに驚愕した。


 牧場自体が吹っ飛ぶとは誰が想像する?


 幸い、セーフティハウスの建物と転移魔法陣がある厩舎も無事だったが、それはエアの背中側にあっただけで、方向が同じなら吹っ飛んでいたかもしれない……。


 ニキータは別に何とも思わなかったようで、散らばるドロップ品をニキータの影収納に入れて集めてくれていた。

 手分けしてドロップを全部集めた所でニキータの収納からも出してもらい、食材は時間停止収納に入れ、素材はエアの所定の影収納へと仕分けた。


 農場・果樹エリアでは吹っ飛ばさないよう、今までの武器を使った。

 ニキータの戦闘力はやはり高く、群れを相手にする時はかなり助かる。連携をもうちょっと練習せねばなるまい。

 まずはその前に友好を深めてから。


 これでしばらくは大丈夫なので、エアたちはビアラークダンジョンを出て影転移でキーラの街の宿に戻る。

 驚いたことに一回の影転移で行けた。

 影の精霊獣のニキータとの相乗効果だろうか?と一瞬思ったが、自分のステータスを見た所、とんでもなく上がっていたことが判明した。


 窮奇きゅうきがかなりかなり強かっただけあり、経験値もかなりのものだったのだろう。

 …ということは、牧場を吹っ飛ばしたのは【雷虎の魔剣】だけではなく、エアのせいもあった、と。


 気を付けないとな、と苦笑しつつ、大浴場へ向かった。

 連絡した所、アイリスは街で買い物をしているので、まだしばらくかかるだろう。

 昼食は一緒に食べる約束をしたので、適当な所で切り上げるか、中断することになるが。


「え、来るの?風呂だぞ?」


「にゃ」


 脱衣所から大浴場へ入ろうとした所で、ニキータが肩に乗ったままだったのに気付いたが、別にいいらしい。

 精霊獣なので重さは変えられ、綿よりも軽い。

 ニキータは子猫の姿だし、目立たないか、と連れて入ったが、数人いた客も誰も気にしてなかった。


「ひょっとして、おれにしか見えない?」


「に」


 そうなってるらしい。

 エアが洗い場で身体を洗い出すと、ニキータは大浴場に興味津々であちこち覗き始めた。質量はあるのでよく見ると足跡が付いてる。

 湯気のように質量をなくすことも出来るのだろうか。消えることが出来る、ということはそうなのかもしれない。


 おっかなびっくり、という感じでニキータは内風呂の大きい湯船の水面を、前足でちょいちょいつつく。小さな波紋が出ているが、客に冒険者はいないので気付いてなかった。


 髪と身体を洗ったエアが湯船に入ると、ぴょんっとニキータが肩に乗って来る。尻尾が濡れるがいいのだろうか。

 ニキータは尻尾でお湯をかき回すように遊んだ?後、ぴょんっとお湯に飛び込んだ…ように思っただけで、実際は水面の上にいた。

 ひょいひょい自慢げに歩く。体重を消せるのなら、そんなことは楽勝か。尻尾を浸していたので泳ぐことも出来るのだろう。

 外の露天風呂に入りに行くと、ニキータもお湯の中に入って来た。

 ぷかーっと腹を上にして浮いている。


「耳の中にお湯が入らないのか?…大丈夫か」


 ロビンはこんなことをしそうにもないので、精霊獣も性格は様々なんだな、とエアは笑った。




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新作☆「番外編59 ある日のある夫婦の会話3」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093082522779440


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