猫型精霊獣たちが仲間に!

097 誰にも攻略させる気がなかった?

 ビアラークダンジョン30階のダンジョンボスは窮奇きゅうき

 東の端の国の北にある国の妖怪と言われる魔物で、伝承や書物によって色や姿は様々だが、このダンジョンボスは暗い濁った青に黒い縞、所々に銀の筋が入り、額に捻れた赤い角が二本ある黒い翼が生えた大虎だった。

 体長は約6m。

 雷魔法と高速戦闘を得意としているため、対応したスキルを持っていないと瞬殺だろう。

 【魔物図鑑】の情報をもとに色々と計画を練ったが、さて、どこまで有効だろうか。

 エアは今一度、装備とアイテムを確認してから、ボス部屋に入った。


 まず目に入ったのは赤い何か。

 角だと認識する前にエアは影の中に潜り、新しく覚えた【影拘束シャドーバインド】で窮奇きゅうきを拘束する。一本や二本の影の触手じゃない。何百本だ。


 それでも、大半は引きちぎられ、そのわずかな時間が欲しかったエアは影の中からあるアイテムを窮奇きゅうきの鼻先に投擲する。

 刺激臭玉だ。

 嗅覚の鋭い魔物にはかなりのダメージを与える、とシヴァにもらったマルチツール【タブレット】で調べて、素材を集めて作ったものである。


 ひるんだ隙に窮奇きゅうきの腹側の影に影転移して、義手の剣シャドーソードを伸ばして切り裂く。

 しかし、抜かりなく障壁が張ってあったので、毛皮が多少削れただけだった。


 跳びすさろうとした窮奇きゅうきに、収納から大量の土砂を上から落とし、土魔法でガッチガチに周囲を固め、同時に内側に向けて【土槍アースランス】を発動。

 だが、障壁を貫通する程でもなく、毛皮も固いため、窮奇きゅうきにほとんどダメージなし。


 では、と土砂にいくつか穴を空けて、そこから【強化版爆発の実】を入れ、着火。

 穴は即座に塞ぐ。密閉した方が威力が上がるからだ。それは圧力鍋で学習している。


 【爆発の実】は山ならどこでも生えている野草で、一つ二つなら驚かせる威力しかないが、音が大きいので低ランク魔物を追い払うにはもってこいのものだった。


 これがあったからこそ、母親を亡くしたエアたち兄妹は子供たちだけで村を出て近くの街まで行き、その街から出奔した時も親切な人に保護されるまで無事だったのである。

 強化方法は錬金術の本に載っていた。

 爆発ポーションより威力が高い……ハズ。


 ドゴオォォォォンッ!ゴオォォォォンッ!ドガーンッ!ガーンッ!ガガーンッ!…パチパチパチッ!ボォォォォ~フュ~……。


 かなりの音と爆風だったが、窮奇きゅうきのダメージは一割もなさそうだ。

 なんて丈夫な魔物だろう!


 傷口に毒をすり込み、吠える大きな口の中に火球、氷槍、毒水、土砂も詰め込んでみたが、中々ダメージを与えられない。

 ダメージを与える端から再生してしまうこともあるが、窮奇きゅうきは基本的にタフ過ぎるのだ!


 窮奇きゅうきの身体を包む土砂を頻繁に強化していなければ、捕まえることも難しかっただろう。


 一番切れ味がいい義手の剣シャドーソードで剣技スキルも使って、土砂の隙間から身体を切り裂いてはいるものの、致命的なダメージには程遠く……何か決め手がないだろうか。

 魔石の位置は分かっても、そこまで中々切り進めない。


 魔法物理耐性ではなく、無効だったのかもしれない。

 高ランク魔物のステータスは、鑑定出来ないが、そんな気がして来た。

 無効の割にはダメージを食らわしてはいるのは、何にでも限度があるからだろう。

 そうして、地道に削ったとしても、再生してしまうため、倒し切るのは難しい。



 しばし、考えている隙…と言っても高速思考中の何百秒の一ぐらいのほんのわずかな時間だったが、窮奇きゅうきが反撃を開始し、雷が雨のように降り注いだ。

 ダメージのせいか、狙いを付けられる程には回復していないらしい。


 魔道具の結界や盾スキルでは貫通しそうなので、エアは影の中に潜る。さすがに、次元が違うここまでは攻撃が届かない。


 しかし、膠着状態になってしまった。

 今までの攻撃で一番効果があったのは【強化版爆発の実】なので攻撃の主軸にしたい所だが、もう大半を放り込んでしまった。

 強化版は【爆発の実】が大量に必要になるため、そこまで量産出来ないのだ。


 窮奇きゅうきの攻撃をよけながら、地道に削るしかないのか。


 幸い、エアは【回復リング】のおかげで、体力と魔力は底なし、怪我も治る。

 何でもやってみよう、とエアは【ドライ】の魔術を無数に発動させ、固めた土砂の隙間から窮奇きゅうきの身体をカラッカラに乾燥させてみる。

 すると、防御力が高過ぎた毛皮がボロボロになるではないか!


 魔法障壁も魔法耐性もすり抜けているようなので、魔法と魔術は別物だと判定されたのかもしれない。


 よし!と更に多く【ドライ】の魔術を発動し、毛をボロボロにして丸裸に…まではならなかったが、かなり、防御力を削れたので、土砂から無数の【土槍アースランス】を発動!

 今度はちゃんと身体に通った!


 間髪入れずに【風槍ウインドランス】で傷口を広げ、義手の剣シャドーソードを大きくして切り刻む!


 土砂で固めていても窮奇きゅうきに身体を捻ってよけられたので、左前足と翼を付け根から切り離した。

 悪あがきにも雷がビシバシ落ちて来るが、【チェンジ】で魔法防御力が高いケープをかぶって対処。


 ゴォッ!


 いきなりの突風でエアは吹き飛ばされた!


 大木にぶつかる前にエアジェットブーツ発動で、足場を確保し、衝撃を逃がす。無茶振りされた内臓が悲鳴を上げる。


 そこで、ようやく、ボス部屋は森林に出来た空き地みたいになっていたことに気付いた。天井も高い。

 エアは大木を切り倒して収納し、窮奇きゅうきの真上から大木を投げ、間髪入れずに横に移動して大木を投げて影に潜り、真下の影からも大木を投げた。


 大木は先をまったく尖らせてもいなかったが、直径3m以上はありそうな太さと重さは十分以上、武器としての役割を全うし、そのうち一本が窮奇きゅうきの胴体を押し潰した!


 ザクッ!


 ほぼ同時に義手の剣シャドーソード窮奇きゅうきの頭を切り落とす!


 風魔法で更に義手の剣シャドーソードのスピードと切れ味を上昇させたおかげである。

 雷も吹き荒れていた風も止む。


 抜かりなく警戒しながら、エアは静かに転がった窮奇きゅうきの首と三分の一ぐらい潰れている胴体を見つめた。

 熟練度の低いエアの鑑定スキルではよく分からないので、【鑑定モノクル】で鑑定してみた所……。


「エラー。え、何で?」


 窮奇きゅうきはかなりかなりしぶとく、高速戦闘していたので、半日ぐらいかかったような気分だが、ちゃんと時計を見ると討伐までは一時間程度だった。


 なので、今までに分かっているエラー条件の「短時間討伐」には当たるまい。

 大木で「押し潰した」せいだろうか。それとも、【ドライ】の魔術なのか。それも含めた全部の攻撃方法なのか。

 それとも……。


「薄々、というか、あからさまに感じてたんだけど、こうも強いダンジョンボスって誰にも攻略させる気がなかった、から?」


 窮奇きゅうきを倒したという事実自体が、ダンジョンの想定外だった、ということで。

 おっと、考察は後回しで、ドロップ希望を述べる。


窮奇きゅうきのような物理魔法耐性、無効を持った相手でも、効果がある超強力な武器が欲しい!」


 相手が強くなり過ぎで義手の剣シャドーソードや武器でも、弱らせないとダメージが通らなかった。ここはやっぱり、強力な武器が欲しい。


「それと精霊獣!属性は影。猫型で小さくも大きくもなれて、戦闘サポートから護衛まで出来る賢いタイプ。召喚アイテムはバングルで」


 もう一つは精霊獣。

 土の精霊獣のロビンはアイリスの護衛につけるので、もう一体、エアの相棒として欲しい。窮奇きゅうき程、手ごわい魔物は滅多にいないだろうが、この先もソロでやって行くのなら手が足りない時もあると思うのだ。特に護衛依頼の時は。

 ロビンと同じように、精霊獣自体がドロップするのではなく、召喚アイテムがドロップするハズだ。ペンダントはもう満員なのでバングルがいい。


 精霊獣の主食は魔力なので、直接魔力を注ぐか魔石を食べるが、効率的ではないものの普通の食べ物を食べて魔力を補充することも出来ることはロビンで試し済だ。


 名前は何にしようかな、とエアはテーブルと椅子を出して座り、お茶しながら考える。

 さすがに、精神的に疲労したので報告書は後回しにした。




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新作☆「番外編59 ある日のある夫婦の会話3」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093082522779440

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