092 このまま年取って、と思うとゾッとする
「で、アイリスの方はどう?」
「見ての通り、元気でやってるよ。でも、そろそろ…あ、ううん、えっと…」
兄には言い難いし、心配もかけるし、でアイリスはためらったのだろう。
「結婚して二年経つから、子供は?って周囲に色々言われるようになって来た?」
エアの方から水を向けてやる。
「…なんだよね。旦那が中々いないんだから、しょうがないでしょ!とわたしは言いたい!お義母さんたちも申し訳なさそうにしながらも、何か期待してるみたいだし、ヘンリーは『アイリスは若いんだからまだ子供は気にしなくても』とかトボケたこと言ってるし。若くないのはあんたの方よ!」
「うんうん。ヘンリーさん、そろそろ三十路だしな。そう言った?」
「もちろんよ。でも、反省するのはその時だけで、相変わらず、不在は多いし。
…お兄ちゃんの消息が分からなかった時は、自分が色々と我慢してたって気付かなかった。もっと色んな街に行ってもっと色々知りたい。わたし、鑑定スキルがあるんだから商業ギルドでも働けるんだよね」
「人間関係が大変そうだけどな。働き詰めなんだから、ゆっくりしてもいいだろ。人生考え直すのなら早い方がいいけど」
「そこなのよね。ヘンリーは好きなのよ。旦那としては頼りないけど、わたしだって子供が出来るかどうかも分からないし。色々と成長不足だしね。でも、このままじゃダメだと思う。だって、まだ十七歳よ?この街からほとんど出ず、やりたいことも出来ずに、このまま年取って、と思うとゾッとする……」
「アイリスは聞き分けがよ過ぎるのもあるんだろうな。逃げ場がない状況だったから、しょうがないとはいえ。取りあえず、離婚するかどうかはさておき、家出したら?」
ヘンリーは危機感が足りないとエアは思う。
そんな穏やかな人柄が結婚前は頼もしく思えたものだが、エアもアイリスももう世間知らずな子供ではない。
食べるだけで精一杯、隙を見せれば
ヘンリーはただ優柔不断なだけだ。
「うん、考えてた所なのよね。お兄ちゃんなら、どこにでも連れて行ってくれるし。わたし、王都に行きたい!」
「ビアラークダンジョンを攻略したら、連れて行ってやる。でも、その前に一応、話し合ってからの方がいいだろ。ヘンリーさんはまたいないようだけど」
「いても、はいはい、で流されそうだけどね…。お義母さんたちともよく話してみる」
「息子そっくりの呑気な人たちだから、本気にしなさそうだけどな」
「そうなのよね…」
真逆の苛烈で嫌な性格で嫁イビリするような義両親も嫌だが、呑気過ぎるのも限度があるワケで。
「まぁ、何かあれば連絡しろ。おれは温泉に行ってるけど、影転移の距離がかなり伸びたから一分以内に来れるし」
「…一分?連続は無理って言ってなかった?」
「解決した。ここからキーラの街まで三回ぐらいで行ける」
「そうなの?じゃ、王都まででもすごく速く行けちゃう?」
「行けるけど、転移ポイントがないから、アイリスは影の中で眠ってるのが一番速いな」
「…んん?ポイント?眠るってどこで?どういった意味?」
「そのまま。影収納もおれと一緒に移動するんだよ。外の影響を受けない。一人で待ってるのも不安だろうから、寝てたら?という話。影の中でマジックテントを出すから、料理でも何でもやってていいけど」
「ってことは、わたしは寝たまま移動出来ちゃうってこと?」
「そう。おれが魔物と戦っていようが、盗賊の首を
「それならちょっと安心。で、だいたいの予想だと何日ぐらいで行けそう?」
「馬車なら三週間ぐらいの所で、キーラの街とニーベルングの街に寄れば、三日ぐらい。【地図】スキルが生えたからもう迷わないし」
【地図】スキルはダンジョンだけで有効、というワケではなく、ダンジョン外でも大きなお屋敷内でも自分のいる位置が正確に分かるのだ。
「じゃ、街に寄らなかったら?」
「余裕を見ても三十分ぐらいかな」
「…どれだけ距離を伸ばしてるの…」
「【高速思考】スキルのおかげ。連続影転移に脳味噌が付いて行けるようになったから、めまいがしなくなって解決したんだよ」
「そうなんだ。でも、わたしは酔うから影の中にってことね」
「そう」
じゃ、また、とエアはさっさとキーラの街へ行くことにした。応接室からダイレクトで。
応接室に入ったのにエアが出て来なかったことは、適当にアイリスが誤魔化してくれることだろう。
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新作☆「番外編58 新しい風を運ぶさすらいの修理屋」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093082087156009
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