073 何だ、その誇っていい、っていうのは

 収納の整理を終えるとエアはダンジョンを出て、まずは人気の食堂に食べに行った。

 その後、冒険者ギルドへ行き、買取してもらう。

 昼食前の空いてる時間である。


 目立ちたくないので15階までのドロップで大した物は出さないが、数が多いので買取金額は中々のものになった。人が少ないだけに注目はされてしまったが、絡まれはしない。

 再びダンジョンに戻り、1階2階で食材集めをしてから、スールヤの街へ。


 エアジェットブーツと影転移の併用で五分ぐらいで到着する。

 影転移の距離が着実に伸びているおかげもあった。

 混む前にギルドで売り、カーデナル商会へと行く。

 アイリスに連絡を入れてあったので、すぐ商談用の応接室に通された。


「卵と果物!」


「はいはい」


 ヘンリーが来る前に!とばかりに、食材をねだられ、さっさとアイリスの収納へと入れた。

 続いてダンジョンドロップを出す。体力+3、防御力+5といったほんの少し能力をプラスにするアクセサリーや、魔物除け(低ランクのみ)のアミュレットの類が人気があるそうなので、その辺を中心にした。

 そう高いものでもなく、重複装備可能で手に入れ易いこともあるのだろう。


 冒険者ギルドの買い取りより少し色を付けた程度でエアはいい。通常だと冒険者ギルドから回って来るアイテムは、手数料がプラスになるし、人気アイテムは中々回って来ないので、直接買い取りだとカーデナル商会の儲けが増えるワケだ。

 ヘンリーとその両親たち用の土産に、そこそこ日持ちする食材も渡す。


「それで、兄さん。何階まで行けたの?」


「20階のフロアボスを倒した所まで」


「……は?最高到達階って22階って聞いたけど…」


「いや、23階だって。海フロア。水中装備をどうしようかなぁ、と思ってたら宝箱とドロップで出て揃ったんで、ゆっくり休んでたっぷり補給した後、行ける所まで行こうかと」


「…大丈夫なの?」


「飛べるの知ってるだろ。海の中でも使えるってさ。無理はしないし」


 そこに、ヘンリーが来て、机の上のドロップ品に大喜びしながら、アイリスが付けた金額より更に色を付けてくれた。


「いやぁ、エア君、本当に強いんだね。こんなにドロップがあるとは思わなかった」


「ビアラークの街とスールヤの街の冒険者ギルドにも売ってるけどな」


「…は?」


「ソロだとドロップ運もいいんだよ」


「いやいや、それだけで済まないだろ。相当魔物も倒してるってことじゃないか?」


「他の人と比べたことがないから、多いか少ないかは分からない」


「遥かに多い多いよ…」


「パーティだと頭割りになるからだろ」


「あ、それもあったね。パーティだとドロップで揉めるのも多いそうだし」


「殺し合いをやってるパーティもいるぞ。何度も見た」


「…世知辛い…」


「ソロの方が実入りがいいって人は極一部だけだよ。エア君は誇っていい」


「いや、あまり目立ちたくないんで。それなりに自信は持ってるけどな」


 何だ、その誇っていい、っていうのは、とエアは苦笑するしかない。

 あははは、とアイリスは誤魔化すように笑っていた。

 ヘンリーに何か言ったのか。


 ヘンリーに夕食に誘われたので、有り難くご馳走になった。

 作ったのはアイリスで、エアがあげた料理もさり気なく混じっていた辺り、内心苦笑したが。



「エア君、義手なんだよね?すごい滑らかに動いてるけど」


 箸も出ていたが、ナイフとフォークで食べるミートローフも出してくれたので、エアが普通にナイフとフォークを使っていると、ヘンリーにそんなツッコミを入れられた。左手だけは手袋を外していない。


「そりゃな。かなり訓練したし。左手で文字も書ける」


 本当である。


「え、そうなんだ?」


 アイリスの方が驚く。


「元々両手を使えるようにしてたからな」


 投石も指弾も両手の方が手数が増えるというだけじゃなく、どちらかの手や腕を怪我した場合、戦力ダウンは仕方ないにしても、まだ戦える、というメリットがあった。

 ショートソードも短剣も槍もどちらの手でも使える。


 高性能の義手だが、さすがに文字を書くのは難しかった。繊細な動作が必要になるので。

 しかし、それも、最初の方だけで、地道にコツコツと練習したおかげで、今はもう生身と大差ないぐらいの文字が書けるようになっている。


「何かかなり優れた魔道具のようだね」


 ヘンリーが探るようにそんな感想を述べる。

 確かに、超高性能義手だが、道具のおかげだけじゃない。


「使う人にもよるけどな」


 魔法で動いてるため、イメージが出来なければ、まったく動かない、と製作者のシヴァが言っていた。

 生身の手を生やして、そのリハビリをする時間程ではなくても、この義手も使いこなすのに結構な時間がかかる。


「ダンジョンドロップなんだよね?」


「ヘンリー!詮索はやめて」


 アイリスが止めに入る。


「ああ、つい。悪い悪い。目の前で見ると気になってね」


 ヘンリーはヘラヘラ笑ってまったく悪びれない。

 ヘンリーもまた鑑定スキルを持ってるので、偽装した鑑定結果は見えているだろうが、何となく納得が出来ないのだろう。経験による所もあるかもしれない。


 この後もヘンリーがエアに色々と訊き、詮索し過ぎだとアイリスが止めに入る、ということを繰り返した。

 最初はエアが「金ヅル」か「役立つ人間カモ」か、見定めているのかと思ったが、どうも少し違うらしい。


 何か、ヘンリーには後ろめたい何かがあって、こちらから話題を振らないとつい話に出してしまったり、気まずくなってしまうのが怖い?…のだろうか。


 エアは冒険者として色んな人間を見て来ただけに、推測してみたが、あながち間違ってないような気がする。

 少し調べてみるか。

 エアも元住人だっただけに、この街にはツテが色々とあった。



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新作☆「番外編54 いつか巡る未来」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093080233221953


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