072 エアっておれが思ってる以上に超有能

 20階のフロアボスのマンティコアは人間の頭、獅子の身体、尻尾は毒蛇の素早いAランク魔物だ。

 素早いのなら足止めが必要なので、罠を仕掛けて…と考えてみたが、フロアボス部屋は敵のホームグラウンド。

 罠を仕掛ける隙を作るのがまず大変だし、Aランク魔物の膂力りょりょくに耐えられるような罠というのも難易度が高い。


「次回もダンジョンエラーを出したら希望のアイテムを作ってやる」


 シヴァがそんなかなり魅力的なことを言い出すので、またダンジョンエラーを出そうとエアは色々考えているのだが、中々、これ!という決め手に欠ける。


 10階のフロアボスは素通りしても次の階層に進めたが、20階は倒さないと進めない。フロアボス部屋の奥に次の階層の階段があるそうなので。


 一度倒せば、フロアボス部屋を通らずに行ける通路が開くそうなので、それはいいのだが、ここで詰まってるパーティも結構いると聞く。

 倒せず、エスケープボールで脱出するワケだ。


 エアもしっかりとエスケープボールのドロップを待ってから10階のフロアボスに挑んだが、よく考えてみれば、エスケープボールがなくても影転移で出れるのではないだろうか。

 そうか、こういった利用も出来るのか。

 しみじみとかなり使える魔法である。



 マンティコアは身体が獅子なら、猫のようにボールや紐にジャレたりするのだろうか。

 またたびが効くかも?…いや、でも、頭が人間なら効かないような……。

 魔物は人間より遥かに鼻がいいのは確かなので、刺激臭か悪臭で隙を作るのはありかもしれない。


 しかし、その程度では倒す決め手がない。

 フロアボス『部屋』でなければ、いくつか思い付くが、遺跡内の部屋なのは確定。石造りの部屋だが、ダンジョンの壁や床や天井は土魔法で操作は出来ない。


 ああ、そうか!部屋ならば、限りがある。

 操作出来ないのならば、持ち込めばいい!

 幸い…と言っていいか迷う所だが、超大容量収納がある。


 作戦の大枠が決まった所で、エアは材料調達に一旦、ダンジョンの外へ出て、しっかり調達してから再び、20階のフロアボス部屋前に戻った。


 エアはボス部屋の扉を開くと同時に影の中に潜り、ほぼ同時に収納に入れて来た岩や石や土砂を一気に大量に開放。

 マンティコアの上で、だ!

 案外広かった部屋に土魔法で壁を作って狭めつつ、岩石土砂をマンティコアがいる辺りを中心に、土魔法でどんどんがっちがちに固めて行く。

 つまり、圧死を狙ったワケだ。


 これで死なないようならマンティコアがいる辺りに土槍アースランスを生やし、地道に削る予定だったが、影の中から出て鑑定モノクルで鑑定した所、「エラー」表示。


 無事、圧死したらしい!


 いや、マンティコアは無事じゃないが、計画は成功した!

 マンティコアがいる辺り以外の土砂を収納する。色々使えるので要回収だ。


 エアは椅子と机を出してお茶しつつ、報告書を書き、さて、シヴァに何を頼もう?とウキウキしながら、考えた。

 ダンジョンドロップ品のエアウォークブーツを改良し、魔法のスクロールさえ作れるシヴァだ。ほぼ何でも作れると考えていいだろう。


 欲しかった水中装備は揃ったので、後はやはり、ダンジョンの過酷な環境に対応する装備か。

 火山や雪山といったフィールドフロアもあると聞く。

 それは事実で【冒険の書】をパラパラめくっただけでも、たくさんあったし、このダンジョンでも砂漠や氷山フロアがあった。

 何だ、このマイナス30℃とかって。

 過酷過ぎる。


 おそらく、状態異常耐性ペンダント程度では、しのげないだろう。寒暖は状態異常ではない。凍傷にはならない、といった所か。

 しかし、寒暖どちらの装備もというのは欲張り過ぎだろう。


 ドロップ品と交換でもう一つ頼んで見るとか、もう一度、ダンジョンエラーチャレンジをしてみるとか……もう方法が浮かばないのだが。

 ううむ、とエアが唸ってるうちにマンティコアを固めてあった岩石土砂の塊が消え、ドロップになった。



 手のひらサイズの宝石箱、大きめの長方体の木箱、魔石の三つである。


【フリジットペンダント・極寒の中でも問題なく行動出来るようになるペンダント】


【寒中セット一式(ウエア、グローブ、ブーツ、ゴーグル、フェイスマスク、帽子)・極寒の中でも平時と同じように行動出来る装備。

 氷や雪で滑ったり行動不能になったりしない。防御力も強化してある】


 鑑定モノクルで鑑定した所、エアはかなり驚いた!

 欲しいと思っていた物がそのままドロップしたのだから!

 なんて、有り難いのだろう!

 ドロップするまでの思考もドロップに考慮されるのかもしれない。

 早速、報告書にその旨を追記してから、シヴァに連絡した。


【…マジか。エアっておれが思ってる以上に超有能。…で、報告書は…はぁっ?よく考え付くな、こんなこと】


 エアのテーブルの上に置いた報告書を、さらっと回収して読んだシヴァの感想はこれだった。


「それはもう色々考えたって。普通の攻撃方法ならエラーにならないって言ってたから」


【それにしたって、この発想はなかったって。圧死か。収納イヤーカフで出す場所を指定出来るという所に着目したワケだな。ゴーレムだと効かなそうな手段だけど。…ん?ゴーレムを行動不能にさせたままだと、どうなるんだろうな?一定時間で討伐完了?】


「さぁ?エレナーダダンジョンのボスがゴーレムスフィンクスだから、試してみたら?」


【そうしよう。で、エアが欲しいのは火と熱耐性装備?砂漠装備?まぁ、砂漠装備は熱耐性装備に砂塵よけを付与するだけで両用可能だけど。砂漠の夜は寒冷仕様装備でいいし…となると、砂塵よけだけ独立した物の方が使い勝手がいいか】


 確かに、その方が色々と使えそうだ。風が強い場所や風が強い日もあるワケだし。


「じゃ、それでよろしくどうぞ」


 そうそう、砂漠装備は是非とも欲しい!

 エレナーダダンジョン深層にも砂漠フロアがあったが、色んなマジックアイテム、魔道具を駆使しても、中々ハードだった。

 パーシーに紹介された付与術師に砂塵よけも頼みたかったのだが、あいにくと素材が足りなくて作れなかったこともある。


【水中装備はいいのか?】


「このダンジョンのドロップで一式揃った。…あ、そうだ。訊きたかったんだけど、エアジェットブーツって水中対応なのか?」


【まったく問題なし。操作は慣れが必要かもしれねぇけど、両手が空く分、使い易いだろ。…って、エア、泳げる?】


「何とか。『川に落ちた時やダンジョンでも池や湖や海があるから、泳げないと死ぬぞ』と先輩冒険者に言われて、魔物が少ない川で特訓したことがあるし」


【へぇ、いい先輩だな。じゃ、装備は後で送る。一式となると素材が足りねぇんで】


 やはり、色んな素材を常備しているシヴァでも、すぐには作れない程、特殊な素材を使うらしい。


「急いでないけど、よろしくどうぞ。あ、マンティコアの魔石いる?」


 Aランク魔石なら色々と使えるだろう、と机の上に出した。

 大ザルはBランクだ。


【じゃ、もらっとく】


 魔石が机の上から消え、通話は終了した。

 これで、このダンジョン攻略のメドが立った。

 いや、別に攻略は目指してなかったのだが、対応装備が揃えられるとなると行ける所まで行ってみたい。



 ひと段落はしたので、エアは売るアイテムと売らないアイテムの整理を始めた。

 売る場所もこのビアラークの街だけじゃなく、スールヤの街、カーデナル商会と分けた方がいいだろう。

 アイリスもヘンリーもエアがダンジョンに潜っていることは知っていて、ドロップを期待しているのだから。



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新作☆「番外編54 いつか巡る未来」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093080233221953


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