071 毒水岩石固め、更に土槍!

「お、やった!」


 一週間かけてやっと水中装備が揃った。

 難易度が高いフロアがある場合、それまでの階層で対応装備が出ることもある、という情報を思い出したエアは、今までより注意深くじっくりとビアラークダンジョンの探索をしていた。


 10階以上は地図もないため、進みはゆっくりになっているものの、遺跡の中の方が進み易い。

 そして、罠をよけたり解除したりはせず、魔法を使ったり結界の魔道具を活用したりして、その先に敢えて踏み込むと宝箱があったのだ。


 そうやって集めた水中装備は、ピッタリとした水が入らない水中ウエア、水中ブーツ、水中グローブ、水中ゴーグル、水中呼吸が出来るマジックアイテム(チョーカー型)。

 宝箱だけじゃなく、魔物からのドロップでも水中装備が出た。これで一揃いだろう。


 10階のフロアボスは魔法を使って来る大ザル…ビッグモンキーメイジだったが、ダンジョンエラーには出来なかった。

 仲間を召喚する前に速攻で討伐したかったのだが、魔法障壁?か結界みたいなもので包まれていて攻撃を弾かれてしまい、仲間を召喚されてしまったのだ。

 仲間は大したことがなかったが、大ザルがしぶとくて、結局、時間がかかってしまい、普通に討伐。


 「ダンジョンエラーにするのは難しい」と言っていたシヴァの言葉が今更ながら、よく分かる。

 ラウンドボーンドラゴンでダンジョンエラーを出したのは、本当にまぐれだったのだ。

 リポップ待ちをするより、先に進んで対策を考えた方がいい、と思いつつ、進んでいたワケである。



 どうしたものか。

 エアジェットブーツで加速して上から槍で攻撃、という攻撃の単調さも問題だったが、魔法でダメージを与えられるのかは分からない。

 物理と魔法どちらの属性も持ち合わせている義手の剣シャドーソードなら行けるかもしれないが、障壁は突破しても大ザルの毛皮も大した防御力だったので、通るかどうか。


 喉が渇いたエアは生活魔法の【ウォーター】で木製カップに水を出して飲む。

 そういえば、ダンジョンの魔物は何を食べるのだろうか。ダンジョン外の魔物は普通に飲み食いするのは知られているが、ダンジョン内魔物が何か食べているのを見たことがない。死体はダンジョンに吸収されてしまうので、残骸も見たことがない。人間を襲っても食べるワケではなさそうなのだが……。


 あ、そうだ!水攻めはどうだろう?

 ダンジョン内の魔物も呼吸はしているハズだ。

 その水に毒を混ぜると更に効果的に違いない。

 障壁を義手の剣シャドーソードで切り裂いた後、毒水攻め。

 誰もやったことがなさそうなので、試す価値はありそうだ。


 エアは20階まで行ってから、転移魔法陣で10階まで戻った。

 ビアラークダンジョン10階のフロアボス部屋は、1階から直接来れる転移魔法陣から遠い、フロアの半ば辺りにあるのでリポップ待ちをする冒険者はいない。


 エアはボス部屋へ行くまでに作戦を再考し、毒水を収納に用意した。

 確実に仕留めるために、何段階もある連続攻撃にする。

 これがダメなら他に思い付かない、という程考え抜いた作戦。

 よし、と気合を入れて実行してみた。


 まず、速攻で影転移で距離を詰める。

 そのまま影の中から出ずに義手の剣シャドーソードを伸ばして大ザルの魔法障壁を破壊。

 間髪入れずに毒水を出して水魔法で操り大ザルを包み、更に集めた岩や石や土砂でその水を包んで土魔法で固める。


 それから、やっとエアは影から出て土魔法で内側に向けて土槍アースランスを発動。隙間がほとんどない程、トゲトゲに。

 毒水だけでは効果が薄くても、傷付ければ効果アップだ。

 そして、そのまま、影収納に入れる。


「…全然暴れる素振りがなかったんだけど…」


 失敗したのだろうか。

 魔法障壁に覆われたままで影の中に落とすのは無理だとは何となく分かったので、こういったやり方にしてみたのだが。

 ダンジョン内にフロアボスがいなければ、討伐達成になるかと思ったので。


 鑑定モノクルを装着し、大ザルを入れた影の中に入って鑑定してみると……。


「エラー。…達成でいいのか?」


 取りあえず、大ザルは影収納からダンジョンに戻した。細長い岩みたいな塊のままだ。

 本当にダンジョンエラーに出来たのなら、ドロップになるまで十五分ぐらいかかるだろうから、その間にエアは机と椅子を出して報告書を書いた。忘れないうちに。何を考えたのかも。

 当然、警戒は怠らない。


 やがて、大ザルを包んだ塊が消えて、細長い木箱とほぼ立方体の木箱と魔石が出た。

 大ザルのBランクの魔石は収納し、罠が仕掛けられてないのを確認してから、木箱を開ける。


【ホーリーブレード・聖属性が付与してある剣。アンデッドに大ダメージ】


【冒険の書三冊セット・世界中のダンジョンを紹介した本。

 リアルタイムで更新し続けるので、詳しい情報が知りたい時は便利だが、ボス情報は名前以外は秘匿されている】


 …すごいのか、すごくないのかよく分からない物が出た。

 聖剣ではなく、付与?

 冒険記とかではなく?

 冒険の書をめくり、このビアラークダンジョンの所を見ると、全30階。


 ――10階のフロアボスビッグモンキーメイジ、リポップまで165分――


 そんな表示が出ていた。

 20階フロアボス、マンティコア。

 仕入れた情報と同じで、10階のリポップカウントは見ている間も進んで行く。本当にリアルタイムらしい。


 エレナーダダンジョン、ニーベルングダンジョンの情報を見ると、知っている通り。

 今まで攻略した人の人数や日付まで分かるし、最新の攻略者は【エア(エアガイツ)】とちゃんとなっていた。ステータス表示の通りに、通り名も本名も出るらしい。

 ……すごくないか、これ。

 よく分からないが、報告書にドロップのことも記してから、シヴァに通信イヤーカフで連絡を入れた。


【マジか。もう達成したのか】


「二回チャレンジしたって」


【それでも、早過ぎるっつーの。詳細は?】


「報告書に書いた」


【机の上に置いてあるヤツ?】


「そう。…って、書類だけでも転移出来るんだ?」


 目の前で報告書が消えた。


【『える』範囲ならな。

 …っつーか、何ていう柔軟な発想。エアは若いから脳味噌も若いんだなぁ。どの時点で討伐完了したのか、おれでも分からん】


「そうなのか。で、聖属性の付与って何?聖剣と違うってこと?」


【ホーリーブレードも聖剣は聖剣だぞ。世間一般で言う聖剣は、素材から聖属性の物を使ってあると思うし、特有スキルもあると思うけど】


「スキルって剣に?」


【ああ。おれも何本か持ってる。聖剣はなく、魔剣ばっかりだけど】


「…魔剣」


 単語だけでも不穏な気配しかしない。


【破壊力が高過ぎるもんばっかなんで、収納の肥やしになってるけどな。【冒険の書】はおれも持ってる。ダンジョンボスドロップだったけど、エラーならフロアボスでもいいらしいな】


「へぇ、そうなのか。…あ、そういったことが知りたかったんだ?」


【そう。普通に討伐した時のドロップは何だった?】


 しまった。その辺は書いてなかったか。


「魔石と槍。方天戟ほうてんげきと言うらしい。上だけじゃなく、左右にも刃があって…」


【はいはい、知ってる。中々いい武器だな。ビアラークダンジョンって難易度はどうなんだ?】


「1階以外は中級ぐらい?フロアボス部屋が転移魔法陣の側じゃないのも、関係あるのかもしれない。全然、待ってる人なんていなかったし」


【そうなのか。他のダンジョンの10階だと結構混雑するけどなぁ。ここはあんまり知られてねぇ?】


「そうかも。おれは近くの街に住んでたことがあるから知ってたけど、1階の食材の豊富さだけは有名なのかも。すごい色々あるぞ。珍しい所だと、本来はもっと南の方の果物らしいマンゴーとかプラムとか」


【そりゃいいな!ちょっとお邪魔しよう】


 シヴァはすぐさま転移して来て、さっさと転移魔法陣がある方へと行った……。

 すぐさま分かるスキルか魔法でもあるらしい。

 これで対価労働の大半は終わったので、ホッとした。

 エアは腹ごしらえをしてから、ダンジョン探索に戻った。



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新作☆「番外編54 いつか巡る未来」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093080233221953


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