070 死にたいのなら自分だけで勝手に死ね!

 さて、これでエアは本格的にダンジョンへ潜れる。

 しっかり食材を採取しつつ、なのでゆっくりペースだが、迷うことなくフロアを進む。売り出されている浅層の地図をちゃんと手に入れているのだ。

 もちろん、いきなり改変されることも多いダンジョンなので、目安程度で考えている。


 フィールドフロアは、外と同じように日が昇って日が沈むし、夜には星も、フロアによってはかつてはあったそうな月も出るらしい。

 見せかけだけだろうが、何故、そんな手間をかけているのか疑問に思う。


 夕食前までに3階まで来て、結界の魔道具を使って拠点を作り夕食にした。

 このビアラークダンジョンのフィールドフロアには、特にセーフティスペースはない。

 深い階層に行く前に作り置きをたくさん作っておきたいので、ちゃんと料理する。


 一般的にマズイとされているカエル肉だが、フォークで刺して調味液に浸けた後なら、焼いても揚げても美味しく頂ける。脂身が少ない肉なので下処理がいるだけだ。

 今日はカエル肉、鳥肉、トカゲ肉の唐揚げと根菜の煮込みにしよう。主食はご飯で。ご飯もたっぷり炊いておこう。


 エアがダンジョン飯を満喫していると、通りがかった五人組パーティに口を開けっ放しで見られてしまった。灯りが見えて近寄って来たのだろう。


「…魔物?」


「料理する魔物はいないって…」


「じゃ、幻影?」


「アンデッドかも」


「浅層にアンデッドって聞いたことないって。そもそも、料理するアンデッドって、作った料理は誰が食うんだよ。死んでるからこそアンデッドなのに」


 何やら失礼なことを言われている……。


「普通に冒険者だ」


 会話がエスカレートする前に、エアは訂正しておいた。


「ダンジョン内でそんな立派なご飯を食べてる辺りで、まったく普通じゃないから」


「…あ?結界か」


 近寄り過ぎて結界に触れた。


「え、そうなの?」


「実は高ランク冒険者?」


「Cランク成り立て」


 高ランクと言われるのはBランクからである。


「そうなんだ。結界があるならお邪魔していい?」


 斥候らしき女がそんなことを言い出した。


「何言ってるんだよ!」


「いいわけあるかっ!」


「結界の中なら安全じゃない」


「魔道具でも魔法でも魔力がかなりいるんだぞ。ずうずうしいにも程がある」


 その通りだ。エアが使っている結界の魔道具はダンジョン産なので、そこまで魔力消費は激しくない魔道具だが、一般的にはそう認識されている。


「そもそも、知り合いでも何でもないソロに、便乗させろって言うのもあり得ない」


「強盗かよ、だな」


「そんな気ないのに~」


「ずうずうしい。ほら、行くぞ」


「バカが失礼しました」


「本当にバカなんで。悪気はないんです」


 男たちがペコペコ頭を下げながら、斥候女を引っ張って去って行った。


「何であんな若い子に頭下げてんのよ!ご飯だって分けてくれたかもしれない…」


 ゴツンッ!


「いたっ!」


 声が大きいので聴力強化しなくても、普通に聞こえた。殴られたらしい。


「いい加減にしろ!」


「死にたいのなら自分だけで勝手に死ね!」


「おれたちなんか瞬殺出来るから、普通にご飯を食べ続けてたって何で分からないんだっ?」


 その通りである。

 暴言を吐かれたぐらいで殺しはしないが。

 うるさいし、他のパーティも来るかもしれないので、エアはさっさと片付けて影の中に移動しマジックテントを出して、その中のダイニングで夕食を再開した。

 集めた情報より、泊まりの冒険者は多いのかもしれない。

 浅層だからお試しで、というのもあるのか。

 食休みをしてから、もう少し進んでおこう。



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新作☆「番外編54 いつか巡る未来」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093080233221953


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