035 食べ盛りなもんで

 エアは小腹が減ったのでかまどで夜食…早朝食?を作ることにする。

 テーブルを出し、そこで葉野菜を千切りにして小麦粉と水と卵、それにベーコンと調味料を入れて焼く『お好み焼き』だ。

 具材は何でもよく簡単でボリュームもあって美味しい。


「エア、マメだね」


 テントから出て来たレティが大きい石に座り水を飲みつつ、じーっと見ていた。


「食べ盛りなもんで」


 いくら見ていてもおすそ分けなんてしない。


「そういえば、年いくつ?」


「十八歳」


「まだまだこれから伸びそうだね。…で、引き継ぎは何かあったって?」


「何にも。薪を拾って魔法で乾燥させてあるってだけ。暇だったそうで」


 水魔法、風魔法、火魔法、このどれかを使う薪の乾燥加減は魔力操作の腕の見せ所なのだが、さらりとやってくれてあった。


「明日も使えそうだね。…じゃ、わたしは何しようかなぁ」


投擲とうてき練習でもしたら?割と早くスキルが生えるぞ」


「投擲って石?」


「ナイフでもいいけど、なくすともったいないだろ。石はタダだし、意外と使える」


 【チェンジ】が使えると石の補充もすぐ手の中に出せるのだ。レティが使えるかどうかは分からないが、詮索になるので訊かない。


「そうなんだ」


 レティは鍛錬するのは気が乗らないようで、薪を触る。

 エアは放っておいて、さっさとお好み焼きを作り上げると、椅子に座って食べ始めた。


「テーブルまで入ってるなんてすごいね。割と容量が大きいマジックバッグなんだ?」


「一番ありふれてるサイズだと思う。テーブルはない方が不便だから」


 料理するのも食事するのも勉強するのにも。


「そっか。…あ、ええっと、戦闘であんまり役に立たなくてごめん」


「謝らなくてもいいけど、この先も冒険者をやって行くなら、もう

ちょっと何とかした方がいいと思う」


「分かってるんだけど、何か気が抜けちゃった感じで」


「ふーん」


 いいわけか。

 依頼を受けたからにはしっかり仕事をして欲しい。


 沈黙が続いてもエアは気にせず、美味しくお好み焼きを平らげ、後片付けをした。そして、左の義手をマッサージするかのように右手で触りつつ、指の曲げ伸ばし。

 日常動作は自然に出来るようになったのだが、他がまだ鍛錬不足だった。


 食休みついでに座ったまま、離れた木に投擲。【チェンジ】で次々に手の中に石を出して当て、続いて左手の義手の方でも投擲。

 利き手じゃないので少しもたつく。

 そして、今度は右手だけで二つ同時に投擲。続いて三つ…と数を増やして投擲し、さすがに石が少なくなって来た所で拾いに行った。


「…どれだけ石を持ってるの…」


 暇なレティはずっとエアの投擲練習を見ていた。


「だから、便利だと言っただろ」


 もっと大きい石も入っているが、身体強化をかけない状態で出すのは危ないのでやめている。


 石を拾った後、今度は指で弾く指弾で的当て練習。石は小さい物になる。

 威力より手数の多さを重視し、大きく振りかぶって身体のバネを使うことはしない投擲より、指弾の方が威力があるので、こちらは硬そうな石を的にする。どちらかが割れたら的を変える。

 コントロール練習なのもあるが、【チェンジ】で目的の物を素早く出す練習でもある。元々生活魔法程度の魔法だし、小石程度は更に大して魔力を使わない。


 その後は柔軟運動をしてから、ショートソードを出して素振り。

 槍でも素振りをする。体幹がブレないよう気を付ける。

 素振りをしつつ、意識を拡大するようにイメージすると、索敵が出来、どんどん範囲が広がるようにしてみる。一石二鳥な鍛錬方法だ。


 集中していたので、レティは意識の範囲外だったのだが、レティが投げた石はすぐさま察知した。義手でキャッチし、そのまま収納へ。


「…驚くぐらいしなさいよ」


「遅過ぎるし」


 エアはそこそこ満足するまで素振りをしてから、汗が冷える前に【クリーン】をかけ、果実水を出して一服した。

 少し明るくなって来たが、朝食までまだまだ時間がある。


 まとめてパンを作っておこう。

 パンは発酵させる時間があるので時間がかかるし、ちょうど簡易竈がある。

 テーブルを【クリーン】でキレイにしてから、材料を出して計って混ぜ、こね始めた。


「…また今度は何を作るの?」


「パン」


「…え、パンって料理人じゃないと焼けないんじゃないの?」


「そうでもない。作り方を知ってれば、誰でも作れるというワケでもないけど、買うより安いし、結構、力仕事だからおれは母親に手伝わされてた」


 手伝わされていた当時は面倒だとしか思わなかったエアだが、今では料理を仕込んでくれた母親には感謝しかない。



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新作☆「番外編50 おっかめ~!はっ!ちっ!もーく!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078720484638

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