034 生ハーブティ、飲む?
護衛二日目の夜は野営。
夜の見張り当番は六人だと二人でペアで三交替が常道。
だが、しかし、戦闘力に差があり過ぎるペアでは夜番の役目が果たせないので、Dランク二人は強い人と組むことになる。
何かあれば皆を起こす役目でもあるが、起こす前に倒されてしまうのでは意味がない。
誰が一番強いのか模擬戦をやっている時間もないので、この隊商護衛リーダーのスカヤの独断でスカヤとDランクのシャロウ、槍使いのマサムと魔法使いのリアス、Dランクのレティとエアが組むことになった。
「何でおれ?」
「いかついおっさんよりマシじゃないか?もし、誰か来たら
「そこまで悪人ヅラじゃないと思うけど」
「いやいや、本当の悪人はいい人そうなツラだって」
まぁ、それは一理あるかもしれない。
……ということは、エアはいい人そうではない、ワケか。
夜番は最初がスカヤとシャロウ、夜中が槍使いのマサムと魔法使いのリアス、早朝がレティとエアになった。
明日の夜は一つズレて、エアたちが最初になる。
野営地に到着した時間が遅いので、夕食後、夜番以外はすぐに就寝することになった。
夜番をするとなると、さすがに灯りが欲しいが、まだ雨が降っているので焚き火は出来ず、多少木陰になる所で、石と木でちょっとした屋根付き
スカヤは土魔法が使えるからか、こういった作業が得意だった。
地面が濡れているため、エアはテントの側の木にロープを結び付けてテントの中に入るハンモックにする。
出入り口は少し開くが、この程度は平気だ。優秀な義手なので普通に両手でロープを結べるのだが、右手主体で左の義手は押さえる程度にするのも忘れない。義手を着ける前からのやり方だ。
ロープが結べないと冒険者はやれない。
そうして快適に眠ったエアは、しっかり熟睡したらしく、当番時間より早く目が覚めた。
身支度をしてから外に出ると、雨はすっかり上がっていて星が出ていた。
テントもハンモックも【クリーン】をかけ、ウエストポーチ型マジックバッグに【チェンジ】で収納する。
「よぉ、早いな」
槍使いのマサムと魔法使いのリアスは、竈の側で大きい石に座っていた。
「お疲れ」
せっかく竈があるのでエアは鍋を出してお湯を沸かす。
「生ハーブティ、飲む?」
生のハーブはその辺に生えてるので、まとめて採ってマジックバッグに入っている。放って置けば乾燥するので、そちらもありだ。
「美味しい?」
「蜂蜜を垂らすとそれなりかな」
「じゃ、もらおう」
「蜂蜜ってドロップ品?」
「いや、買ったもの。ダンジョンドロップで有名な蜂蜜って、ゴールデンクイーンビーだっけ?超お高い蜂蜜」
普通の蜂蜜も安くはないが、ダンジョンドロップの蜂蜜だと桁が違う。
「そうそう。憧れだよなぁ」
エアは影収納からテーブルと椅子を出し、お茶道具はウエストポーチ型マジックバッグから出した。どちらも【チェンジ】で出してるので、どこに入っていたのか、傍目にはまったく分からない。
ポットにハーブを入れて熱湯を注ぎ、ポットから各自のカップに注ぐ。そして、蜂蜜をスプーンですくい、たらり、と垂らす。一さじずつだ。
カップを配ってからエアは椅子に座り、ふーふーと息で冷まして自分の分に口を付ける。爽やかでほんのり甘いハーブ蜂蜜ティーだ。果物も少し入れると更にいいが、手持ちがない。
「おう、中々いいな。好きな味」
「そりゃどうも」
「もうちょっと蜂蜜欲しいなぁ、おれ」
「自分で買って」
「つれない」
「それにしても、エア。これからもソロで行くのか?」
「そのつもり。何か心配?」
「若いのに何か若さが足りない感じだからさ」
「死にそうな目に遭ったんで、そりゃもう色々と考えるって。知らなくて損してたこともたくさんあったし」
「そんなに?たとえば?」
「【チェンジ】の魔法。何本もスクロールがドロップしたけど、全部売ってたんだって。おれは魔力がそう多くないからどうせ使えないと思ってて」
「あーあ。超便利なのに。交流はしといた方がよかったな」
「ホントホント。それは確かに損」
「多分、対応に困って遠巻きにされてたんだよ。教えてくれた人がいたから今はもう覚えたけど」
「それはよかった。けど、そんなに何本もスクロールがドロップするものか?」
「たまたまだろ。鍛錬ついでに長いことダンジョンに潜ってたし。まぁ、今後は義手の訓練も、だな」
ぎこちなく、っぽくエアは左手の義手の指を動かして見せる。革手袋はしたままだ。
「切断面が痛いとかはない?古傷だって痛むことあるんだし」
「もう大丈夫。前は痛むこともあったんだけど、腕のいい回復術師?医者?まぁ、そんな
「…何か怪しい人と関わってる?」
「そんなことないけど、よく分からない人で。言ってることが難し過ぎて理解不能だし」
「あーはいはい、研究畑の人だな、きっと」
「変わり者だな」
当たってるような気がする……。
雑談しているうちに、「いたっ!」ガタッ!と何かにひっかかったような音と共にレティがテントから出て来た。
「ごめん。遅れた?」
「まだちょっと早いから、ゆっくり支度してくれ。頭ボサボサだぞ」
女としてどうなんだ、と思う程、二十代前半ぐらいのレティの身支度はなってなかった。肩までの髪はボサボサ、服も着崩れている。
「…おっと、失礼」
レティは悪びれず、ボサボサ頭を手でかき回しながらテントに引き返した。
槍使いのマサムと魔法使いのリアスの当番は終了なので、笑いながらハーブティを飲み干し、自分たちのテントに入って行った。
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新作☆「番外編50 おっかめ~!はっ!ちっ!もーく!」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078720484638
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