033 キレイに連携が決まるとスカッとするよな!

 エアが加わった隊商は、休憩を終えて再び出発し、別に何事もなく進み、お昼の時間になった。

 また街道脇の空き地に入って昼休憩にする。

 半日ぐらいは買った物で大丈夫なので、皆、サンドイッチや串焼きや柔らかいパンと割と普通の食事だ。


 エアは魔石コンロで作り置きのスープを温め、パンもチーズも炙った温かい昼食で、スカヤがヨダレを垂らして見ていたが、スルーした。

 もうすぐ二月に入る寒いこの時期、温かい物が食べたければ、準備するべきだった。



 隊商は午後からは護衛の持ち場を少し変え、休憩をはさみつつ進み、別に何事もなく日が暮れる前に予定通りにオグニ村に到着した。


 村に泊まる場合、宿が空いていれば宿に、空いていなければ野営になるが、宿に泊まる場合、依頼主が手配した部屋になる。

 ほとんどは乾かした草が編んである敷物の上で雑魚寝する一番安い大部屋で、今回もその通りだった。

 まぁ、屋根があるだけマシだが、それが嫌なら自費で部屋を取るしかない。


 酷い所ならエアも自費で部屋を取るが、そうでもないし、部屋数もないし、客も少ないので、今回は大部屋でいい。

 冒険者を何年も続けていると、割とどこでも寝られるようになるものだ。

 だからか、寝袋に金をかけてる冒険者も多く、エアも寝袋は少しいい物を使っていた。


 衛生面が気になる人は生活魔法の【クリーン】が上達する傾向がある。エアも一番使ってる魔法だと言ってもいいかもしれない。

 次にカップ一杯分の水が出せる【ウォーター】だ。


 村の食堂で素朴ながら美味しい夕食を食べ、居合わせた他の客とも一緒に皆でカード遊びにしばし興じてからゆっくり寝た。

 女のレティも同じ大部屋だったが、皆、寝袋にくるまるので誰も気にしない。


 護衛依頼一日目終了。

 中々いいスタートではないだろうか。


 ******


 護衛二日目は朝から曇っていたが、どんどん雲行きが怪しくなり、昼過ぎにはとうとう雨が降って来た。


 雨だけなら備えがあるからいいが、雨に乗じて移動する魔物…つまり、水属性魔物が街道まで出て来るので討伐しつつ、進むことになる。

 水属性魔物は火に弱いが、雨では効果が落ちてしまうし、物理攻撃では魔石を抜くか壊さないことには中々動きを止められない。

 しかも、数が多い。


 こうなると馬に乗っての戦闘に慣れておらず、戦闘力が落ちるDランクの剣士のレティ、同じくDランクの槍使いのシャロウが苦戦することになる。

 二人共、多少は魔法も使うが、決定打に欠ける。


「レティ、シャロウ、馬車の護衛に専念しろ!」


 長剣使いのスカヤがDランク二人のフォローに入り、水属性魔物の足を斬り捨てながら、そう叫ぶ。

 パーティリーダーをやってるだけに、スカヤの判断は早く、指示も的確だった。


 エアは使い慣れた小型盾を装着してはいたが、メイン武器であるショートソードではなく、槍で魔物を倒していた。

 残念ながら成人男性にしては小柄な方なので、騎乗しながらだとリーチが足りないのである。

 乗馬は元々得意だったので、ブランクがあっても雨の中でも特に問題なかった。

 槍もダンジョンドロップの武器なので性能もいい。


 エアには他にも遠距離攻撃手段もあるのだが、手の内はなるべく明かしたくないし、そこまでの敵でもなかった。

 殲滅するのではなく、馬車を逃がせばいいのだ。



 即興の連携だったが、エアもパーティを組んでいたことがあるだけに、自分がどんな役割を果たせばいいのか、視線と手振りで言葉がなくても通じていた。

 三人組パーティの魔法使いのリアスがファイヤーウォールで足止めして、水属性魔物たちを振り切った。

 馬車を追いながら、自然とハイタッチして行く。


「上手く合わせてくれたな!」


「そっちこそ!」


「ああもキレイに連携が決まるとスカッとするよな!」


「っていうか、エア、思った以上に強いし!」


「伊達にソロやってないんで」


 お互い称え合える関係は久々なので、エアもテンションが少し上がる。

 少し、なのはかつてのパーティメンバーをつい思い出してしまったからだ。すぐ前のゲラーチたちではなく、その前の前だ。


 メンバー全員がどんどん腕を磨いて行き、安全を重視したスタンスから討伐をメインにした方針に変えてしまったので、エアは渋々と脱退することになった。

 引き止められたが、今考えてもあの時のエアはまだ討伐メインの活動は早かった。

 今も身体が出来てるとは言えないので、いずれ他のメンバーたちの足手まといになってしまったかもしれない。


「悪い。大して役に立てなくて」


 シャロウは反省したらしい。

 レティは何と言えばいいのか迷ったようだが、軽く頭を下げた。


「気にすんな。役割分担だ」


 スカヤが笑い飛ばす。

 エアたちも気にしてない。

 同じCランクならもやっとするが、ランクが下の相手なのだからこれからだし、変に自信を持っていて出しゃばって来ないだけわきまえていると思う。

 そっちの方が足手まといだ。


 安心する間もなく、雨が強くなって来たので、進むスピードを落とさざるを得なかった。ぬかるむ足元にも注意が必要になる。

 

 しかし、いくら気を付けても、馬車の車輪がぬかるみにハマってしまうのはどうしようもない。

 身体強化をかければ、簡単に脱出出来るが、馬車が傷むし、積荷もあるため、慎重に進む必要があった。



 そうして、予定より遅れて予定の野営地に到着した時は、もう周囲は真っ暗で、いい加減、腹が減って仕方なかった。

 ドライフルーツで腹の虫をなだめてはいても、やはりちゃんと食べたい。


 まだ雨が降っているので、エアは馬を木陰に繋いで世話してから、テントを張ってその中で調理した。

 頭頂部の側面が開き、雨を入れずに換気が出来るタイプのテントは、こういった時に役立つ。

 撥水効果が高い合羽は振っただけで水滴をすべてはじいた。


 …一体、どんな製法でと少し気になるが、説明されても自分には分からないだろう。

 「これもモニターやって」と押し付けられたものだが、重宝している。



 今日の夕食は簡単リゾット。

 ベーコンと野菜のスープに炊いたご飯の残りを入れるだけだが、空腹という最高の調味料がある状態では至高の逸品だった。

 前は大して買わなかった米だが、ちゃんとした料理法を知り、その美味さとレシピの幅広さと腹持ちと保存の良さも知ると、在庫を切らさないようになった。


 本当に無知なのは損ばかりだった。


 ちゃんと三食食べられなかった時代が響いて、年齢の割には背が低く肉付きもイマイチなエアを気にした取引相手?スポンサー?食の伝道師?が料理レシピも色々と教えてくれたのだ!


 おかげで、エアはそろそろ成長期が終わる十八歳なのに、身長が徐々に伸びている。

 前までとは体力も全然違うし、動きのキレも視力もよくなった気がする。

 やはり、食べないとダメだな、としみじみと思い知った。

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