027 『人類の敵』になったら面白いかな~ ―???side―

「よしよし。地道にせっせと頑張ってるな」


「中々いないよね。左手を失くしても腐らず、再び冒険者に復帰すること自体が。どんどんレベルを上げて、スキルも覚えて行ってるし、元々の素質もすごいみたいだけど」


 ソファーセットにゆったりと座った長身の男が満足げに頷くと、その隣に座っていた小柄な女がそう褒めた。

 二人が見ていたのは大きなスクリーン。ダンジョン探索をする冒険者を映していた。


【『て』はやしてあげないの?】


 ソファーの側には、黒い鷹頭に黄色のクチバシ、前足は黄色の鳥足、後ろ足と身体は茶色の獅子、手羽先に白いラインが入った翼があるグリフォンが寝そべっていた。

 大型犬より二回りぐらい大きいが、まだ一歳の子供グリフォンだ。


「この少年、エアっていう名前なんだけど、魔力が少ねぇんだよ。いわば、遺伝病のような…って言ってもデュークには分からねぇか」


 デュークはかなり賢いグリフォンだが、遺伝病という概念を教えても分からないだろう。

 概念なので。


「魔力が少ないのは家系的な病気ってこと?」


 女が訊く。


「多分な。何か色んな種族の血が混じってるようだから、打ち消し合ったのかもって所。もっと簡単に言えば、エアは普通の人間じゃねぇから、魔力の塊であるエリクサーや欠損特化ポーションを使ったとしても、左手は生えて来ねぇ確率が高く、返って魔力の許容量オーバー…魔力過多で魔石症になるかもしれず、なワケで」


「つまり、難しい体質の人なんで時々様子見してるワケね。頑張ってる人は何とかしてあげたいし」


【そうだよねぇ。…あっ、そういえば、ぼく、ギルドでうわさきいたよ。まえのパーティにスキルかなんかでひどいことされてて、そのせいで『て』をなくしたひとがいるって。このひとのことじゃないの?しってる?】


「いや、初耳。もっと詳しく」


【ここまでしかしらないってば】


「じゃ、エーコ、知ってる?」


 男は何もない天井に視線を向けた。


【はい。このエアという冒険者、【寄生】スキルと【運分配】スキルを持ったパーティメンバーに搾取されていました。後者の方はあまり運がよくない人でも、運のいい人に使えば、多少、運がよくなる程度のようですが、他のスキルと同時ですと効果は高くなるかもしれません】


 すぐに声が返って来る。

 エレナーダダンジョンのコア、エーコである。


「マジか。でも、【運】に関するスキルは色々あるからともかく、【寄生】スキルって聞いたことも読んだこともねぇぞ。ユニークスキルか?」


【おそらく。わたしも【寄生】スキル持ちがこのダンジョンに来たことで初めて知りました。詳細鑑定した結果、寄生対象のステータスを奪って自分に上乗せすることが出来ます。最大で三割。デメリットは借り物の力なので【寄生】スキル持ちのレベルが上がり難い、解除した時の反動で元々のステータスから四割減になることです。寄生していた期間が長ければ長い程、反動期間も長くなりますね】


「え、三割も…」


「三割って相当じゃねぇか。エア、よく生きてたな」


【はい。暗殺毒蛇とも言われるコースタルタイパンに噛まれて生き残った初めての人だと思います。即座に左手を斬り落とした思い切りのいい処置と、タフな獣人の血のおかげでしょう】


「やっぱり。獣人は確定だよな。聴力スゲェいいし、体力もあって力もあるし」


「でもって、エルフも?キレイなエメラルドグリーンの目だし、顔立ちもキレイだし、筋肉も付き難いみたい、となると」


「多分な。まだ栄養状態が悪くて本来の髪色じゃなさそうだしさ」


「え、そうなの?何色?」


「紺だけど、構造色。つまり、虹色光沢が出るハズ」


【ええ~?キレイだけど、そんなかみいろのひとっているの?】


「獣人ならな。キレイだからって狩られた時代もあったから希少種族になってるけど、獣人自体、不遇の時代も結構あったワケで」


「やだやだ。どこの世界でも歴史は争いの歴史だし~」


【そうなんだ】


【マスター、この冒険者、助けないのですか?生身の手は難しくてもマジックアイテムなら可能です。魔力タンクを搭載すれば、魔法も使えるようになるかもしれません。少ない魔力でも効率的に魔法を使っている所からしても、魔法の素養は元々高いようですし、知力も高いです】


 ダンジョンコアのエーコとしては、せっせと潜ってくれる冒険者には好意的だった。『馴染みの客』という感覚なのかもしれない。


「マジックアイテムは考慮中。調整がかなり難しくなるだろうし、生身でも何とかなるんなら、エア本人はそっちの方がいいかもしれねぇだろ。エーコ、ちょっとエアの遺伝子手に入れて来て。髪でも爪でも」


【おまかせ下さい】


【え、マジックアイテムなら『かのう』なんだ?ぎしゅってこと?】


「そう。デュークが使ってる『マジックハンド』の技術が義手にも使えると思うんだけど、デュークと違ってエアは魔力が少ないから魔力タンクがどう影響するか、という辺りが難しいワケで。魔法を使えるようにするんなら、体内に巡らせねぇと、だろ?」


 「てんぷらをじぶんであげたい!」とデュークが言い出したので、デュークのマスターの長身の男…シヴァが作ってやったのがマジックハンドだった。

 器用さに依存するため、他の人には中々扱えないのだが、デュークはかなり器用で自在に使っている。


「徐々になら大丈夫じゃない?魔力の通路?みたいなのが詰まってるとか?」


 女…シヴァの妻のアカネは、基礎知識程度で魔力関係はよく分からなかった。何かと研究しているシヴァと違い。


「その辺も詳しく検査しねぇと、なんだって。これだけ手間暇かけて義手を着けたとしても、それで増長しまくっちまうのも残念だしさぁ、とか」


【ないっしょ。もともと、まじめなかんじだし】


「それが今までも散々、期待を裏切られて来てるワケだ。『恩をあだで返す』『喉元過ぎれば』な人が多過ぎだし。

 でも、違う方向に増長して『人類の敵』になったら面白いかな~と思ったりも。エア、西洋剣の剣技ならおれより使えるし」


「『人類の敵』で喜んじゃうしさ~」


【シヴァ、つよいあいてがほしいんだね…】


【どうあってもマスターの圧勝ですけどね】


「…エーコにまでツッコミを入れられた…。でも、まぁ、エアは前に見た剣聖の称号持ちたちより遥かに強い。まだまだ成長途中の時点で既に。称号を与える基準はさっぱり分からねぇな」


「わたしは『ドラゴンスレイヤー』なのに、もっとたくさんドラゴンを倒してるシヴァには称号が付かないしね」


【称号による補正が必要か不必要か、という基準なのかもしれません】


「そりゃ興味深い説だな。検証しようにも中々称号持ちがいないのがネックなんだけど、同じ条件を揃えるのは更に厳しいし」


 面白そうなのにな~とシヴァは残念そうに呟く。


「まぁ、ともかく、義手を開発するか」


「でも、エア君、せっかく片手で戦うのに慣れて来た所なのに、義手を装着したら、また使いこなすのが大変なんじゃないの?」


 アカネがそんな問題点を挙げた。


「どのタイミングでも使いこなそうと思うと、それなりに時間がかかるもんだろ」


「それはそうだろうけどさ~」


【ぼく、ちょっとはなしてみたいな~。あの人、あんまり、ひょうじょうかわらないけど、ぼくをみたら、さすがにおどろくかも、だし】


「別に驚かないに一票。何か賭ける?」


「では、夕食リクエストの権利を。わたしは驚く方ね」


【ぼくもおどろくほうで!うなぎ、たべたーい】


「いいね。負けた人に狩るのを任せよっか」


 そうして、数日後、賭けは行われることになった。





 結果は、「エアはデュークを見て少し驚いて身構えた」が表情は変わらず、普通に返事をしており、身構えたのも未知の魔物だからだろう、ということで賭けはどうなるのかは審議となった。



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新作☆「番外編49 熊に吹く導きの風」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078009942557


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