028 空中から出て来た長身の男に挨拶された
「お、エアだ。何か久しぶり~」
エアが買取カウンターに並ぼうとすると、買取が終わって振り返ったばかりのレイダルと会った。
「閃光のイカヅチ」の斥候である。
「そうだな。料理を教えた時、以来か」
「閃光のイカヅチ」たちに一通り教えた後、会わなかったので一週間振りになる。
「だな。エア、そろそろ50階近くに行ってる?」
「いや、まだ46階まで。依頼も受けながら進んでるし、急いでもいないしな」
ギルドで納品依頼を受けてダンジョンへ行き、採取かドロップ集めをし、マジックバッグがいっぱいになったらギルドに納品に戻り、また依頼を受け、街で食料調達もしてまたダンジョンに戻る、といった感じなのでペースは遅い。でも、着実に少しずつ進んでいる。
無理せず進めるようにならないと、フィールドフロアになる51階以降は進めまい。
エレナーダダンジョンは5階ごとの転移魔法陣なだけに、ダンジョン探索は進め易いのだ。いずれは他のダンジョンもチャレンジしたいので、ここでちゃんと地力を上げなければ。
「だったら、ちょっと手伝ってくれない?近くの街までの護衛依頼なんだけど、時期が半端で人数が中々集まらなくてさ」
「パス。馬はまだ乗れないと思うし」
左手を失う前は当然、馬に乗れたエアだが、当分はダンジョンに潜る予定なので馬の練習はしてなかった。
片手だとバランスがどうしても崩れるし、身体が強ばったままだと、余計に疲れる。そんな状態で、依頼主を守る護衛は荷が勝ち過ぎる。
今のエアが王都から移動する時は、馬車に乗せてもらえる依頼か、徒歩になるだろう。まぁ、その前に馬の練習をしたいものだが。
「あ、そういえばそうか…ごめん」
「いや、また機会があれば」
友好的な冒険者と仲良くしておくのはメリットしかない。
******
エアは納品依頼を受け、鍛錬もしながらダンジョン探索を進め、レイダルに会った時から約一ヶ月かけて50階に到達した。
「あーようやくか」
セーフティルームで一息つく。
さすがに、魔物も強くなって来たので苦戦しつつ、何とか倒したものの、左腕に装着した小型盾はもういくつ目だろうか。
マジックバッグの二つ持ちだからこそ、予備の武器や防具も持っていたので事なきを得たが、そうじゃなければ、かなりヤバかった。
魔石コンロで料理をし、温かい飲み物やスープや温かい料理が食べられるのは、しみじみと有り難かった。
食べ物はでかい。
お湯を沸かして紅茶を淹れた。お茶請けにクッキー。
頑張った自分にちょっとしたご褒美。
達成感もあって、いつもより美味しいような気がする。
ふと、エアは何となく違和感を感じて顔を上げる。
空気が揺らいだような気がした。
人が出て来る。
扉から、ではなく、何もない空中から、だ!
ガッチリと目が合う。
「あ、気が付いたのか。カンもいいな。初めまして、こんにちは」
空中から出て来たのは長身の男で、愛想よく挨拶する。
「こんにちは…って、今、どこから…」
男は190cmは越えてそうな程かなり背が高いが、筋肉隆々ではなく細身で、武器は何も持っていない。
いや、それ以前に防具も何もなく、質がよさそうなものの、シャツにズボンといったかなりの普段着では。
バッグの類も何もない。
ここはダンジョンのハズなのだが……??
ダンジョンの中は環境が違うとはいえ、ここは少々肌寒いし、十二月なのに男はコートすら羽織っていなかった。
かなりの怪しさなのだが、警戒しても無駄なような気がした。
「細かいことは気にすんなって。おれはシヴァ。君にちょっと商談を持ちかけようと思って」
「商談って…はぁ?」
何を言っているんだろう……。
幻影か何か見せる魔物か、植物でもいるのだろうか。隠蔽がかかっているからエアが気が付かなかっただけで。
ここはセーフティルームだが、イレギュラーは何にでもある。
「まぁまぁ、座って」
男…シヴァはどこからかソファーセットを出した。
一人掛けと二人掛けで、間に机。
二人掛けの方にシヴァがゆったり座る。
これまたどこからかガラスのティーポットを出して茶葉とお湯を注ぎ、やはり、ガラスのマグカップに透明感がある緑色の液体を注いだ。ふわりと薬草のような爽やかな香りが広まる。ハーブティーらしい。
ガラスなのに、割れないのだろうか?
興味を持ったのもあり、エアは座っていた防水シートを片付け、紅茶の入った木のカップとクッキーを持ってシヴァの出したソファーへ移動した。
柔らか過ぎず硬過ぎない、あまりに素晴らしい座り心地に、思わずマジマジとソファーを見る。何かの革のソファーでかなり高そう、ということしか分からない。
「商談と言っても金は動かない。君の左手の替わりになるマジックアイテムを作るから、その使い心地や改善点を報告して欲しい。つまり、モニターだな」
……は?
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