029 あっ!にゃーこやの人?

「…えーと、何か話が上手過ぎる気がするんだけど、あんた…ええっと…」


 モニターだから無料でマジックアイテムの義手が手に入る、というのは。


「シヴァだ」


「シヴァさん?」


「呼び捨てでいい。おれのメリットはマジックアイテムの質の向上だ。

 四肢欠損した場合、戦うのが怖くなって冒険者に戻ろうと思う人の方が少なく、また何らか『奇跡』が起こって生えた場合でもまた戦える程、鍛える人は少ねぇんだよ。

 生えたとしても筋肉や神経は一から鍛え直しだしな。

 更に、四肢欠損を義手義足で補ってまで冒険者に戻る人は極稀で、その場合、いい仲間に支えられていることが多い。

 君をモニターに選んだのは変わり種だから。ソロの方が向いてたな」


「ああ、それは自分でも思った。…って、何で知ってる?」


「一ヶ月ちょい前、デュークっていうしゃべるグリフォンに会っただろ?おれの従魔」


「そうなのか。でも、パーティを組んでいた頃と、戦い方が違うことまで何で知ってるんだ?」


「調べたからだよ、

 おれの『目』はあちこちにある。おれは冒険者であり、錬金術師、魔道具師、薬剤師でもあるし、研究者でもある。、武器兼防具にもなる方が面白いだろ?君はもっと強くなれる」


「…ちょっと待て。エアとしか名乗ってないし、冒険者登録もそうなのに、何で本名を知ってるんだ?」


 エアの本名はエアガイツ。

 学があった祖父が付けたそうだが、平民には何だか偉そうな名前なので、フルネームを名乗ったことはほとんどない。


「鑑定スキルがあるから」


 やはりか。


「じゃ、おれがもっと強くなれるのも分かるってこと?」


「そこまでは鑑定では分からねぇって。でも、地道な努力を嫌がらねぇ奴は伸びるのを知ってるからな。それに、おれが作る武器防具があって、強くなれねぇのは元々運動神経と戦闘センスがねぇ奴ぐらいだって」


「そんなもの?……そういえば、さっき、何か聞き捨てならないこと言わなかったか?『』とか。単なる?」


「ああ。手足を生やすことは簡単だ」


「簡単じゃないって!」


 簡単にそう言えるのはどうしてだ?


「……あっ!にゃーこやの人?」


 エアはやっと思い当たった。

 セーフティルームに何らかよく分からない手段でいきなり現れ、エアにはメリットしかない商談を持ちかけ、手足を生やすのが簡単だと言う色々と規格外のこの人物の素性を。


「おう。賢いな。知力が高いだけある」


「そうなんだ?」


 冒険者ギルドの魔道具では、ステータスでそんな細かい所まで見れないのだ。


「ああ。もう少し詳しく説明すると、大半の人に効く欠損特化型ポーションを作ったから、手足を生やすのは簡単。ただ、少数の例外があって絶妙なバランスで色んな種族の血を引いてる人、魔力が少ない人、つまり、エアのような人間の手足を生やすのは難しい。寒冷地に種を植えても芽が出ねぇのと一緒だな。

 さっきも言った通り、新しく手足を生やしても以前のように使えるようになるには、相当訓練が必要になる。手の場合は生えたばかりは握力がほとんどねぇからな。即使えるという意味でもマジックアイテムの方がおすすめ。

 見かけは義手にも生身風にも偽装が出来る。思念操作で武器にも防具にも早変わり。影収納も付けるか」


「……はい?影収納って?」


 エアは思わず、聞き返した。影の収納?聞き慣れない単語だ。


「影属性のマジックアイテムにするから、自由に伸ばせるし、ロープ替わりに縛ったり拘束したりも出来る。影収納は時間停止には出来ねぇけど、生き物も入れられるから、盗賊を捕まえた時に放り込んでおけば、運搬に困らねぇし、逃げられねぇし、適当に弱るワケだな」


「それは便利だな。…って、そんな夢のようなマジックアイテムって、国宝どころの話じゃないんじゃ…」


「誰にも売らねぇから問題なし。君がモニターをやってる話は、もうちょっと強くなるまで黙ってた方がいいけどな。殺してでも奪いに来る連中がいてもフォローするから」


「…バレたら狙われまくるってことか…」


 それはそうか。改めて考えれば、国宝なんてレベルの話ではない。伝説級だろう。


「死んでない限り、治してやるから心配なく」


「……それはどういった意味で?」


「そのまま。…え、何?まだ分かってなかった?治療ゲリラをしてるのは新薬研究と回復魔法の経験値稼ぎのためだって」


「いや、それ、初めて知ったんだけど?」


「結構、教えてあるんだけどな。治し切れなくても悪くなりようがねぇし、結局治るんなら患者は喜ぶ、でどっちにとってもいい関係だろ。ゲリラなのは強制だからで」


「…そんな理由とは思わなかった…。選ぶ基準とかあるのか?」


「適当。四肢欠損は特化型ポーション開発と検証で優先したかな?程度。生やしても中々使えなくて、周囲に八つ当たりして、結局、ダメにしやがった奴らもいるし。本体ごとな」


「…生やした後も観察してたんだ?」


「当然。経過観察までしねぇと問題点が洗い出せねぇし。病んでる精神までは中々治せねぇんだよな。個人差も激しいし。

 …じゃ、マジックアイテムを作成するか。何か希望がある?」


 シヴァは立ち上がって、側に長細いテーブルを出した。


「希望ってどういったことで?」


「生身に見えるようにして欲しいとか武器の選定とか。遠距離にも使えるようシャドーバレットは使えるようにするけど」


「あいにくと、おれ、魔力は本当に少ないぞ」


 バレットと言うからには魔法だろう。


「ステータスが見えるんだから正確な数字まで分かってるって。義手に魔力タンクを入れる。浮遊魔力を吸収して溜め込む仕様だから、余程、短時間で使い過ぎねぇ限り平気」


「…はぁ」


 どうなるんだ?魔石やオーブに魔力を溜めて使うのと似たようなものだろうか。


「ま、後でも変更出来るから」


 シヴァはよく分からない素材をどこからか、どんどん出して、手が速過ぎて何をやってるのか全然分からないが、かなり大きい魔石もどんどん小さくなり…気が付いた時にはシヴァの目の前には黒い手袋が置いてあった。

 左手袋だ。艶はなく、何かの革とも思えないような、まるで濃い影で……。


「ちょっと左手貸して。

 …あーやっぱ、断面はギザギザか。少し眠らせるぞ」


 その声が聞こえた瞬間、エアの意識はなくなった。

 言葉通り、シヴァに眠らされたらしい―――――。


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