026 可愛さで売る従魔のグリフォン

 バンディートヴェスパ来襲から一週間も経てば、減っていた冒険者の数もほぼ元に戻り、事後処理の慌ただしさもようやく落ち着いて来た。

 エイブル国王都エレナーダ、側にダンジョンがあるだけあり、元々冒険者の出入りは多いのだ。


 中々手に入らないヴェスパの残骸は割といいお値段で売れた。拾った牙や角は相場通りに。


 ヴェスパの来襲は悪いことばかりでもなく、増え過ぎていた魔物の間引きは完了した。

 しかし、ヴェスパの群れから逃げて来た魔物が街近くまで来てしまい、まだ近くに潜んでいるため、もうしばらくは見回りが必要だった。

 周辺の見回りは騎士や警備兵たちもするので、冒険者の出番はあまりない。


 商人護衛の依頼は増えているが、そちらは新しく来た冒険者が積極的に受けているので、エアたち、前から王都エレナーダにいた冒険者たちは、ダンジョン探索に戻った。


 ******


 やむを得ない事態だったとはいえ、かなり中断したので、エアはエレナーダダンジョン全60階、その41階以降の下層へと泊まりで潜っていた。

 5階ごとに転移魔法陣があるダンジョンなので、40階から始められる。

 各階のセーフティルームを拠点とし、無理はしない。ちゃんと魔道具で結界も張る。

 マズイと思ったらすぐ逃げる、で問題がなく、順調に進んでいた。



【こんにちは~。あれ?『て』ないの?いたくない?だいじょうぶ?】


 43階のセーフティルームで休もうと中に入った途端、そう声をかけられた。


「ああ。痛くないし大丈夫だ。もう半年以上経って…って、グリフォン!」


 つい答えてしまったエアだが、Aランク魔物だと気付くと同時に思わず身構えた。

 黒い鷹の頭に黄色のクチバシ、金の猛禽の目、前足は鷹の鳥足、胴体と後ろ足は濃い茶色の獅子、胴体の背中に付いている翼は黒で手羽先の方に白いラインが入っているグリフォンだった。

 大型犬より二回り大きいが、グリフォンはもっと大きくなるので、まだ子供なのだろう、おそらく。話は聞いていてもグリフォンは初めて見た。


【どもー。ぼく、デューク。じゅうまだからあんしんして】


 笑うかのように目を細めるグリフォン。案外、愛嬌がある。

 よく見れば、クチバシは動いていない。マジックアイテムか何かだろうか。


「…従魔になったらしゃべるのか?」


【まさか、ないない。ぼくがかしこいグリフォンで、ことばをりかいしているからだよ。ねんわをだれにでもきこえるようにする、マジックアイテムはつかってるけど。

 きみはパーティじゃなくソロなの?】


「そう。前はパーティに入ってたけど、ソロでも何とかなってる。…えーと、そちらは別々のパーティ?」


 十歳を越えたばかりぐらいの子供に見える男女と二十代前半ぐらいの男、それにデュークだ。

 似たような敷物を敷いて座っていて、近い所にいるが、年が離れ過ぎていて一緒のパーティにはちょっと見えない。


【ふだんはね。りんじでくんでて、バランスてきにどうかと、ぼくもはいれっていわれておてつだい。マスターはちがうひとなの】


「マスターがいないのに、その従魔と一緒っていいのか?」


「マスターの許可があればな。野放しはマズイってだけだと思う。デューク程、賢い従魔も中々いないけど」


 エアの質問に二十代の男が答えた。


【『かわいい』もいれてよね】


「可愛さで売る従魔も中々」


「本当に可愛いからいいの」


 デュークと少年少女とも仲はいいらしい。


 エアは少し離れた所に防水シートを敷いて座ると、マジックバッグから水筒を出して水分補給をした。

 今日の昼食は朝に作り置きしたパンケーキのロールサンド。具はハムと野菜炒め。

 こねる作業がたくさんあるパンまで手作りするのは片手では難しいが、パンケーキを作るのは問題なかった。もっと皮が薄いが、ロールサンドはたまに売っているので真似してみたワケだ。


 パンケーキは手軽なのだが、食材がなくなって行くにつれ、卵がなくなり、牛乳から水になり、とどんどん味が落ちて行く。

 乾燥パスタを使うスープパスタなら、スープの素が切れない限り、いつも美味しいので、食材が乏しくなれば、そちらが多くなる。

 マズイ携帯食ばかりの大半の冒険者たちより、エアは遥かにいい食生活をしていた。育ち盛り食べ盛りだからか、中々筋肉が付かないのは残念だが。


 ふと、いい匂いがして来て、エアがデュークたちを見ると、いつの間にか料理をしていたらしく、温かいスープと柔らかそうなパンを食べていた。

 いや、温め直しただけなのだろうか?

 珍しく調理する派な冒険者たちだった。

 長く潜る予定なのだろうか。


 調理器具でマジックバッグの容量を取られると、長丁場ではドロップ品が入らなくなってしまうので、それぞれマジックバッグを持っているのかもしれない。


 エアは今日はここで泊まるつもりだったが、人がいると気まずいし、いい人たちに見えても実は、というのも怖いので、食後に42階のセーフティルームまで戻ろう。


 エアはソロだからこそ、警戒は怠れなかった。



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新作☆「番外編49 熊に吹く導きの風」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078009942557


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