025 とばっちりは大迷惑

 昼食を食べて約一時間後。

 ようやく、バンディートヴェスパは引き上げて行った。

 エアの優秀な聴力とパルクの探知魔法で、慎重に周囲を確認しても、念のため更に十分後に再度確認してから、ようやく、結界を解除した。


 結界の中では軽くしか動けなかったので、各自、身体を動かしてほぐす。

 当然、警戒は怠らない。


 すぐ見える所にも白骨死体が転がっている。

 ホーンラビットやモグラ系魔物だ。

 ヴェスパは骨は消化出来ないらしく、いつも骨だけは残っているが、金属装備以外の服や靴までキレイに平らげる。靴は革だから分かるが、服の大半は植物からつむぐ。

 しかし、周囲を見ても植物被害はなさそうに見える。

 『肉』を食べるのに面倒だから包みごと食べる、ということだろうか。

 半端に肉を残す、ということはしないので、行儀がいい魔物、と言えるかもしれない。


 ヴェスパの残骸もたくさん転がっているので、素材として使えそうな大きい部分を集めつつ、人間の白骨死体を探し、アンデッドにならないよう聖水をかけるか、浄化し、ギルドカードを回収して行く。

 被害者が誰でどのぐらいの人数が、という被害状況を知るためもあるので、白骨死体を見付けた場所も地図に記す。


 素材として使える魔物の牙や角は残ってることが多いので、これも回収。

 亡くなった人の武器や装備や金は見付けた人の物になるが、多過ぎるし、目ぼしい物もないので、金以外はとりあえずはこのまま。

 後でギルドの方から回収、死体を埋める依頼が出るだろう。



 エアが魔道具で結界を張った場所から三十分程、離れた所で土で作った窓のない立方体の建物…避難所を発見した。中には人の気配。五人だ。

 下手に穴を開けると、ヴェスパに侵入されるので、出るタイミングを見計らっていた所だろう。


「エアだ。もう出て来ても大丈夫だぞ」


 気配からして、エレナーダダンジョン20階のフロアボス待ちしていた顔見知りパーティ「銀色の風」だ。

 五人中三人が銀髪、風魔法を使える人も三人、移動速度も速いことから付けた名前だ、と聞いていた。


「え、エア?本当に?」


「嘘ついてどうするんだよ。無事でよかったな」


「本当にな…」


 【幻影】を使う魔物も悪人もいるため、そのまま少し話をしてちゃんとエアだと確認してから、徐々に土の避難所を崩して行った。

 五人とも油断せず、周囲を見回す。


「うん、もう大丈夫みたいだな。マジで何あれ、っていう…」


 周辺を探り、耳を澄ませてもうヴェスパがいないことを確認してから、ようやく安心したようだ。


「バンディートヴェスパ」


「分かってるって~。おれが土の避難所を作るまでティアナとロエルが風魔法で防御してくれなかったら、おれたちも白骨死体だった…。一番怖い魔物かも…」


「そう?土の中に潜んでてがっぷり来るワーム系も厄介だと思うけど。上位種は再生能力が高くてしぶといし」


 太さ2m、長さは10m以上はあったのではないだろうか。

 結局、エアとその時のパーティメンバーでは倒し切れず、逃げたことがあった。ワーム系はそこまで速く動ける魔物じゃないのは救いだ。


「溶解液も厄介だから、ワームはまた別の怖さがあるけどさ~」


「細かいのがわらわらいる方がダメだわ、わたしも」


 ティアナもそう言う。

 そんなものらしい。


 「銀色の風」も合流して、被害状況を調べ、死体の処理もした。

 生き残っている者たちは20階、40階のフロアボス待ちしていた後から捜索に出た冒険者ばかりで、その後発組も認識が甘かった、移動速度が遅かった連中は白骨化していた。

 土魔法で避難所を作れても、結界が張れる魔道具を持っていても、タイミング次第では餌食になった、というのは生き残った連中が一番よく分かっていた。


 ******


 夕方まで周辺を回り、冒険者ギルドへ戻ってから、改めて、生き残った連中でお互いの健闘をたたえ合った。

 バンディートヴェスパから逃れた魔物が街の防壁近くまで来て、怪我人が結構出たらしく、ギルド職員は事後処理が大変そうだった。


 エアたちは報告は後回しにし、声をかけてから併設の食堂へと場所を移し、早めの夕食にする。

 エアが買取に出したボア肉を買ったらしく、ボア肉の煮込みがおすすめになっていたのでそれにした。


「…おいっ!ブルーノは?見かけなかったか?明るい茶髪で弓を背負った細めの若い男だ」


 続々と引き上げて来ている冒険者たち、食堂に来ている冒険者たちに、訊いて回っている男がいた。

 聞かれた人間は「知らない」と返していたが、あいにくとエアとレイダルは思い当たることがあり、ボア肉の煮込みを食べながら思わず顔を見合わせた。

 ブルノーに会ったことはない。冒険者ギルドカードを回収しただけだ。

 「教える?」とばかりのレイダルの視線にエアは首を横に振る。遅かれ早かれ、ブルーノがどうなったか知るだろうが、こちらが恨まれそうなので。


 しかし、そんなことは関係なく、八つ当たりしたい人は「弱く見える絶好の獲物」に絡んで来るもので……。


「お前が替わりに死ねばよかったんだ!片手がないんだから、どうせ、すぐ死ぬクセに!」


 大事な人を亡くしたようだが、そこまで言われて黙ってるエアじゃない。

 目撃者は十分。

 暴言を吐いた男を即座に殴り飛ばしておいた。

 一応、手加減はしているので、せいぜい骨折ぐらいだ。ステータスが上がっているため、身体強化をしなくても手加減をしないとミンチにしてしまう。


 ちなみに、ブルノーを探し回っている男じゃなく、別件だった。


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新作☆「番外編49 熊に吹く導きの風」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078009942557


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