第13話*6月の花嫁
季節は6月を迎えた。
その日の天気は、梅雨の真っただ中とはとても思えないくらいの晴天だった。
雲ひとつない青空は自分たちの門出を祝福しているんじゃないかと思った。
「おめでとう!」
「幸せになれよー!」
招待客のあちこちからあがる祝福の声に、純白のウエディングドレスに身を包んだ美都は笑顔で答えていた。
今日は結婚式だ。
美都は同じように笑顔で祝福の声に答えている成孔に視線を向けた。
タキシード姿に身を包んだ成孔のその姿はとてもかっこよくて、美都は自分の心臓がドキッ…と鳴ったのがわかった。
成孔の意外な一面を知るたびに美都の心臓は止まらない。
「美都、おめでとう」
その声に視線を向けると、サーモンピンクのドレスに身を包んだ沙保が微笑んでいた。
彼女の隣には成孔の会社の社員であるスーツ姿の玉村がいた。
「美都さん、おめでとうございます」
そう言ったのはスーツ姿の律だった。
「お兄ちゃん、おめでとう」
ベージュ色のパンツドレスに身を包んだ和香が成孔に声をかけた。
「ありがとな、和香」
妹に向かって成孔は笑いながらお礼を言った。
「お前もな、早くそいつと結婚しろよ」
成孔はそう言って彼女の隣にいる律に視線を向けた。
律からの熱烈なアプローチを受けて、それに根負けをする形でつきあうことになったのだそうだ。
「はいはい、そのうちね」
そう言い返した和香に、
「そのうちっていつですか?」
律が食い気味にかかってきた。
「そ、“そのうち”は“そのうち”よ。
と言うか、今は仕事に手がいっぱいでそれどころじゃないんだから!」
何だかんだと文句を言いつつも和香は幸せな様子だ。
ウエディングドレスに身を包んで愛する人と一緒に笑っているその姿を元治は少し離れたところから見ていた。
「おめでとう、美都」
幸せそうな妹の姿に元治は祝福の言葉を呟いた。
美都が大学時代の後輩である成孔と交際をしていることを報告してきたのは、9月の終わり頃だった。
その事実に驚いたのはもちろんのことなのだが、年齢の離れた妹の幸せな姿と彼女を大切にして愛してくれている後輩に元治と父は彼らの交際を許したのだった。
美都の花嫁姿がやっと見れたことにホッとして、元治は洟をすすった。
「よろしかったらどうぞ」
横からハンカチが差し出されたので、元治は持ち主に視線を向けた。
そこにいたのは、レモンイエローのドレスに身を包んだ眼鏡をかけた女性だった。
「君は、確か…?」
元治が彼女に声をかけたら、
「初めまして、有栖川の秘書の雑賀真生と申します」
真生は自己紹介をすると、頭を下げた。
「は…初めまして、美都の兄の森坂元治です」
相手が言った手前、元治も自己紹介をした。
「妹さん、とても幸せそうですね」
2人の様子に真生が言った。
「ええ、そうですね。
正直なことを言うと、ホッとしています。
年齢の離れた妹の花嫁姿を見れてよかったです」
元治はふうっと息を吐いた後で笑った。
「森坂さんは独身なんですか?」
そう聞いた真生に、
「恥ずかしながら、40過ぎているのに独身です」
元治はハハッと自虐的に笑った。
「一緒ですね、私も独身なんです」
真生はそう答えると微笑んだ。
雲ひとつない青空が自分たちを見下ろしている。
「美都」
名前を呼ばれて視線を向けると、夫になった成孔がいた。
「成孔さん」
美都が名前を呼んだら、成孔は嬉しそうに微笑んだ。
「俺、今日が1番幸せかも」
成孔が言った。
「ずっと好きだった女の子とつきあうことができたうえに、結婚までできたんだもん」
そう言った成孔に、
「私も幸せです。
初めて好きになった人が隣にいるんですから」
美都は言い返した。
「嬉しいことを言うなよ」
成孔はフフッと笑うと、美都の頬に唇を落とした。
「頬だけ、ですか…?」
唇にされるかと思った美都は呟くように言った。
「唇は夜のお楽しみ」
成孔はそう言ってパチリとウインクをした。
「な、成孔さん!」
その意味がわかった美都は顔を真っ赤にさせた。
「俺だって我慢しているんだから」
「何をですか!?」
美都が聞き返したら、成孔はごまかすように笑って答えただけだった。
「美都」
成孔は名前を呼ぶと、
「愛してる」
と、言った。
それに対して美都は微笑むと、
「私も愛しています」
と、言い返した。
「絶対に離さないから」
成孔は美都と手を繋いだ。
「私も離しませんから」
美都はそう返事をすると、繋がれた成孔の手を握った。
彼と一緒ならば、この先の未来に何があっても大丈夫だと思った。
ケンカをすることはあるかも知れないけれど、翌日にはこうして一緒に笑っているかも知れない。
そう思いながら、美都は目の前にいる成孔に微笑んだ。
☆★END☆★
アスカラール~天然悪女は彼に甘く愛される~ 名古屋ゆりあ @yuriarhythm0214
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