familiar.

 ブラックフライデーに突入。ユージュアンも電子決済セールが大賑わいで、端末と睨めっこしながら店内を歩くので、誘導に忙しい。


 結局俺達君原克哉・大城戸結麻は、ユージュアン渋谷駅南店が自爆テロで廃店になったので、ユージュアン代々木公園前店で普通に配置換えになった。

 成金オーナー曰く、その自爆テロでパートナーさんが辞めて、派遣社員を入れて、シフト組むのがやっとだから残留してくれと引き留められた。

 ここ、PTSDにならないかでフルメンテに放り込まれる筈だが、俺たちが、肉片片付け処理を背後にロングインタビューを受けていたので、勝手にタフ扱いされる。

 そうとは言え。その肉片の集まった中に、魂が封じ込まれた人間として生きていた、その神秘さを思うのだが。いや、そこからの善と悪って、概念なのかが未だ答えが無い。

 これが戦場だったら、俺は真っ先に死んでいるだろう。


 そして、レジからはここ最近、心拍数異常値の来客のマーカーが浮かぶ。

 まあ、決算期直前の売上げアップの滑り込みセールなので、そんじょそこらのスーパーより安くはある。且つ品質のレーティングは、ユージュアン本部が国内開発率93%になったので、実質コンビニ業界1位に躍り出た。

 まあその分、湧く客は多い。ここ2ヶ月の成金オーナー店の15店舗での始末率は、即時処理31件。かろうじて生きての警察引渡しは21件。その7割は帳人になる。

 日本で今何が起こってるかになるが、ここがしんどい。


 政党新派の琉球レコンキスタ党、本土育ち5世の立浪純一郎党首が、やたら心酔させる辻舌鋒に立つ。


「琉球の空と海は、今も美しく、そこに住むも琉球人の心根は美しい。日本に絆され、今度は東国に蹂躙される。我々は敢然として、この世の楽園琉球を擁護すべきです。あなたの興味一つで、沖縄は真の時代で、琉球になります。夷狄排除。銃も、刃も、それより重い行使が有ります。琉球立国、我々は楽園を常に求めている。さあ、楽園を取り戻しましょう」


 こんな陳腐な言葉が、つい顧客の端末のスピーカーから聞こえる。沖縄に何となく同情と淡い期待を寄せる、若い輩は気の毒だ。

 立浪純一郎のに絆され、奪取すべき沖縄行きの武装漁船に乗るも、敢えなく雷撃艇に撃沈され、その美しい海の漁場の餌となる。詩篇として通じる仏教感の哀れさだが、国力となる若さがそんな甘い言葉で死するのが更に哀れだ。

 仮に沖縄に上陸しても、東国の警備員にスパイ容疑で捕まっては、骨が見える迄肉片を抉る拷問を受けて、まあ最終的にはこちらも美しい海の餌になるらしい。


 そんな良くあるお客の一人で、化粧も早くから決め、赤子を右腕に抱えた長身の母親は端末を凝視している。危なっかしいなと、俺は特に気を遣いながら、その母親の近くを巡回する。


 ただ、その長身の母親のフレグランスが昼からきつい。ありがちなアメリカブランドのソリッドな香りで、ここ迄の上等さは、近くで国際イベントで集客があった時位だから、夜の仕事で相当な稼ぎ、個人輸入している事だろう。

 いや俺の疑念は、微かにその体臭の青臭さが気になり、ごく自然に話し掛ける。


「お昼から、お仕事大変ですね」

「ええ、同伴出勤も趣向を凝らさないと、あっさり抜かれる世界ですから」

「ご苦労様です」

「ああ、あとお兄さん、そこの正々堂のグロス取って貰えますか。子供も養うと、ドラッグストアもそこなのに、何かと億劫なのよ」

「はい、喜んで」


 俺はある推量で、正々堂の一番テカるグロスを選んで、差し伸べた瞬間。

 長身の母親は、何をとち狂ったか、赤子を抱えた右腕を離し、俺の正々堂のグロスを受け取ろうと、掴みに入る。


 俺はついの反応で離した赤子を受け取る。案の定だった。俺はそれを右に受け流す。

 赤子の産着は、フロアにダンダンと弾み、2つの2リットルのミネラルウォーターのペットボトルが飛び出る。そうだろうなだった。


 そして俺に迫る、長身の母親の相貌は、男性らしい眉間にえらく皺が寄った、如何にも殺意に満ち切った表情に変容する。


 プロフィール、玉城れいじ。俺達に復讐すべくここ有りか。玉城三姉弟の長男がご丁寧に女装も、手堅く出来上がっている。

 男娼から成り上がって、ステイタスも持った筈なのに、それを打ち捨て、家族を殺された復讐にどうしても走るとは、争いが終わらないのはそう言う事かと、つい溜め息を漏らす。


 れいじの飛び出しナイフを握った左腕がしなる。やれやれ、手練か。

 俺は肝臓一発狙いだろうなと、僅かに上背を伸ばす。そして、れいじの飛び出しナイフを、右大腸に受け止めた。

 俺はそのまま、背後に倒れる。れいじは宿願を果たしたか、左手が緩み、飛び出しナイフは右大腸に刺さったままだ。これはこれで好都合だ。


 そして、俺の微かな呻きを察したか。いつもの歩幅の長い足音が迫る。

 乾いたパンパンパン、お決まりのSIG P365 JPNの銃声音が響く。

 れいじも暗殺手練か、最初の股間を撃ち抜いた以外、心臓、頭を、銃弾から逃れる。

 れいじは歯を食いしばり踏ん張る。拳銃で撃ち抜かれたか、鮮血に染まったペニスが、ミニスカートからボタっと床に落ちる。


「はあ、そもそも役に立たないだよ、俺達のペニスは。東国の制圧支配で、思春期には、睾丸をざっくり切り取られる、根絶やしは徹底なんだよ。だからこそ家族にしか愛情が無くなる。分かるか、大和人に、この憤りが。俺達は時代時代で、何処からも棄民何だよ」堪らずフロアに落ちた自らの鮮血のペニスを見ては、男性としての切なさの涙が滴る。


 仕方ないな。

 俺が、ガバッと立ち上がりながら、腰元のバタフライナイフを組み上げ、そしてれいじの首左頸動脈を深く抉る。ここ迄2.5秒。そして、俺はまたフロアへと腰を落とす


 れいじは、本来の女性寄りの美貌らしき、淡い断末魔を奏る。そして豪快な血飛沫はフロア、棚、天井を滴らせる。


 意味がまるで分からない。帳人として、一からのし上がり男娼として良い暮らしを得ているのなら、何の不足があろうか。

 一般的な日本国人だって、3食やっとで生活して、新しい家族を持てる余裕が無い。

 大城戸結麻が俺を介抱しながら、後悔の入り混じった涙粒を落とす。


「君原さん、オーロラ見たいって言ってましたよね。死んだら、新婚旅行いけませんよ」

「それ、北海道、網走で見れる、それより新婚旅行って何だ、」


 俺は、大きな手で5往復頬を張られた。ボケたつもりは無いが、家族なんて思想的なもので、即した考えなど今迄なかった。でも、一人で生きるよりは心強いとは思う。


 高度救急車のサイレンがやけに響く。状況対応マニュアルNo.Aによると、刺したままで、この位の失血量なら、まあ死なないだろう。まあ死んだら、結麻が泣くか。

 不意に、結麻が泣き崩れる。どうやら、気が遠くなって”結麻”と呟いたらしい。

 だから、コンビニ店員だったらマニュアル全部叩き込めよ。まだこれなら死なないって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帳人 -tobaribito- 判家悠久 @hanke-yuukyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説