bitter.

 厳つい名刺を差し出された。

 毎朝通期でホットコンビニブラックコーヒーを飲み干す初老の男性は、毎朝6:30で1日を終える、有りがちな窓際族の筈だった。


【沖縄失地回復対策部諸係兼警視庁公安部外事7課 早乙女団蔵】


 まあ、ヤクザ映画大部屋俳優某が早乙女なんて事は無いだろうから、分かり易い偽名だ。とは言えクレジット決済は、ブラックカードなので、流石は公安のコブ付きの相当な役職には違いない。

 そして、カウンターに縮尺入りの警察全身写真が3枚並ぶ。一人は、あの帳人のかれんで、俺達が小売販売特法第34条諜報防止活動の遂行で処理した、あ奴だ。


「早乙女さん、今更、俺ら、検察の審議入りですか」

「君原さん、そこは違うね。良く写真を見ないと」

「うーん、早乙女さん、何となく3人似ていますね。過去楽園だった沖縄の妖精顔が親族ぽい様な」

「大城戸さんは聡いかな。そう3人姉弟。まず左の長女玉城かれん、これが君達が処置した帳人。真ん中は長男玉城れいじ、密入国の際に海上保安庁に捕縛されるも、5人殺害し脱走、現在行方不明。右は次女玉城じゅりあ、過去浦和赤線地帯で一斉検挙されるも、ベトナムパスポートで放免されている。まあ、東国のスパイ教育も熱血指導って事だね」

「つまり、何ですか」

「つまりも何も、沖縄の家族愛は深いって事だ。近いうち、君達に必ず復讐しに来るね」

「いやあ、何で、来るんですかね」

「東国における治政安定。帳人の始末は、沖縄人として許すまじ、悪人のすり替えはとても容易い団結を生む。君達、君原さん大城戸さんの活躍は、皆が心が躍るって事だね。戦車がまず突っ込む事が無いだろうから、まあお気楽に行こうか」


 それから、早乙女団蔵がユージュアン渋谷駅南店に通う頻度は、火曜と木曜になった。ガサ入れが一向に終わらないと、ブラックコーヒーに満足もせず、健康ゼリー飲料2つを合わせて買って行く。


「お怪我なさらない様に」

「おお、朝から気合い入るな。また来る」


 いや、あなたも来なくていい部類だ。


 #



 9月初旬だろうか。何故か知ってる女性が来た。定番の白のアジアンホットパンツスタイルだから勘違いだろうかは違う。


「タバコ、アメスピリアメンソール、頂戴」

「すいません、規則で番号言って貰えますか」

「No. 127, bought with coins.」


 帳人に有りがちな、会話キーを抑えるべく、会話の出だしが2秒遅れる。隠したつもりだろうが、もうその時点で要注意人物だ。


 その女性、玉城じゅりあは、無造作にホットパンツのポケットに手を突っ込み、500円玉3枚、100円玉3枚をカウンターにバンと置く。

 もう挙動からして、まるでだった。女性でも苦い汗が香り立ち、顎に汗が集まり、右手はヌルッとカウンターに汗が滴っていた。


「暑いですね」

「こんなの暑いうちに入らないわよ」

「そうでしょうね、今の時期の沖縄に比べれば」


 俺は、アメスピリアメンソールを右手に持ち、大きく振りかぶっては、手前奥の冷蔵庫に放り投げた。

 そして、じゅりあが本能かで、アメスピリアメンソールを拾いに向かう。この紛争インフレで煙草は大きな嗜好品で、そう易々とは買えない。


 俺が、投げた理由はこれだ。

 ジュリアの全身に、帳人の深い“朱”の焼印を隠す様に、刺青がえげつなく描かれている。野良の帳人に有りがちなそれだ。

 何よりは、右腎臓脇に外科手術痕がある。恐らく生活費に困って臓器売買した事だろう。

 その続きがある。状況対応マニュアルNo.45。臓器を売買するくらいだから、どうしてもの上納金不足が有り、右腎臓の空いた場所に明らかに自爆炸裂弾が仕込まれて、不思議な腹筋を形成する。その隆起は画像マニュアルに一致する。

 そして自爆テロを決行する事で、親戚周りに類が及ばないようにのチャラ決済が施される。やさぐれブローカーのどうしてもは、金回りが良い。


 俺は、レジボタンの@9987、そしてエンターキーを押す。そしてカウンター上部よりアルミ合金防弾シャッターがスラーと落ちてくる。カウンター台も積層アルミ合金だが何か違う。


 その締まり行く隙間に、じゅりあが必死の形相での左手の簡易ライターに似せた起爆スイッチを震えながら、尋常じゃない叫び声を上げる。フロアが濡れているのは、恐怖で漏らしたかだ。

 いや、その恐怖の形相。それじゃあ駄目だ。


「大城戸、床に伏せろ」


 俺と大城戸は瞬時に床に伏せたと同時に、両手で両耳を塞ぐ。そして爆発と強烈振動音が、防犯シャッターが、ガンガンガンと大きく揺らす。

 ダンプカーが突っ込んかだかの衝撃音に、そしてヌタっとした柔らかな塊音と、バラバラバラと店内に組まなく乱反射した様な音が聞こえた。

 自爆とはそういう、えげつないものらしい。


 そして、俺達は床に臥したまま、繁々と手を下げる。重いキーン音がするが、無事は無事らしい。


「まさか、防犯シャッターを使うなんて、これは強盗訓練対策ですよね」

「まあな、コンビニで自爆テロなんて、そんなのニュースでも聞いた事がない」

「帳人、死にましたよね」

「そりゃあな」

「家族の為に復讐ですけか、」

「さあな、疲れただけだろうな。東国の義務教育に日本人が合う筈もない」


 不意に、血の生臭さと。早くも臓器が熟したらしいニオイが、ユージュアン渋谷駅南店に立ち込め始める。

 今度は流石に駄目だ。柴田澄生店長に懇願しても、仕方ないよの切り返しが来ない筈だ。


 次の転職先はどこだろう。ハロワに行っても、銃器B級所持企画書、自衛隊即応部隊証書があっても、何だ、戦うコンビニの選択肢しかないじゃないか。

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