十一・霊廟(四)
「
思わぬ返答にルドカは瞠目した。
高祖・
「人のことだったの?」
思わず言ってから、自分で思い直した。いや、人とは限らない。
何しろこの青年は最初、人ならざる姿でルドカの前に現れたのだ。月蛍という呼称がぴったりの青白い光は、恐らく
ルドカの様子を見て、〝普通の人間の魂は魄から離れると苦しがる〟とも言っていた。その一方で彼自身は、全く苦しがる様子を見せないのだから、つまり、普通の人間ではないということ。
(もしかして、既に死……)
尋ねるのは勇気が必要だった。口ごもるルドカの様子を意に介さず、青年は淡々と話を進めていく。
「正式には稗の官と書いて、
「稗、官」
たどたどしく繰り返すしかない。全く知らない官職名だった。
己の不甲斐なさに愕然としかけ、『稗は王にのみ仕える』と兄が言っていたことを思い出す。稗の話に関しては『王になる者にしか知らされないことだ』とも。
「もしかして、その官職のことは、王以外の者には秘密なの?」
「普通は王太子にも知らされますが」
「わ……悪かったわね、普通の王太子じゃなくて……」
お前は普通じゃないと暗に言われている気がして、頬が熱くなる。だが青年の無表情を見る限り、他意があってそんな物言いをしたわけではないらしい。
「稗官の仕事は民間に流布する風聞を集め、王に奏上することです。噂、伝説、物語といった類いの、実際には起きていない事柄を集めます。それこそ稗のように小さな呟きも余さず拾うことを求められるが故に、稗官と呼ばれるのです」
「風聞を?」
ルドカは首を傾げる。意外だった。
稗官を使った最初の兎王は言うまでもなく、耳長王だろう。そんな曖昧な情報を集めさせるだけで、うまく国を治めることができたというのだろうか。
一体なぜ、どんな目的で。
「目的は〝
青年が口にしたその言葉に、ルドカは息を呑んだ。
蒙。
「それは……人の悪感情から生まれるという、あの〝蒙〟のこと?」
他に何があるというように、青年は黙ったままだ。
「待って。それを操るって、どういうこと?」
額に手をやり、ルドカは自分が知る〝蒙〟に関する知識をそこに集めた。
恨みや憎しみといった人の悪感情と、自然霊が結びついて生まれる悪鬼。
取り憑かれた者はその悪感情を増幅させ、人に害を為して新たな〝蒙〟を生み、やがて魂を食い散らされてしまう。
姿形がなく、人の目には見えない。正体を見極めて打ち払うためには、神獣加護国の王が持つ神器が必要。
「打ち払うの間違いではなくて? だって、王は……」
言葉尻をすぼませたのは、青年の唇が僅かに弧を描いたように見えたからだ。
歪めたと言った方が正しいかもしれない。笑みにしては
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