不連続推理短編集
ラピ丸
電車
ある冬のこと、谷川さんが乗っていた電車で盗撮騒ぎが起こった。
被害者の女性によると、後ろから小さくシャッター音が聞こえ、不審に思い振り返ると、たまたま近くで見ていた男性が容疑者のサラリーマンを捕まえてくれたのだそう。
「俺はやってない! 無実だ!」
手編みの手袋を激しく振りながらサラリーマンは悲痛に叫ぶ。白い息は駅のホームにふわりと舞って、宙に虚しく溶けていった。
「確かにシャッター音がしたのよ! 絶対に撮ってるはずだわ!」
女性は確信があるようでサラリーマンを厳しい目で睨みつけた。寒さで顔が紅潮し、まるで鬼のようだ。
彼らと共に電車を降りていたのは、谷川さんと目撃者の男性である。谷川さんは男性に尋ねた。
「確かに写真を撮ったのはこの人でしたか?」
「間違いありません。スマホで撮影したところを目撃しましたし、お二人の周りには人は少なかったので、絶対に見間違うことはありませんから」
男性はハッキリと言い切った。女性が声を上げてサラリーマンが捕まりホームに連れられるまで、谷川さんも一部始終を見ていたが不自然な間がなかったので、確かに今回の事件に他の人物が関係しているとは考えにくかった。
「そんなに疑うのなら、ボクの携帯を確認してください!」
サラリーマンがそう言うので、三人で携帯を受け取り確認する。
しかし、盗撮したような写真は見当たらなかった。
「ほら、ボクは撮っていないと言ったでしょう! 誤解だと分かったはずです!」
「絶対に撮っているはずなのに! どうしてなの!?」
証拠が出てこないことに混乱しかけた現場だったが、そこで目撃者の男性が手を打った。
「そういえば、この人一瞬スマホを触っていました! その隙に写真を消したのかもしれません!」
「そんな……、ボクはそんなことしていない!」
「いいえ、きっとこの人の言うとおり、写真を消したはずだわ! ねぇ探偵さん。あなたもそう思われますわよね?」
女性に尋ねられた谷川さんは、目を鋭くさせるとこう言った。
「確かに我々は写真フォルダを確認する必要があります。ただし、今度は目撃者であるあなたのスマホをね?」
Q:谷川さんはどうして目撃者が怪しいと考えたのでしょうか?
不連続推理短編集 ラピ丸 @taitoruhoruda-
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