Another Story From.Life Ever Lasting「Love Song」

ソメイヨシノ

Love Song

Love Song


ボクは人間とは違うらしい。

ボクは博士が造ってくれたクローンというモノらしい。

ボクはシンバという男の子からできた女の子らしい。

ボクはどこか間違って体は女の子になったらしい。

ボクはその為、生殖機能などはないらしい。

ボクはオレンという名をもらった。


「博士、博士! 何かお手伝いしたいな!」

「いいんだよ、オレン、オレンはそこにいるだけでいいんだ」

博士はそう言うけど、ボクは何かしてあげたいんだ。

ボクは博士が大好きだから。

それは多分、シンバが博士を大好きなんだ。

シンバは博士のたった一人の大事な息子らしい。

その一番大事なモノを捨ててでも、博士は逃亡したらしい。

それは、全ての命に関わる事らしい。

毎日、博士は、その研究をしているんだ。

そんな博士にボクは何をしてあげれるかな?


博士は研究に行き詰まると、いつも紙飛行機を作り、窓からそれを飛ばしている。

目が遠く、遠くを見ている。

その目は景色ではなく、遠い記憶を見ているのかもしれない。

紙飛行機にのせて、遠い記憶の果てに、気持ちを届けたいのかもしれない。


ねぇ、博士、ボクが変わりに気持ちを届けられないかな?

それは今からでも遅くはないんじゃないかな?

ボクはせっかく生まれたんだもん、博士の為に何かしてあげたいんだ。

だけど、ボクは何も言えないまま――。


買い物に出ると、ストリートでギターを弾きながら歌を歌っている人に目が止まった。

大きなギターを持った女性は、誰も聞いてなくても、堂々とした声で歌っている。

行き交う人々の中で、まるで時間の流れが違うように見えて、神秘的に見えた。


女性は歌い終わると、ギターを片付け始めた。

そんな女性のオレンは話しかける。

「あの!」

「ん?」

「ボクにも歌えますか?」

「ん?」

「あなたが歌っていた歌、教えて下さい!」

「ああ、気に入ってくれたの? でもこの歌は私が作ったの。作詞作曲、全部私がやったから、あなたにあげれないな。大切な歌だから」

「大切な歌? やっぱり!」

「やっぱり?」

「うん! 大切なんだなって伝わった来たの! ボクも伝えたいから!」

「なら、自分で頑張って歌をつくってみたら? 私はストリートミュージシャンで、まだ全然誰にも聴いてもらえてないけど、あなたみたいに少し足を止めて聴いてくれる人もいるんだ。いい歌つくって、いい曲で歌えば、大勢の人に聴いてもらえるかもよ? その内、スカウトされて、有名になったら、もっと多くの人に聴いてもらえるし」

「有名に?」

「最も、私は名声なんていらないの。だから業界に興味もない。只、こうして時々歌いたいだけ」

「そうなんだ」

「私、ダイア。ダイア・リターン。あなたは?」

「ボク、オレン」

「そう、オレンちゃんか。良かったら、また来て。時々、ここで歌ってるから」

ダイアはそう言うと、ギターを背負い、行ってしまった。

ダイアが去った後に残ったのは花束。

「忘れ物・・・・・・?」


その日から、オレンはノート片手に、思いついたら、何かを書き留めるようになった。

「んと、おいしいもの、シュークリーム。あ、アスファルトに咲いてた花!」

などと、気になったもの全て、ノートに書いて行く。


ある日、うたた寝していると、夢を見た。

風にのって、どこまでも飛んで行く紙飛行機。

〝父さん! 僕ね、妹がほしいな〟

〝どうしたんだ、突然〟

〝だってね、父さんは毎日忙しくて僕と遊んでくれないじゃないか〟

〝それで妹か?〟

〝本当はね、弟がほしかったんだ、でも僕より弟が可愛がられるのはちょっと嫌だから〟

〝妹が可愛がられるのはいいのか?〟

〝うん! 僕も一緒に可愛がるんだ。女の子には優しくしなきゃ駄目だから〟

〝ははは、そうか〟

〝それでね、紙飛行機作ってあげるんだ〟

〝でもな、シンバ、そう簡単に妹はできないんだ〟

〝ええ? どうして?〟

〝どうしてかなぁ。シンバがもう少し大きくなったらわかるだろう。そうだ、シンバ、犬を飼ってやろう〟

〝犬?〟

〝ああ、シンバの親友になるような犬だ。飛ばした紙飛行機を一緒に追い駆けてくれる大きな犬だ。いつもシンバと一緒にいて、いつも遊んでくれる犬だ〟


変な夢だった。

オレンの姿はどこにもない。

それはきっと、オレンの中に少しだけ存在するモノ――。

身に覚えは全くないが、それは確かに存在し、息づいている。

「博士が遠く遠くを見ているモノ、ボクにも見えたよ・・・・・・」


オレンはギターがない変わりに、何か変わるようなモノを探し始めた。

ピアノもない、ハーモニカもない、いや、あったとしても楽器は扱えない。

練習するには、知識がない。

目で見て、記憶できて、覚えられるもの――。

それはダンスだ。

テレビをつけては、歌番組をチェックし、ダンスを覚え、体にリズムを覚えさせる。


ダンスをしながら歌う。

歌いながらダンスをする。

それは考えていたより、物凄く大変だった。

だが、無理という言葉で片付けられない程、オレンは頑張っていた。

どうにかして、届けたいのだ。

紙飛行機にのせた歌声が、博士の大事に想う人に届きますようにと――。


どうにか歌だけは完成し、オレンはダイアの元へ走った。

ダイアはいなかった。

時々と言っていたので、今日は来ないのかもしれない。

だが、来るかもしれないと、オレンは待ってみた。

足元に花束が置いてある。

ダイアへの贈り物だろうか――?

そういえば、前も花束が置いてあった。


「ねぇ、キミ」

話し掛けられ、見ると、スーツの男が笑顔で立っている。

「もしかして、ここでギター持って歌ってるおねえさん待ってるの?」

「うん」

「やっぱり! いい歌うたうんだよね、あの子」

「ダイアさんの事、知ってるの?」

「ダイアって名前なのか、あの子。名前通り、今は原石だが、何れ光輝くな。いや、俺はね、プロダクションの者なんだ、スカウトに来てるんだけど、いっつも追い返されてさ」

「プロダクション?」

「あの子、欲がないんだね、本当に勿体無い」

「欲がないから、いい歌をうたうのかもしれないです」

オレンがそう言うと、最もだと男は頷いた。

「あの子は籠の中の小鳥だ。いい歌声で鳴いても、その歌声が届く場所は知れている。大空高く飛んで、歌声を響き渡らせたら、どんなに素敵か、あの子は知らない」

「でも誰かに届けたいから歌うんだと思います」

「なら尚更、大空高く飛んだ方がいいに決まっている」

「そうだけど・・・・・・」

その時、ギターを持ったダイアが現れた。

「またアンタか。しつこいな」

と、ダイアは男の睨んだ。

「そう言わないでくれよ」

「今日はもう歌わないよ。アンタの顔見たら、胸くそ悪くなったから」

ダイアは行ってしまう。

オレンはダイアを追いかけた。


「ごめんね、嫌な所見せちゃって」

ダイアはそう言うとオレンに缶ジュースを渡した。

公園のベンチに二人座る。

「どうして有名にならないんですか? ダイアさんならなれるのに」

「この前も話したでしょ、私は、そういうのに興味ないの」

「ボクはなりたいよ。なって、届けたいもの。歌で、伝えたい気持ちがあるから」

そう言って、ふと思った。

「もしかして、ダイアさん、あの場所でしか届けられないんですか?」

「ん? ん、まぁね。昔の友達がさ、あの場所で死んでんのよ」

それであそこに花束があった訳がわかった。

「病気でね、入院してたんだけど、抜け出して、一緒に海見に行く途中だったんだ。そしたらあそこで血を吐いてさ」

ダイアの目は遠くを見ている。

「助けてって叫んだよ。誰か助けてって。だけど私の声は、どんなに叫んでも掻き消されるように、誰の耳にも届かない」

「誰も助けてくれなかったの?」

「いや、誰かが救急車を呼んでくれたけど、誰も手は貸してくれなかった。見てるだけ」

「・・・・・・」

「暗くならなくていいよ。もう昔の事だから」

「あの歌は友人に宛てた歌なんですか?」

「ううん、昔の自分に宛てた歌かな。後悔してんのよ、どうして海になんか行こうって思ったのかって。でもあの頃の私は海に連れて行きたいって気持ちが強かったんだろうなぁ。もう忘れてしまって、後悔してるけど、でも、例え、死んだとしても、後悔しないって決めて行動した事だったんだって思うの。私はあの場所でしか歌わない。あの場所で叫んでやるの。私の声が届いてますか? 私の叫びがわかりますか? 私は大切なものをなくしたけれど、なくしてもまだ大切に思っていますって。どれだけの人がそれをキャッチしてくれるかどうかはわからないけど」

「あの・・・・・・」

「ん?」

「ボク、歌つくったんです。聴いてくれませんか? 実は候補はあるんだけど、しっくり来なくて、まだちゃんと歌の題名がつけてないんです、ダイアさんつけてくれませんか?」

ダイアは缶ジュースを開け、コクンと一口飲むと、いいよと頷いた。


オレンの歌は、孤独に生きる少年が、只一人心通う親愛なる者が何も言わず旅立ってしまう事への想いを歌っている。

オレンの歌声に、ダイアはギターを取り出し、弾き始めた――。


歌い終わるオレンに、ダイアは拍手した。

「アンタ、素質あるよ。後は楽器でも持ってさ」

「楽器できないから、ダンスの練習してるんだ」

「へぇ! すりゃ凄いじゃん!」

「ダイアさん、ボクは、ダイアさんに負けません」

行き成り、そう言ったオレンに、ダイアの拍手は止まる。

「ボクはダイアさんのように遠い昔に捕らわれている人を知っています。それがいい事なのか、悪い事なのか、わからないけど、ダイアさんと知り合って、そういう人は他にもいるんだなって思ったの。だから、そういう人達に伝えようって思ったから。だからダイアさんにも伝わればいいな!」

「・・・・・・ありがと」

ダイアはフッと笑って、小さな声でそう言った。

「じゃあ、ボク、帰ります」

「あ、題名」

「あ、そうだ! つけてくれますか?」

「うん、歌きいて、直ぐに浮かんだよ」

「本当に?」

「その前に、アンタ、この歌になんて題名つけたの? 候補あるって言ったじゃん」

「紙飛行機」

「あぁ、サビの部分に出て来るもんね」

「単純ですか?」

「ううん、それもいいと思うよ。でもそれ〝Love Song〟でしょ」

「Love Song?」

「紛れもなく愛の歌でしょ。男女の愛だけじゃなく、同性愛や親子愛、友達同士の愛、物への愛、全ての愛に繋がってるその歌は〝Love Song〟それでいいんじゃない?」

「Love Song・・・・・・」

「ちゃんと伝わったよ、私に」

ダイアはそう言うと、ギターを片付け、

「じゃあ、また」

と、去って行った。


それから月日は流れ、街のモニターで、ダイアはオレンの姿を目にする。

それはデビュー曲のCM。

〝Love Song NOW ON SALE〟

もうオレンを知らない人はいないと言う程の人気で、曲は売り切れ状態だ。

それでもCMは流れる。

「ワン、ワン、ワン!」

足元で吠える子犬。

ダイアが抱き上げると、

「こらー、ホーキンズ、勝手に行かないのー!」

と、帽子を深く被った女の子が走って来た。

「オレン?」

すると、

「ダイアさん?」

と、女の子は答えた。


「久し振りだね、アンタ、凄いよ、歌姫って呼ばれてるじゃん。ダンスも抜群だね! 流石、芸能人!」

「ううん、こうなって思うのは、ボクが伝えたい事はちゃんと伝わってないなって」

「・・・・・・」

「有名になっても、ボクが本当にやりたかったのは違うんじゃないかって思う。でもそれでも時々、ファンレターでね、Love Songを聴いて、離れていても愛されてる事に気付いたとか書いてくれてたりするの見ると、歌ってて良かったなって思うの。ダイアさんと同じだね」

「私と?」

「〝ストリートミュージシャンで、まだ全然誰にも聴いてもらえてないけど、あなたみたいに少し足を止めて聴いてくれる人もいるんだ〟って言ってたでしょ。それと同じ。ボクの歌を聴いてても聴いてくれてない人の方が殆んどだよ。だからね、ボク、考えたんだ。世界中の人達と仲良くなって、友達になって、想いを直接伝えるの!」

そう言ったオレンに、ダイアは笑う。

「おかしいですか?」

「ううん、いいんじゃない?」

「でね、でね、歌には国境を越える力があるってマネージャーさんが言ってたの。だからボクの歌が国境を越えても、世界中の人達に届くよう、友達一杯つくるんだ! 友達だったら想いを受け止めてくれそうでしょ?」

「そうだね、いいんじゃない?」

オレンが笑顔で話してくれる事に、ダイアは、あの頃と何も変わってないんだなと感じる。

「ねぇ、その子犬、アンタが飼ってるの?」

「うん、ホーキンズはね、博士がくれたの」

「博士?」

「あ、一緒に暮らしてるんだ」

「そういえば、アンタ、テレビでもオレンって名前しか出てないけど、セカンドは? 謎に包まれてるってテレビでやってたけど、それは売れる手段?」

「ボクもボクの事、全然わからないから」

「へ?」

「ボクは、ある少年だから。歌の中のボクが本当のボクだから」


オレンのLove Songは、まだこの国でだけだが、ヒットした。

全て謎に包まれているという少女のインパクトと、少年のようなイメージと、風のような動きのダンスと、無邪気なキャラクターが、売れたのかもしれない。

歌に聴き惚れた人は少数かもしれない。

届けたい人には届いてないかもしれない。

何もかもうまくいく事は絶対にない。

調子が良くても、悪い時もすぐに来る。


紙飛行機は、風にのって飛んでいっても、直ぐに落ちてしまうんだよね・・・・・・。


ボクはいつか死ぬだろう。

それは寿命なのか、事故なのか、それとも自ら命を絶つのか、運命なのか――。

わからないけど、ボクはいつか呼吸を止めるだろう。

でもボクの歌声はこの世界に残り、いつかキミの元へ届くと信じている。

今じゃなくてもいい、直ぐじゃなくてもいい。

いつか、ボクの歌声はキミに届くと信じてる。

この世界が愛で満ちますように。

キミがそう想うから、ボクは歌うんだから・・・・・・。

ボクはキミなんだから。


~Love Song END~

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