Another Story From.I PromiseⅡ「Moon Light」

ソメイヨシノ

Moon Light

第2の月となる衛星が放たれて数ヶ月——。

世界はこれと言って変わった感じはしない。


ウルフ・ポルベニア。

ガルボ村から旅立ったゴーストハンター修行中の身でありながらも、まだゴールデンスピリッツは手に入れられていない状態。

ゴールデンスピリッツとは、己の武器を守護してくれる霊を、武器に宿らせるというもの。


「今日もポスティーノは平和そうだねぇ」

と、大きな窓からポスティーノの町を見ながら呟くウルフ。

「アンタねぇ、雨の度にうちに来てない?」

と、文句を言うのはマルメロ・アンタムカラー。

天文学の勉強をしている彼女はまだ7歳。


「だって雨だと公園で野宿とか無理だし、寒いし」

「うちはホテルじゃないのよ!」

「お金余り持ってないし」

「あたしの知った事じゃないわ!」

「いいじゃん、マルメロちゃんにも会いたかったんだし」

「・・・・・・そんな美形面で言わないでほしいわ」

そう言ったマルメロに、ウルフは笑う。

「ねぇ、第2の月の影響って出てんの?」

「ええ、少しずつね、動物達も何かを察してか、今まで生息していた地を出て、安全な地へと移動してるのよ」

「安全な地って?」

「どこかにあると信じてるのよ」

「あるといいね、安息の地」

「ないわよ、あったら、あたしが一番に行ってるわよ」

「その時は俺も連れて行ってね」

「・・・・・・だからそんな美形面で言わないでよね!」

そう言ったマルメロに、ウルフはまた笑う。

「アイツには逢ってるの?」

「アイツ?」

「アナタのお友達の詐欺師くん!」

「あぁ、アイツね。逢ってないよ。逢わないよ、ゴールデンスピリッツを手に入れるまでは」

「まぁた、そんな意味不明発言して! 本当に幽霊なんていると思い込んでるの?」

「俺を信じないの?」

「・・・・・・だからそんな美形面で聞かないでよ!」

またそう言ったマルメロに、ウルフはまたまた笑う。

「明日は晴れるみたいだね」

雨が降り続けるポスティーノの空を見上げ、ウルフが言った。

「雨は嫌いよ、星が見えないんですもの」

と、ウルフの隣に来て、マルメロも窓の外を見ながら言った。


次の日、太陽が光る青空に、ウルフはポスティーノのレンタルミニット屋で、ミニットを借りた。

そのミニットと言う乗り物は太陽エネルギーで動き、小さい癖に、空も飛べるし、地も走る乗り物で、太陽さえあれば、どこへでも行ける。

ウルフはポスティーノの町中をスイスイ走ると、人のいない広場で、一気に上昇した。

「うはー、気持ちいいー!」

町を見下ろし、そのまま上空を走り、南へと向かう。


暫く走り続けると、空の彼方向こうがキラッと光った。

何だろう?と目を細めた瞬間、そのキラッと光るモノが、ブワッと目の前にやってきた。

大きな翼龍だ。

「うわぁぁぁぁ」

避ける為に、ミニットごと、クルクルと回転する。

「きゃぁぁぁぁ」

翼龍に乗っている人の悲鳴が聞こえた。

「嘘だろ、女かよ!」

と、ウルフはミニットを安定させ、暴走する龍を追う。


「おい! おい! 大丈夫かよ! おい!」

「助けて下さい!!!!」

「てか、エリカさん!?」

「はい、そうです! どなたか存じませんが、助けて下さい!」

翼龍にしがみついて、エリカは目を閉じている。

その為、誰かわからないようだ。

「龍の笛は!?」

「持ってます!」

「持ってるだけじゃ駄目だろ、吹いて、吹いて!」

「できません! 両手、塞がってますからぁ」

エリカの両手はしっかり龍にしがみ付いている。

ウルフはチッと舌打ちすると、ミニットのアクセルを踏み、スピードを上げ、翼龍の真横に付けた。

そして、ミニットから、ジャンプし、翼龍の背中へ飛び乗った。

ミニットはそのまま地上へ落ちていく。

「くそ! 弁償はルピナスで頼んだからな!」

と、ウルフは言いながら、エリカの元に辿り着き、エリカに覆い被さるようにして、自分も龍の背にしがみ付き、そして、エリカの首から下げられている龍笛を吹いた。

翼龍は大人しく、下降して行く——。


そこは岩場の多い、山の麓辺りだった。

時々、吹き抜ける風が、荒々しく、砂埃を舞い上がらせる。

そんな風を無視し、翼龍は大人しく、岩場に生えた珍しい草を食べている。

エリカ・アセルギウム。

いや、今はルピナスの王女である為、エリカ・ルピナス、それが彼女の名前だ。

アルビノの体を持ち、とても美しい容姿をしている。

「ルピナスでは、王族は翼龍を従わせる必要があるらしくて、それで、練習してたんです。そしたら、龍が暴走を——」

「つーか、暴走する前に笛吹くでしょ、普通」

「だって背中に乗ったら、両手使えないんですもの」

「・・・・・じゃあ、常に笛咥えておいて下さい」

「そっか! ウルフさん、頭いいんですね!」

と、喜ぶエリカに、ウルフは天然か?と思う。

「弟のエルムはどうしたんだよ?」

「ルピナスでわたくしを心配しているかも」

「じゃあ、早く帰らないとな」

「そうですわね。でも良かったですわ、ウルフさんで。知らない人に迷惑かけられませんから」

そう言ったエリカに、思わずウルフは大笑い。

「なんですの?」

「知人にも迷惑はかけてはいけませんよ、姫」

「あ、ああ、そうですわね、わたくしったら」

と、エリカも笑う。

「日差しキツいな、大丈夫か?」

「帽子、風で飛ばされてしまったんです」

アルビノの体は紫外線は大敵だ。

ウルフは、エリカを岩場の影に休ませ、

「日が落ちてから行動した方がいいな」

そう言った。

優しいウルフに、エリカは嬉しくなる。


「クオーーーーーーーー」

突然、翼龍が鳴いた。

見ると、それは大きな鷲が空から翼竜にちょっかいを出している。

曲がった鋭い嘴、脚には強い爪。

小動物を捕らえる程のチカラを持つ鷲。

だが、小動物どころじゃない、それはそれは大きな鷲で、大型の動物でも爪で空から攻撃されたら、ひとたまりもないだろう。

現に大きな翼龍にちょっかい出してるくらいだ。

「縄張りでしたのかしら?」

と、焦るエリカに、

「ああ、縄張りって言うか、安らかに寝ていた風の神を起こしたようだな」

と、ウルフは厄介そうな口調。

「風の神?」

「風を操る奴は嫌いなんだよ、気が荒い癖に、飽きたら知らん顔だし、ホント、風の向くまま、気の向くままの行動だから」

と、背中の剣を抜いた。

「え? ウルフさん? あの鷲は幽霊?」

「そ。恐らく、この地の神かな。あれだけでかいんだ、動物達にでも崇められてたのかもな」

「どうするんですか?」

「とりあえず追っ払ってくる。キミの翼龍がいじめられてるから」

「それは! わたくしの翼龍だからですか!?」

「ん? キミの翼龍しかいないじゃん、ここに」

そういう意味ではなくてと思ったが、剣を振り上げ、行ってしまうウルフに、引き止めて、更に尋ねる事はできず、エリカは只、佇んでしまう。


足の踏み場の悪い岩場。

「そう怒るなよ、別にこの地を乗っ取ろうとか考えてないし」

そう言うウルフに、大鷲は大きな爪で向かってくる。

爪を、ムーンライトで受け止める。

まるで刃物がぶつかり合うような音が鳴る。

「あっぶねぇなぁ! 俺を殺す気かよ! いいだろ、彼女、日中に行動できないんだよ、少し休ませてくれよ!」

だが、大鷲はウルフの言い分など聞く気がない。

それどころが、爪で剣を押さえつけ、曲がった鋭い嘴で、ウルフを突付こうとして来た。

咄嗟に避けるが、もう頭に来たウルフは、剣を薙ぎ払い、ジャンプしながら、本気で鷲に攻撃し始めた。

「俺にゴールデンスピリッツがないから、てめぇ、舐めてんな! 所詮、只の真剣、霊なんて斬れないだろうって思ってやがるな! ああ、その通りだよ! だがな、聞かせてやるぜ! 世にも耳障りな音になるだろう、死んだお前にはな!」

と、ウルフは経を唱え出した。

逃げる大鷲を追いかけるウルフ。

ウルフの経に、鷲は狂ったように、宙をグルグル舞う。

そして、大鷲は大きな体をドサーッと岩場に落とした。

近くで見れば、本当に大きい鷲だ。

よく肩の上などに鷲を乗せている人もいるが、逆に人が背中に乗れそうな程だ。

「・・・・・・小さい龍くらいはあるな」

と、ウルフは呟いた。

「おい、お前、いつまで気絶してるんだ? 感謝しろ? 俺にゴールデンスピリッツがなかった事に。あったら、今頃、お前、一突きだぞ」

言いながら、ウルフは辺りを見た——。


シンと静まる岩場。

どこからか水の音が聞こえる。

ウルフは水の音を頼りに歩き出す。

小さな綺麗な川が流れている。

あちこちで小さな花も風で揺れている。

そして、川を越え、少し行けば、木々も生えている。

風が木々の葉を揺らしている。

なのに、動物の気配がない。

ウルフはぼんやりと、大自然の中で、立っていた——。

ふと、気配に気付き、振り向くと、気絶していた大鷲が、岩場の高い場所からウルフを見下ろしている。

「・・・・・・置いて行かれたのか?」

ウルフの声が少し悲しそうだ。

「お前、この地の神なんだろう? 神霊なんだろう? でも動物達、安息の地を求めて行っちゃったのか? お前を置いて——」

只、ウルフを見下ろしている大鷲。

「・・・・・・一人ぼっちなのか? 似てるな、俺達」

少し首を傾げる大鷲。

「しょうがないよ、お前はこの地の神となって何年も何十年も何百年も、もしかしたら、何千年も、いや、もっともっと長い時間、神霊として守ってきたんだろうけど、動物達はもっと安息する事のできる地が必要だったんだよ。そこに新しい神がいるなら、その神に従ってでも、自分の命を消さない為に。お前だって、それを望んだから、行かせたんだろう? 命を絶やさない為にさ。だから、もういいじゃないか、お前が苛立ってたら、ここを吹き抜ける風が荒々しくて、苦しいよ」


だが、大鷲は忘れられないのだ。

この地に魂を置いて、長い月日、ずっと動物達を見守り、この地を愛してきた事を——。

小さな命が誕生し、その命を糧に生きる者がいて、更に広がる命。

それらが全て消えた。

その見守り続けた動物達がこの地を去る事を選んだ事も、そうした方がいいと納得した自分にも、理解できても、忘れる事はできない。


「なぁ? お前、俺と一緒に来るか?」

突然、そう言ったウルフ。

「この偉大なる広い地を捨て、この小さな剣に宿ってみるか?」

ウルフはムーンライトを掲げて見せる。

美しい聖剣ムーンライト。

「最初に言っておくが、お前はこの地の神だったかもしれないが、この剣に宿るなら俺が主だ。だから俺のチカラとなるんだ。もっと言うと、俺は風が嫌いだ。何故なら、お前ら風使いは自己中だからだ。だから別に無理に宿る必要はない」

大鷲はそんな事を言うウルフを見据えた。

見据えて、もしも笑うという感情があれば、大笑いしたいと思う。

そんな小さきモノになれる訳がないと——。

だが、その大鷲の心を見抜くように、

「・・・・・・更に言うが、小物には用はない。神だった奴だろうが何だろうが、俺に相応しくないと思った時点で、宿られても即、序霊させてもらう」

ウルフは大胆不敵に笑い、そう言った。


なんだろう、この男は。

銀の美しい髪を風で揺らし、青い瞳は真っ直ぐ穢れなく。

だが、口から出る言葉は、見た目の美しいだけのものではなく、強くもあれば弱くもあり、嘘かも本気かもわからないが、冗談でもなく、挑戦的かと思えば、友好的な口調で、なのに、どこか孤独で、寂しげで、自信はあるようで、なくて、只、只、真っ直ぐな意思は純粋で、穢れないブルーの瞳と同じ——。

不思議な男だと、大鷲は思う。

まるで欠けた月のような男だ——。

欠けているのなら、欠けた部分を補ってやるのも悪くはない。


鷲はウルフが掲げている美しいソードに向かって急下降する。

そして、ソードにブワッと風が舞う。

聖剣ムーンライトに宿ったのだ。


「うわ、嘘、マジで? 風使いを従わすなんて、なかなかできないぞ、普通!」

大鷲が宿った事が信じられないと、ウルフは大声を出す。

「てか、お前、マジで言う事聞くんだろうな!? 俺は気まぐれは嫌いだからな!」

だが、ウルフも気に入っているようだ、表情が柔らかい。


ウルフが戻ってくるのを見つけると、エリカが駆けて来た。

「馬鹿だな、日陰にいろよ」

「心配だったから」

「俺は大丈夫だよ」

「でも、心配だったから」

「・・・・・・ありがとう」

少し照れてウルフが言うと、エリカも少し照れて、俯いた。


満月が顔を出し、再びエリカは龍笛を加えたまま、龍に跨り、ウルフも一緒に乗り、何故か、龍を乗る指導をする。

エリカの長い髪が風でなびいて、ウルフの頬をかする。

くすぐったい。

何故だろう、一人じゃないんだと思う事が、こんなにも嬉しい事だなんて、初めて知った気がした——。


「あ、そうだ、ミニット落下したじゃん。あれ、ルピナスで弁償してよ?」

「え?」

と、思わず、咥えていた笛をエリカは落とす。

「ああああああああああああああああ!!!!」

二人、悲鳴に似た声で、地上に落ちて行く笛を見ている。

「何落としてんだよ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

「また暴走したらどうすんだよ!」

「また助けて下さい!」

「無茶言うなよ! ああ! もう! アンタ、ドンくさい姫だなぁ! そんなんでルピナスやってけんの!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

「俺に謝っても仕方ないだろう」

「あの、わたくし、高い所が苦手で!」

「はぁ!? それ今頃言う? だからドンくさいんだよ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

「・・・・・・まぁ、いいんじゃん。エリカさん、綺麗だし、優しいし、ドンくさくても」

「え?」

「いい所もあれば、悪い所だってあるさ。誰だって。それに、翼龍、今は大人しく言う事聞いてくれてるしね」

「・・・・・・はい」

笑顔で頷くエリカは満月の光にとても綺麗だ——。


「あの、ウルフさん? ミニットでどこへ行く予定だったんですか?」

「ん? ああ、風の行方を知りたかったんだ」

「風の行方?」

「ほら、こうして風に身を任せたら、空は怖くない。高い所だって気持ちいいよ」

エリカは振り向いて、ウルフを見る。

風に揺れる銀髪と、月明かりに光るブルーの瞳。

「落ちても怖くなさそうですね」

そう言ったエリカに、ウルフは笑う。

「落ちたら怖いよ」

と。

エリカはクスクス笑いながら、恋に落ちたかもしれないと思う——。

「ほら、エリカさん、月に手が届きそうだ」

空に手を伸ばすウルフと一緒に、エリカも手をゆっくりと伸ばしてみた。

「ほらね、怖くない」

そのウルフの声に、エリカはコクンと頷いた。


ウルフはこのまま月の光を浴びながら、親友に逢いに行こうかと考えている。

親友は神学校での勉強で疲れているかもしれない。

もう寝ているかもしれない。

だけど、直ぐに見せたいのだ。

ゴールデンスピリッツを。

やっと対等になれた気がする気持ち。

このはしゃぐような感情。

有り得ない上機嫌さ。

わざわざ見せに来たなんて、らしくないって笑うかもしれないが、全部、月の光のせいにしてしまえばいい。

イカレていると言われても、月の光がそうさせているんだと——。


満月の光が俺を照らす。

やっとキミの隣に並んだ事に、焦ったキミの顔を見たいんだ。

俺はもっと強くなるよ、シンバ——。


〜Moon Light END〜

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