21.BACK TO BACK


今、ピエロの仮面を外し、電柱の天辺から、通学路へ急ぐ子供達を見下ろし、宙に浮く青年。


年齢は20歳前後と言う感じの見た目。


今、その青年の背後に、箒に跨った女が現れ、


「どう? 日本は?」


そう言った。


青年は振り向かずに、


「まぁまぁ面白いよ」


と、ほくそ笑む。


「それなら良かった、あぁ、そうそう、日本に滞在中に、アナタのお世話をする使い魔を紹介するわ」


女はそう言って、手を伸ばすと、カラスが飛んで来て、


「カァ! カァー!」


と、鳴くから、青年は振り向いて、


「日本の魔女の使い魔はカラスか」


と、よろしくとばかりに笑顔で手を伸ばす。その手にカラスは飛び乗り、


「よろしく」


そう言うので、


「英語喋れる?」


と、聞いてみる。


「ノー」


と、答えるカラスに、


「ユーモアはありそうだ」


と、青年は、気に入ったと、笑う。


青年の髪はブラック、肌の色は白、目の色はグリーン。


髪型はツーブロックのマッシュヘア。


服装は上下黒のノームコア。


「アナタの、そもそもの相棒は連れて来なかったの?」


「あぁ、アイツは日本のニオイが苦手らしい。醤油っぽいニオイが、どうも鼻に付くとかで」


「へぇ、種族は何? イギリスの魔女は主に何を使い魔としてたかしら? 猫? それとも梟? ネズミ? 蛇? あ、昆虫って事もあるわよね? 蜘蛛とか蝶々とか……」


青年は、笑いながら聞いてるから、女は、その不敵な笑みに、まさかと、


「狼なの?」


と、聞くが、青年は笑いながら首を振る。


「じゃぁ、何? 人化する蝙蝠とか?」


「笑えないな」


そう言いながら笑っている青年は、


「カーバンクル」


そう答えた。


「え?」


「カーバンクルだよ、知らない? こう、なんか、子犬みたいな、リスみたいな? いや、違うな、ウサギ? キツネ? うーん、例えるのが難しいな、ちっちゃなドラゴンみたいな? それも違うか……」


「いや、見た目は大体知ってるわよ、額に赤い宝石があるのよね?」


「そうそう」


「でもカーバンクルは伝説上の生き物よ」


そう言った女に、青年は笑う。


「もしかして、私をからかってるの? イギリス人ってブラックジョークとか好きって聞いてるけど」


「からかってないよ、只、伝説上の生き物なんて言うから、おかしくて。誰目線の意見なのかな? だって、ヴァンパイアもウルフマンも伝説上の生き物だし、魔女だって、人間からしたら架空だよね」


「本当にカーバンクルを使い魔にしてるの?」


「うん」


「どうやって?」


「え? どうやってって、日本の魔女は、どうやって使い魔にしてるの?」


と、肩に乗っているカラスを見て、逆に問う。


「魔法で動物達を使い魔にしてるのよ、そんなの、日本じゃなくても、世界各国、魔女として普通の事でしょ?」


「普通の事だけど、それを聞いて来たのはソッチだから、また日本はやり方が違うのかと思ってさ」


「だって……だったら……アナタは魔法でカーバンクルを使い魔にした事になる……それだけの魔力を持っているって事なの……?」


驚愕の表情の女に、


「どうでもいいよ」


と、ヘラっと笑う青年。


「それよりも日本のウルフマンは面白いね。思わず、手を貸しそうになった」


「え?」


「ハロウィンの日に、ヴァンパイアにやられそうな子供がいたからさ、助けてやろうと思ったんだけど、ウルフマンに、あの子、窓から落ちそうで、今にもやられそうだよって指差して教えてやったんだ」


青年は楽しそうに話す。


「そしたら急いで助けに向かって」


と、笑いながら、


「いや、ウルフマンが子供を助けるなんてさ」


と、思い出しながら、笑いが止まらず、


「それこそ、餌をとられるのがイヤだったのかなって思ったけど、そうじゃないんだよね、本当に命を助けてたんだ、ウルフマンが」


と、これが笑わずにいられる?と、女を見た。


「ヴァンパイアとウルフマンの戦いに、ウルフマンの味方をしたって事?」


女は怖い顔になり、青年にそう聞くと、


「そんな深刻にとらないでよ。ちょっとした事だけど、魔女団の規則に背いた行動だって事くらいは、まぁ、理解してる。でも面白くなる方が正解だって思わない? それにさ、魔女だって事は知られてないし、魔法も使ってない。ちょっと教えてあげただけで、味方って訳でもないよ。ちゃんと、BACK TO BACK. 仲の悪い関係のままだよ」


と、全然、反省する様子もないヘラヘラした表情で、そう言うから、女は、怖い顔のまま、


「なんでこんな奴が日本に呼ばれたのかしら? トラブルメーカーとしか思えない」


と、呟いた後、


「使い魔は渡したわ、彼の名は紫黒。仲良くやってね」


そう言うと、これ以上は関わりたくないと言う風に、箒を方向転換させて、急いで飛び去った。


青年は肩に乗っているカラスを見て、


「シコク? お前、シコクって名前なの?」


と、聞くと、カラスも青年の顔を覗き込み、頷く仕草をして、


「お前の名前は? 何と呼べばいい?」


そう聞いた。


「んじゃ、とりあえず、ご主人様で」


青年がそう言うので、カラスは黙り込む。


「なんだよ? ご主人様って呼ぶのイヤなの? じゃぁ、飼い主様って呼ぶ?」


「飼われてない!!」


「飼われてるも同然だと思うよ?」


「お世話をしてあげるのはコッチだ!」


「まぁ、そういう事にしといてあげるよ」


「しといてあげる!? そういう事だろう!!」


「何怒ってるの?」


「怒らせてるのは誰だ!!」


「えぇ? カラスってメンドクサイ性格してるね」


「性格で言うなら、おかしいのはソッチだからな!!」


「あのさ、ヴァンパイアとウルフマンみたいな関係になる必要ないんだよ? 仲良くやっていこうよ、仲良くね?」


「仲良くやろうと名前を聞いたのに、ソッチが変な事を言い出すから悪い!」


「あ、そう、わかったよ。名前を教えればいいんだろ? でも呼び捨て禁止だからね? ここは日本なんだから、目上の人に対する尊敬の意味で、ちゃんと『さん』付けしてよ? オレの名前は……」


魔女団が出て来たと言う事は、多くの人狼とヴァンパイアの存在を消す事にある。


今、青年の額を、冬桜の花びらが掠めた。


それと同時に雪がチラチラ……


青年は空を見上げ、


「いいね。雪と桜の花びらが幻想的で美しいな。この景色だけで、日本に来た甲斐があった」


と、青年は、嬉しそうに笑いながら、目線を下におろし、


「さて、あの白い狼は、どれだけ楽しませてくれるかな」


と、嬉しそうに言う。


でも、狙った獲物は逃がさない肉食獣のような目は笑っていない。


「遥々遠くから来たんだ、日本に来て良かったと、もっと思わせてくれよ、ホワイトウルフマン」


と、その囁きだけを残し、青年は姿を消した。


雪が舞い落ちて、桜の花びらが舞い上がり、風と共に飛んで行き、ヒラヒラ、ヒラヒラと……

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BACK TO BACK ソメイヨシノ @my_story_collection

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