第34話 金属のアレ

「教導魔術師団のクランランキング3位から88位だって」




 タブレットでクランランキングを見ていた綾が父親であるマスターに告げた。


「ああ……。そりゃあ誠に楯突いたんだ、そうなるだろうよ」


「え、どういうことなの? 誠が何かしたの?」


「まあ、いろいろな」


「何よそれ? まさか犯罪でもさせたんじゃないでしょうね?」


 綾の目が吊り上がる。


 おお、怖い怖い。


 誠のことになるとこれだ。


 昔は『パパ〜、パパ〜!』って懐いてくれていたのに。


 父親というものはいつの時代も娘に邪険にされるものなのか。


 雄也は遠い目をしながら綾に答える。


「いや、そういうわけではないんだが、まあお前には伝えづらい内容があったんだ。誠から何も聞かされてないんだろ? アイツの意を汲んでやれ」


「……わかった」



 我が娘ながら誠のことになるとチョロいな。


 一応誠から内容は聞いている。


 『反撃の衣』を直したらなぜか魔法反射の神器をよこせと言われたので永久に弱体化させたうえクランに迷惑がかからないように記憶を少し遡らせた。


 反撃にしては正当防衛の範囲を超えてないか、と思ったが『綾を人質にする』と言ったらしいので命があるだけマシと思ってほしいところだ。


 俺だったら全員瀕死に追い込んでるぞ。



◇◇◇



 そんな誠は上級ダンジョン『夜月』に一人で潜っていた。



 とびかかってくるワーウルフ。


 ふさふさの獣人が両手にある鋭く長い爪を尖らせて振り回してくる。

 

 ガキン、っと僕の手甲とかち合うタイミングで攻撃をリターンし衝撃を返されたワーウルフは少しだけ後ろにたたらを踏む。


「マシンガンジャブ!」


 怯んだワーウルフの懐に潜り込んで浴びせるのはショートジャブの嵐。

 

 拳の乱打を浴びたワーウルフはわずかな呻き声をあげて消えていった。



「ふぅっ、こんなもんか」



 ちょっとだけ疲れたので休憩。


 と思ったら、視界の片隅にキラキラと光るものが飛んでいた。


 見ると、それはメタルバタフライ。


 別名『幸運の蝶』だ。


 倒すと経験値がたっぷり。

   

 落とす魔石は高値で買取。


 レアドロップは幸せのネックレス(取得経験値増加)。


 ただし、防御力は異常に高く素早さも非常に高い。

 

 上級ダンジョンに来る程度の冒険者では倒すことは難しい。


 そして、滅多に出会わない。



 こういう時はスピード勝負。



◇◇◇



「魔神拳!」


 防御無視のクリティカル攻撃。


 真っ赤に光り輝く拳をメタルバタフライに叩きつける。


 でも、命中率が激低。

 10回に1回当たるかどうか。



 スカッ




 当然のごとく空振り。


 そして銀色のメタリックな蝶は超高速で逃げていった。




 あーあ。


 しゃあないか。






「リターン、メタルバタフライの場所を!」




 目にも止まらぬ速さでダンジョンの奥へ飛び去っていったメタリックな蝶は再び僕の目の前にいた。


 ふふっ、僕からは逃れられない!




「魔神拳!」


 スカッ


 メタルバタフライ逃走


 【リターン】




 というやり取りを10回ほど繰り返して、ようやく魔神拳がヒットし、銀色の蝶は魔石を残して消えていった。

 

 ちなみに魔石の形も蝶々の形だ。


 そしてレベルアップ。


 500後半だったレベルが一気に700までアップ。


 たった一匹倒しただけでコレだ。


 ていうか、魔神拳はマスターから無理やり習得させられた技だ。


 『絶対必要になるから、血反吐を吐いてでも習得しろ』と言われ、さらに習得した後もやれ、と言われたことがある。








 【リターン】発動!


 メタルバタフライを倒す前に戻す!!




 そして、僕の目の前に金属の蝶が再びに現れた。



◇◇◇



「あれ、誠、強くなった?」



 ダンジョンから帰ってきた僕に声をかけてきた綾のセリフがそれだった。


 メタルバタフライの魔石は一個だけギルドに納めてきた。


 受付嬢が「えっ……」と言いかけたが、慌てて言葉を飲み込んだくらいにはレアなものだった。



「うん、メタルバタフライに遭遇してね。稼がせてもらった」


 いやもうね、嫌になるくらい倒してきたよ。


 ていうか、魔神拳の命中率が低すぎるせいでなかなか数多く倒す、っていうわけにはいかなかったから、どっちかっていうと嫌になるくらい外れたよ、というのが正しいかな。


「あー、あれね。私は一回も見たことないわ。誠、私がみたところレベル1600くらいかな?」


 さすが綾。正解だ。


「わかる? 結構スキルも覚えたよ。気配察知なんかも強くなったしね。それと、綾にプレゼント。幸せのネックレスだよ」


「え、それってメタルバタフライのレアドロップじゃあ…… 悪いよ、誠が使ってよ」


「遠慮しなくてもいいんだよ、綾。もう一つあるから。ていうか二つ出るまで粘ったからちょっと帰ってくるのに時間かかっちゃったんだけど」


「ありがとう。誠」



「おう、思ったより早かったな。なら次をやろうか」


 マスターがぬっと出てきた。


「次、って何ですか?」


「いや、お前だけレベル爆上げしても困るだろ。サプリームの試練は獅童たちとも受けるんだからさ」






◆◆◆◆◆◆


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役立たずと言われ幼馴染を寝取られクランを追い出されましたがスキル【リターン】で現代最強探索者になります! 気まぐれ @kimagureru

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