第9話「"超常"」
スイッチを押した途端……ボカン!!
……とは、ならなかった。
「……っ!……っ!? 爆発しない……!?」
動揺に声が震える看守長。
手元のリモコンを何度も押すが、五つの王冠はうんともすんとも言わない。
「あらら……どうしちゃった? 故障かな……?」
「何をしたの……!?」
「さぁ? 水に入ったときにでも壊れたんじゃない? ふふふふふ……」
「この……!!」
肩を怒らせてカタリに詰め寄る看守長。
お構いなしに、カタリは語り続ける。
「たしかさ、ルールはこうだったよね。『ゲーム終了時に王様だった人は〜、"王冠"が爆発しちゃうよ☆』みたいな? じゃあさ、この場合ってどうなるのかな? "王冠"が爆発しない以上さー……」
「黙れ 」
ゴリ……とカタリの額に、銃口が押し付けられる。
逆光の中ギラギラ光る、たしかな殺意を感じさせる目。
それを正面から受け止めて、カタリは口を三日月のように割いて嗤う。
「……殺すの?」
「…………」
「ねぇ、撃たないの……?」
「…………ッ!」
「ねぇ…………!」
ガチリ……!
撃鉄が上がる。
「やめよ☆、看守長……」
オルカンが鼻先で、看守長の背中を小突いた。
「…………はい 」
看守長は一度ぎゅっと目元に皺を寄せたのち、いつもの鉄面皮に戻った。
スッと立ち上がり、オルカンの脇に立つ。
「みんな☆、今回はボクらの不手際だ……☆。まさか、"王冠"が故障しちゃうなんてね……だから、爆発王冠ゲームは、死者が出ないまま、これにて終了だよ☆!」
オルカンが人混みの中心で宣言する。
しばしの沈黙。
オルカンは踵を返して、ぼちゃん!と用水路に流れていった。
瞬間、わぁっ……!! と歓喜に包まれる会議場。
囚人たちは目に涙を浮かべ、生き残ったお互いを祝福する。
それは、ワールドカップで優勝したかのような……。
いや、それすら霞むような……魂からの歓喜の渦。
「……こんなの初めてだ 」
デスゲームは、当たり前だが人が死ぬ。
ゲーム終了後は、普通どいつもこいつもお通夜みたいな顔をして、生き残った不幸とこれから先の絶望を噛み締めるもの、なんだが……。
誰も死なないと、こうなるんだな……。
歓声の真っ只中に突っ立って、俺はしばし呆然としていた。
「てーんめいっ 」
「……おう 」
マイが肩からどーんと体当たりしてくる。
「やったねぇ 」
「……やったな 」
喜び合いながらも……俺の心中は複雑だった。
頭では、この歓喜の波に呑まれ、達成感と喜びを感じている。
だが……胃の底では、シクシクとした冷たい何かがぶるぶると震えていた。
懲罰房に連れて行かれるカタリを眺めながら、俺は胸の辺りをそっと抑えた。
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デスゲーム・サークル 〜デスゲームの帝王たちが『犠牲者ゼロ人』を目指します〜 八日目のセミ @semi_8days
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