第8話「(デス)ゲーム・エンド」


 

 《国際会議》が終わった途端、国境線は消失した。


 何のシステム的権限も行使できない、藤宮ふじのみや 濤子とうこという唯一王が統治することで、世界は平和になった。


 祝福のファンファーレが鳴り響く……脳内で。



 ふざけてる場合じゃない。


 "タスク"がやばいのだ。



 俺は慣れない針仕事に悪戦苦闘していた。



「いっつ……!」


「また刺したのー?」


「うっせ 」



 焦るあまり、指先をぶっすり針で刺す俺を、マイが小馬鹿にする。


 俺は心の中で涙目になりながら、一生懸命布団の端を縫い合わせていた。



 国が統一された影響で、各国の"タスク"全てが全国民にのしかかることになった。


 "タスク"は、『毛布を千枚作る』『タオルを千枚作る』『靴下を千枚作る』『石鹸を千個作る』『薬を千個作る』……の五つ。



 全"タスク"共通で、成功で処刑残高+"10日"、失敗で-"7日"となっている。



 このままひとつも"タスク"をクリアせずにゲームが終了すると、なんと全員-"35日"もされてしまう。


 そうなりゃ全員お陀仏だ。



 というわけで、トウコの指示の元、俺たち国民はせっせと毛布を作っているわけであった。


 難しそうな『石鹸』と『薬』の"タスク"は捨て、他三つを国民総出で頑張っている。



「おい、カタリも手伝えよ 」


「いやぁ、俺、大事な仕事があってさー。うん 」



 遠くの壁で、何故か逆立ちをしているカタリ。


 逆立ちの体勢のまま、カサカサと左右にスライドしている。



「……乱数調整か?」


「そのとーり 」


「どうせ役立たねぇだろうがそれ。そんなの良いから仕事しろ!」


「やだ!! 働きたくない!!」



 いっそ清々しいほどのニート宣言。


 この穀潰しが……!



「見ろ! レイカだって一生懸命頑張ってるんだぞ! あのレイカだって!」


「……だって、私することなかったし 」


「私もなかったけどね!!」



 拗ねた顔のレイカに、あははーと笑うマイ。



「たしかに……トウコちゃんとテンちゃんだけに活躍させとくのは、ちょっと癪かも……」


「そうか、ならホラ、お前の分ーー」


「ーーだが断る!!」



 ーー戦争が始まった。



「あちゃー、派手に始まっちゃったねー」


「…………だね 」



 床を、壁を、天井を駆け走り、逃げ回るカタリを追い回す。


 人の死角を縫うように飛び、フェイントを交え、姿を消そうとするカタリ。


 それを見逃さず、圧倒的なフィジカルで最短距離をゴリ押しで通す俺。



 広い部屋中に旋風が巻き上がり、それに巻き込まれ裁縫道具が飛ぶ。



「オイ!! 遊んでんじゃねぇ!! 仕事しろ!!」



 室内に響き渡る怒声。


 親方ーー土方のオッサンのマジギレ一喝に、俺とカタリはスン……と動きを止めた。


 ズンズンと近寄ってくるオッサン。



 説教の予感に、俺とカタリは震え合う。



 チラ、と助け舟を求めて……遠くの国王陛下に視線をやる。



 彼女は一瞬俺と目が合ったにも関わらず、サッと目を逸らし、手元の作業を物凄いスピードでこなし始めた。



 ……薄情者!!



 俺の心の叫びは、オッサンの説教の第一声に掻き消された……。







「ゲーム終了〜〜〜☆!!」



 例の如く、水槽にざっぱーんと着水するハイテンションイルカ。



 中央の国際会議場。その上座高めの位置で、オルカンは踊る。


 脇には看守たち。


 その対面には、ゲーム開始前と同じように囚人たちが整列している。


 流石にみんな疲弊しているらしく、くたびれたヨレヨレの空気が漂っていた。



「いや〜、まさかこんなに生き残るとはね〜☆ ボク、予想してなかったよ☆!!」



 キャッ!と驚いてみせるオルカン。



 うぜぇ。



「じゃ〜早速ぅ……結果発表〜〜〜☆!!!」



 ドンドンドンぱふぱふっ☆


 楽器を持った着ぐるみ看守たちが、軽快なSEを奏でる。

 


「なんとなんと〜……死亡者はゼロ人☆!! しかも〜、全員、処刑残高プラス"16日"、だって!! すご〜い☆!!おめでとう☆!!ぱちぱちぱち〜☆!!」



 くるくる回転乱舞しながら、ヒレを叩くオルカン。



「うんうん……みんなよく頑張ったね……☆! ボク、感動しちゃったよ! これこそ愛と平和だね……☆」



 キラン、と光る涙を一滴こぼし、オルカンはしみじみと語る。



 本気で言ってんのかこのイルカ。



「よーし、じゃあ、最後に〜☆! これからみんなの為に犠牲になってくれる、囚人番号四十七番さんに、みんな拍手〜☆!!」



 わぁ〜!とテンション高く拍手するオルカン。


 合わせて、看守たちも一斉に拍手する。



 厳しい豪雨が屋根を叩くかのような拍手の嵐。



 それを浴びながら、囚人たちは誰一人として拍手しようとしない。



 つれないな〜☆、と残念そうにしながら、オルカンは続ける。



「じゃあ、四十七番さん!! 最後に一言どうぞ☆!!」



 静まり返る会議場。


 さっきまでとは一転、沈み込むような静寂が俺たちを包み込んでいる。



 性格悪すぎだろ……クソイルカ。



「あれ〜☆? だんまり? そっか〜……なら、しょうがないよね☆!! じゃあ早速〜、爆発スイッチ〜……オーー」


「ーー最後に一言……あるわよ?」



 オルカンの声を遮る、透き通るような女性の声。


 声量は然程大きくない……にも関わらず、よく空間に染み渡る、天性のカリスマボイス。



「いいかしら? 喋っても?」



 ツカツカと靴を鳴らし、オルカンの前に歩み出る女。


 高い壇上のオルカンに対し、謁見を望む下人のような構図。


 けれど、女の態度は、下人のそれではない。


 どこを取っても傲岸不遜である。



「……舌はどしたの?」



 オルカンが尋ねる。



「……なんのことかしら?」



 トウコは口元のマスクを剥ぎ取ると、見せつけるようにべぇ、とピンク色の形の良い舌を突き出した。



 ざわざわ……と揺れる囚人たち。


 顔を顰める看守長。


 表情を消し、目を細めるオルカン。



「そんなことより……私の"最後の一言"、聞いてくれるんでしょ?」

 

「……うん☆、でもさ、その前に……"王冠"はどうしたのかな?」



 トウコの頭上に目をやる。


 たしかに"王冠"がない。



「あら、私の言いたいことと質問の解答……どうやら一緒に答えれそうよ……?」



 トウコは口元を手で隠し、優雅に笑うと……ス、とオルカンの背後を指し示した。



「"王冠"はね……さっき"彼"に、ぜんぶ譲っちゃった♡」



 オルカンがはっと後ろを振り向く。



「じゃじゃーん!!俺だよー!!」



 そこには、王冠を五つ身に付けたカタリが立っていた。



「なぁ……!?」



 驚愕するオルカン。


 騒然とする看守たち。



 それら全ておかまいなしに、カタリはとうっと水槽に飛び込んだ。



「な、なにを……」


「ねぇねぇ、さっきからゲーム終了してるけどさ。爆発させないの? "王冠" 」



 朗らかな笑顔で、目の前のオルカンに尋ねるカタリ。



 オルカンは冷や汗を垂らすと、ぴょんっと水槽の縁から飛び降りた。



「あはは、待ってよー」



 無邪気に笑いながら、カタリはその後を追う。


 ぎゃー!と叫びながらぴょんぴょん跳ねて逃げ回るオルカン。


 それを心底楽しそうに追いかけ回すカタリ。



「早くこいつ捕まえてーッ☆!!」



 オルカンの叫びに、看守たちが一斉に動き出す。


 カタリを捕まえようと数十人の看守が踊りかかるも……カタリは躱す躱す……。


 オルカンはついに囚人の列にまで突っ込んでぐちゃぐちゃに逃げ回り、場は混沌の様相を呈してきた。



 ついには……。



「おっ……ととと……」



 カタリは看守五人にのし掛かられ、地面に押し倒された。



「やれーっ☆!!」



 オルカンの号令。



 同時、看守長が手元のリモコンのスイッチをーー押した。







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