第3話 魔法
トメモソウは五~七センチ、大きくても十センチくらい、見た目はほぼパセリだけど色が真っ黒。
崖や岩の多いところで、なおかつ日当たりのいいところに生えるちょっと採取が面倒な植物。
そして根本は残して切り取らないといけなくて、切り取ったらすぐに切り口を強く縛るか塞がないと価値が下がる。
「これも見事なトメモソウですねぇ~」
本日七本目の十センチはあるトメモソウを採取しながら思わず独り言がでてしまう。
すぐに切り口を強く縛って籠にしまう。
ただこのトメモソウ凄いところに生えてた。崖の中腹らへんの頑張って壁に張り付けばちょっと移動できそうな感じに岩が出てるところ。
今頑張って崖にへばりつきながら作業してます。
風が吹くたびに崖にピタッと張り付く、これは買い替えたちょっと小さめの籠で正解だったかもしれない。
こんなところでも生き物はいるようで虫がいっぱいいる。
崖にへばりついて移動してる以上仕方がないけど、やっぱりきついので魔法を使い無理やり虫を押しのけて近づけないようにして進む。
進めるとこまで進むと他に行けそうな場所がないかを顔だけ動かして探す。
あの後二カ所ほどトメモソウが生えてる場所があったので合計十八本、小さいサイズは取ってきてないのでこの崖だけでだいぶ取ることができた。
改めて下から崖を見上げる。
これを命綱無しで上ったり下りたりできるって魔法は便利だ。
ただ何でもできるというわけではなく、魔法はイメージだけどイメージじゃない。
どんなにイメージしても金は出せないし、瞬間移動や、召喚という感じのいかにも魔法!って感じのは無理みたい。
その他にも人によって、できるできないこともあるし、ある日突然使えるようになったり、努力し続けて使えるようになった人もいる。
一度は名前を聞くくらい凄い魔法を使えるという人がいると聞いて見に行ったことがある。なかなか魔法を使わないし、警備が凄いしで結局何かを爆発させてるところくらいしか見れなかった。
聞いたり、色々観察したりしてわかったことはそれくらい。
よくある目をつぶって体の中に意識を集中させても何もわからないし、結局謎だ。
わからないことをグダグダ考えててもご飯は食べれないので仕事だ。
新しく買った管理地の地図を出して移動する。
せっかくだし何かの役に立つかもしれないので、この前言われた足跡や痕跡をなるべく残さないように気を付けながら目的のものを探してみる。
体をうねうねっと柔らかく、草はは避けるようにどかし、岩は滑るように乗り越える。
少し移動して振り返ってみるを繰り返していると、たまに折れてる草木や岩には何か押し付けられたような跡が残ってる。
これは難しい。人が通ってなさそうな場所を移動してる以上、痕跡は残ってしまうしすり通り抜けるなんて無理なのでどうしてもゼロには出来ない気がする。
鬼ごっこしたらすぐ見つかっちゃいそうだ。
ただこの移動方法だと靴以外、服や装備がほとんど汚れない。
今までは虫だけ押し除けてたけどこれは練習してみてもいい気がする。
練習がてら草木の中をゆっくり蛇行するように移動する。
二つの葉の下に特徴的なくるんとした棘が複数生えてるカギヅメチョウソウを見つけたので採取。
一本あれば複数本はあるはずなのでその周辺をぐるぐると移動の練習しつつ探していく。
ゆっくり滑るように移動し見逃さないように気を付ける。
取れそうなサイズは取ったので地図を出して次の場所を決める。
周りを背の高い草木に囲まれててどこかわからない。
仕方がないので見える範囲で一番背の高い木に登る。
いつも通り登ると足跡が残りそうなので、巻き付き滑るように登ってく。
流石に上の方の細い枝や葉っぱを落とさずに上るのは難しそうなので、見える範囲の枝や葉を全て押さえつけるようにし体を木の上に引っ張り上げる。
遠くに崖が見える、気付かずにかなりの距離を移動していたようだ。
崖の位置から管理地の端っこくらいまで来てしまったことはわかったので、とりあえず戻る。
ギルド管理地から外れると迷ったときに地図を見て移動ができなくなるし、確認報告されていない魔物などと遭遇する確率も予想できないものになるので、通常は地図内のみで行動をする。
管理地以外でも国などから明確に立ち入りが禁止されていない土地であれば自由に行動していい。もちろん自己責任だが。
そういった土地に入ってギルドに地図を売ることでお金をもらってる人もいると聞いたし、二度と帰ってこなかった人もいる。
国内でも川挟んだ向かい側がまだ誰も踏み入れてない土地だった、なんてこともあるみたいだし人が住みやすく集まりやすい土地というのは限られてるんだろう。
地図に記されている場所まで戻りつつこの後のことを考える。
まだ昼過ぎくらいだが大分端っこまで来てしまったし、今から別のところに移動して採取を続けると日が暮れる。
管理地内で野宿なんてしたくない。
真っ直ぐ管理地から出ることを優先しその途中で採取できるもの見つけたらしていくことにしよう。
草木を左右にどかし、体を押し上げて岩を乗り越え、体を滑らせるように前へ押し出し進み、入口までまっすぐ最短距離を移動する。
足跡や痕跡など気にしなければかなり早い、これなら夜は宿に帰れそうだ。
一瞬白いものが見えた気がするので立ち止まって見に行ってみる。
タンポポの針バージョンといえばイメージしやすいかもしれない。
綿毛が棘になってる感じといえばいいのか、とにかく目立つ。
これは根っこごと採取しないといけないので丁寧に掘りおこす。
周りを見ると木の隙間から地面に日の当たってる場所に生えてるのが見えた。
採取して問題ない大きさのものを掘っていく。
まだ採取できそうなものは見えるけど帰ることを考えると余裕をもって移動したいのでここまでにして、また直線で入り口を目指す。
ふと何か違和感?を感じて身をかがめ姿を隠す。
自分の移動する音とは別に聞こえた気がしたんだけど、聞き間違いかな?
試しに足下に落ちてる石を、自分から五メートルほど離れた位置まで移動させてからさっきまで進んでいた方向に全力で弾き飛ばす。
ザザーっと音を立て石が草木の中へ飛んで行ったあとに、ガサッと少しだけ音がした。それに別の場所でパキッと枝か何かを踏んだ音も聞こえた。
………何かいますねぇ?
音のした方向は大体わかったけど何も見えないし、複数の場合音のしてない別の場所も危ない。
最悪なのは魔物。
この場合収穫したものの切り口の匂いでたぶんばれてるはず。
次に獣人の場合も匂いと音でばれてる可能性がある。
人やそれ以外の種族なら見つからない自信がある。
この管理地での魔物の目撃情報は半年前で、すでに処理されていたはず。
管理地であっても相手がわからない以上「こんにちは~」と自分から出ていく選択肢はない。
暫くそのまま動かずに我慢する。
短槍を持ってる右手が少しかゆい、意識するとムズムズしてくる。
ずっと同じ姿勢で足しびれてきそう、どうしよう。
そんなことを考えてると、ガサガサっと音がし複数の音が反対方向に離れるように移動していった。
話し声は聞こえなかったし、姿も確認できなかった。
音が離れて聞こえなくなってからもその場から動かず暫く様子を見る。
頭の中で三百数えて何もないので、もういいかな?と足の位置を変える。
問題なさそうなのでその場から全力で離脱。
すぐに大きい木に登り枝や葉を広範囲で纏めてつかみ木の上に飛び出す。
あとはそのまま木の上方の葉を纏めて押さえつけながら跳ねながら移動し距離を稼ぐ。
「カギヅメチョウソウが十本、シロトゲバシリソウが二十三本、トメモソウが十八本全て買い取りでよろしいでしょうか?」
「はい」
「はい、それでは少しお待ちください」
「人か動物か魔物かわからないものと出会った場合の報告ってどうするんですか?」
「えーと、何か見たことがないものに遭遇したんですか?」
ギルドで報告するべきなのかわからなかったので、とりあえず聞いてみた。
音は聞こえたが姿が見えずに結局何かわからなかった状況を話す。
「そういう状況はたまにあります、相手がわからない場合その対応で正解です。似たような状況で下手な行動してを問題になったケースもありますので」
登録者同士で殺し合いになったケースもあったそうでなかなかに怖い。
相手が魔物だった場合もあるそうだ。
「もちろん報告がない場合もあると思います。まあ報告出来ないのか、そもそも報告自体ができない状態の場合もありますので」
と苦笑いしながら買い取り所の職員さんが教えてくれた。
ノプス受36あ5 初心者補助依頼 かいわれだいこんぶ @renkonkon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ノプス受36あ5 初心者補助依頼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます