第四十六話 心は氷のように
《草間町 西門付近:ティナ》
「じゃ、挨拶終わったから」
そう言って
「んなっ!!」
声のするの方を向くと、
アリに命令している人の前に六花さんはいた。
反射的に六花さんを殴ろうとしたのだろう。
そのパンチは腰が引けたものだった。
「動かないで、面倒くさいから」
六花さんがそう言っただけで、
相手の手足が凍る。
「す、すごい。圧倒的すぎる……」
「そりゃそうさね。六花はアタシらの前の五妖傑。アタシらは前の五妖傑が居ないからなったただの穴埋め。でも、前の五人は強すぎて周りにそう呼ばれた大妖怪中の大妖怪さね」
「歴代最強と呼ばれた先代の六芒鬼とも互角にやり合えるほど兄貴たちは最強なんだぞぃ!」
「兄貴!? あの子、男の子だったの?」
小さな男の子の言葉にまた驚きなおす。
「ばかやろーめぃ! 兄貴って言ったら
「
「そうか! ようこそミコトグニだばかやろこのやろーめぃ!!」
この子、口は悪いけど
素直でかわいいかもしれない。
「で、首謀者は誰なの?」
「い、言うわけあるか!!」
六花さんは質問を始める。
「そう。話したくなったら、言って」
そう言って六花さんは
相手の凍った右の小指を砕いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アリの人は叫ぶ。
「二本目、行くね」
「ちょっと待て!! ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
「三本目、四本目……五本目。あ、指無くなった。もう腕いらないね。右腕さようなら。次は左。六本目、七本目……」
「言う! 言うから待ってくれ!! うぎゃああああああ!!」
確かに六花さんは、
『話したくなったら、言って』と言ってたけど……。
「あんなに躊躇なく折るなんて……」
「六花の心は氷のように冷たいからねぇ。仲間に対してはまぁまぁ心開くさね。……ただ敵とみなした者にはあれほど非情な奴はいないさね」
そう言って
「は、般若様だ! 私以外はエサで釣ったその辺の『霊鬼』だが、私は般若様に
「子供? あの二人?」
「あぁ、そうだ」
「なんで? 片方はまだわかるけど」
「そ、そこまでは知らん! 私が言われたのは現 頭首の
六花さんは少しこっちを見て視線を戻す。
「ふぅん。で、首謀者は今どこ?」
「ここには来られてない。場所もどこかわからん。いくつもある研究拠点のどれかにいるはずだ」
「いくつも……。面倒くさい。何個あるの?」
「五十は優に超えているだろうが、私たちも全ては知らん!」
「そう。首謀者がここに居ないのなら今回の指揮者は?」
「居ない。手は組んでいたとしてもそれぞれが己の為に来ているはぐれ者ばかりだからな」
「全部で何人?」
「私入れて五人だ」
「そう、じゃあみんな片付いたね。さようなら」
「待っ!!!」
六花さんが『さようなら』と口にした途端、
アリの人は全身が凍り付いた。
そしてこっちを向いたかと思えば、
また目の前に瞬間移動をしている。
「霊鬼は全部片付いてる。一人生きてるけど、それは……まぁ置いておく。それより鬼の子は大丈夫?」
「うん。気絶したのか今は眠ってるみたい。一時間くらいかかるけどこのまま付きっ切りで魔法をかけたら元通りになると思う」
「すごい。完全治癒は
六花さんが初めて無表情からキラキラ顔に変わる。
「異国の人、あなた特別すごい人?」
「んー。まぁ皆が出来るわけじゃないかも。私、魔法学校では優秀って言われてたからすごい人なのかも? えへへ」
「私、異国の人歓迎する。よく来た。冥桜山にも顔出して。獅子虎がすごく喜ぶ」
「兄貴が喜ぶだと!? なら小娘、お前来いべらぼうめい!!」
「えー? 嬉しいけど私、もう小娘って年じゃないんだよ?」
「かーっ! 見た目で判断するたぁまだまだだな小娘!! あっしはこう見えてこの世に生を受けてもう百年以上経ってらぁ。そんなあっしから見たらお前なんかまだまだ小娘ってわけだちきしょーめぃ!」
「うふふ。私は二百年生きてるよ?」
「すいやせんでした」
さっきまでとは打って変わって目を輝かせる六花さんと
本当に素直な虎鉄くんに失礼かもだけれど可愛いと思った。
「楽しんでおるところ悪いが、六花よ。東門の方の手配はどうなっておる? よもやお主らだけで来たわけではあるまい」
「残りの五妖傑が向かってる。だけど、あなた誰? 少し、馴れ馴れしい」
「そうか……それはすまんかったの」
「子供のくせに珍しいその喋り方は評価。それは好き」
「その言葉はありがたく受け取っておこうかの」
「そうして。で、異国の人。いつ来る?」
「ええっ!? そんな早く!?」
「善は急げ。ここで決める」
そんなこんなで戦いは終わった……みたい。
良かった。とは言えない。
今、ここ西門付近に居る人だけでも、
百を超える人が亡くなっている。
これが鬼の襲撃。
それに、六花さんは軽々しく倒したけど、
あの赤アリは強かった。
私は遠距離の方が得意だから、
何とかなるかもしれないけれど。
それでも、完全に勝てるとは言い切れない。
結果だけで見ると何もできなかったわけだし。
「ちょっと、気を引き締めなきゃな……」
「異国の人、何か言った?」
「んーん、独り言♪」
鬼退治、しっかりしなきゃ。
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《草間町 北部》
門からほど遠く。
被害の少ない北部。
だが、騒ぎを聞きつけた者どもは、
とっくに避難をしていて人はいない。
「ったく。間の悪ぃっていうかなんというか……」
一人の少年がとぼとぼ歩いていた。
二本の大刀を両に差す少年だ。
「まぁ、逆に良かったのか? あんな鬼どもの相手に手間取ってるようじゃ大した奴はいなかったってことだしなぁ……」
事実、少年の言う通りである。
草間町の闘技大会には一つ欠点がある。
それは優勝者は同じ部門に出場できない点である。
優勝者は優勝者同士で戦う時もあるが、
それは数年に一度。今年ではない。
ゆえに不作の年もあれば、豊作の年もある、
こと成人の部であれば、
青年の部優勝者の朔夜、義経、弁慶が揃うともあり
期待度が高い年ではあったが……。
「だけどまぁ、あの爺ちゃんはそこそこやれそうだったけどなぁ。あれ確か『牙翔一閃流』の爺ちゃんだよな?」
少年が男たちに絡まれ
妙な正義感のある青年が助けてくれた時に
片割れにいた者をふと思い出す。
そんなおり、少年は前から歩いてくる男を見つける。
男は鶴姫に撃たれ、ロミオに撃たれた満身創痍の鬼。
『弓の霊鬼』と呼ばれている鬼だった。
「わぁー、派手にやられてんなぁ。そんなボロボロなのに今の出血量は少ない。ってことはお前鬼か?」
「なんだこのクソガキ。馴れ馴れしく話しかけやがって! 本当にどいつもこいつも!!」
『弓の霊鬼』は弓に矢をつがえて有無も言わずに少年に放つ。
だが、少年は短い方の刀でそれを難なく切り払う。
……短いと言ってもそれは普通の刀のサイズなのだが。
「はっはっは、こえーなぁ。でもいくら俺が子供だからって無礼すぎるだろ。まぁ、般若の手下ならそんなもんか」
「なっ! お前何者だ!?」
「俺のことも知らないってなら下っ端も下っ端か。アイツのことだからもしかして……お前日雇いか?」
そう言って少年は笑う。
「まさかお前……いやアンタは鬼ど」
少年は何かを言いかける鬼を一閃に切り伏せる。
「あんまりこういう所でその名を口にするなよ。本当に常識の無い大人だな」
刀を強く降り、血を遠心力で飛ばして鞘に納める。
「俺は『
少年は何事もなかったかのように歩き出す。
「しっかし無駄足だったな~。鬼ヶ島に帰って誰かに相手してもらうとすっかなぁ~」
少年こと『武蔵』はそう言って口笛を吹いて歩いて行った。
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📕ミトスクロニクル📕 ~桃太郎は鬼の頭首になる為、鬼ヶ島へ向かう。お供になったのは双子のエルフと白雪姫やロミオ達でした!?~ 胤永 大樹 @Tanenaga_Taiju
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