第56話 影渡り
行方不明者が出ている場所、八王、謎の空間――。
不確定な要素が多すぎて、予測を立てるのが困難だ。
消えた探索者。
仮にズルドーガの仕業だとすると、それは果たしてどの攻撃なのか。
それとも、全ての攻撃が? この空間に意味があるのか? あまりに未知数だ。
本当はデッドラインが1つ消えて外で目覚め、他のところに行っているだけ?
なんらかの攻撃によりデッドラインが丸ごと消費され死んだ?
ピリオドのように強制リスポーンさせられ、リスキルされ続けたのだろうか。
それとも、デッドラインを貫通する致命の攻撃があるのか……。
どれも憶測に過ぎない。
試しに戦えない来栖で攻撃を受けさせてもいいが、ゲームと違って死ぬとなれば、そんなこと出来るわけがない。
全てが一発勝負。
ただ、確定してることは一つだけある。
それは、攻撃を受けないで勝てば良いということだ。可能かどうかは別として。
死なない戦い。これが、ダンジョン。
求めていた戦い――。
そんなことを考えながらの、ぎりぎりの戦い。
しかし、そんなことを思考する余裕もないほどの危機。
迫りくる大剣。そこから放たれる紫炎の斬撃は、まさに今俺を裁こうと迫る。
集中は最高潮に達し、死の帯は眼前を覆い尽くし、目の前を染め上げる。
そんな中わずかに見えた希望――突如獲得したスキル。
このスキルに望みを掛けるほかない。
「<影渡り>――――ッ!?」
瞬間、俺の体が後方へと落ちる。
それは、そう形容するほかない感覚だった。
遅れて、ドプンと何かに沈む感覚。
背中、肩、後頭部、そして顔。
目の前が真っ暗になる。
無音――。
なんだ……ここはどこだ……?
まさか、デッドラインを一気に破壊された……?
そんな結末が脳裏を過ぎるが、それは違うと直感的にわかる。
まるで夜の海に沈んでいるような、宙に浮いているような感覚。
海の中……あるいは夜空。
そして次の瞬間。
俺の体は自分の意志に反して、急浮上する。
一気に加速し、そして体が現実に飛び出す。
「――!!」
目の前に広がる光景に、俺は息を呑む。
薄暗い世界に等間隔で円形に並ぶ光。
その中央には、大剣を振り下ろしたズルドーガの姿。
「――は?」
あまりに衝撃的な光景に俺は言葉を漏らす。
この状況を言葉で表すとしたら。
俺は、突如ズルドーガの遥か頭上から落ちた。
どう言うスキルだ……瞬間移動!? いや、それにしては何かおかしい……。
だが、考えている暇はない。
この隙を生かす……!
ズルドーガは自分の放った紫炎で俺の居場所が見えていない。
つまり、あそこからおれが消えたこともわかっていない。
今なら――完全な不意打ちが可能だ。
俺はすぐさま剣を構えると、それを真っすぐに下に向ける。
重力での自由落下に、さらに<突撃>を加え、<硬質化>で力を逃さないように固定した全力の一撃。
完全な集中状態。
死の帯は見えない。ただ、重力に任せて奴を狙うだけだ。
俺は静かに落下し、そしてその剣をズルドーガの背中に目掛けて叩きつける。
『ぐおおおおおおああああああぁぁぁぁぁ!!!』
「やっと聞けたぜ、その声がよ!!」
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