第55話 VSズルドーガ③

「はあ、はあ、はあ……」


 どれくらい経った……?


 俺は振り下ろされたズルドーガの剣を、何とか右手に握ったクリスタルブレイカーで受け流す。


 シャアアアン! という甲高い金属音が鳴り響く。


 風圧が髪をかき上げ、その力に思わず身体がのけぞる。


 ズルドーガは脚力を生かしたヒット&アウェイと、<懺悔>、<贖罪>によるデバフの遠距離攻撃を繰り返している。


 左腕がままならないせいで、たまに攻撃を当てるチャンスが来ても、ほとんどダメージが入らない。


 完全にDPSチェックに引っかかってやがる。


 もしこれがパーティゲーなら、闇魔剣士さん、火力足りないんで抜けてもらっていいですか? とパーティから蹴られるところだ。


 だが、俺はソロだ。

 来栖が瀕死な今、俺を止めるものは誰もいない。


 俺は額から流れる汗をぬぐう。


 満身創痍な状態とは裏腹に、俺の心は踊っていた。こういう戦いを待っていたんだ。


 ただひたすらにコンピューターの繰り出す決められた動きを分析し、最速タイムでクリアする。


 限られた技、限られた操作で最適解を導き出す。


 イメージ通り上手くいけば脳汁があふれ出し、達成感と幸福感に包まれる。


 それでも少し物足りなさを感じていた。

 敷かれたレールを超えるような、自分の限界を試せる場所が欲しかった。


 それが、今ここにある。

 この世界は俺に刺激を与えてくれる。


『この状況で笑うか』


 俺は無意識に笑っていた。

 今はただ楽しかった。


『<懺悔>』


 くる……デバフ付きの攻撃……!


 ズルドーガは俺に剣での連撃を繰り出す。

 それを、俺はすんでのところでかわす。


 手数の多さが尋常じゃない。だが、何とか避けられる……!


『避け続けるだけか、嘆かわしい』

「回避し続ける限り……俺は負けないんだよ……!!」


 いくら火力差があろうが、いくら体力があろうが、回避し続ける限り俺がやられることない。必ずチャンスは来る。


『それは愚者の思考だ。その罪を身をもってしるがいい――<贖罪>』


 地面スレスレを飛ぶ、紫の炎。

 俺はそれを飛んで回避する――と本能的に選択しようとした瞬間。


 頭上に圧倒的な嫌悪感を覚え、俺は全力で地面に伏せる。


 後頭部すれすれを通り抜ける炎。

 すると、俺が上に飛ぶのを見越していたのか頭上へズルドーガが飛び上がっていた。


 あぶねえ……! 飛んでたら回避できなくて詰んでた……!


 けど……何だ今の……? 今まで集中が極限に達したときに見えていた死の帯とはまた違う……死の予感とでもいうべきか。


 これまでの死の帯が相手の動作から予測された死線だとすると、今のはそれよりもっと上の……死の予感だ。

 

 死の帯は集中力の極限、経験からくる視覚化だ。そういう風に見えるときがあるというのは、一瞬のゾーンみたいなものだろうと納得できる。


 だが、この死の予感は……何か得体のしれないものを感じる。

 俺の経験、五感情報からくるものとは違う、外からの助言のような……だって、俺は頭上なんて見えてなかったんだ。


『<懺悔>――』


 まずい、考えてる場合じゃねえ……!!


 俺は慌ててゴロゴロと地面を転がると起き上がる。


 地面にあふれていたゾンビたちによる泥は、時間経過でいつの間にか固まり始めていた。


 上空からの滑空攻撃。


 <贖罪>での遠距離攻撃ではなく、自由落下を加えた捨て身の攻撃だ。


「うおおおおおおお!!」


 俺は全力でダイブし、その攻撃をかわす。

 瞬間、後方から死の予感。


 まずい、態勢を立て直さないと――


『――<断罪>』


 初めて見るスキル……!!


 ズルドーガの剣が一つに繋がり、天高く掲げられる。


 おいおいおいおい……!!


 考える間もなく、振り下ろされる大剣。

 大剣に纏わりつくオーラのようにも見える紫の炎は、紫の炎柱となって一直線に俺へと向かう。


 <突撃>で避けるか!? いや、飛距離が足りない……! 受け止める!? 無理だ、この威力を正面から受けきるステータスは俺にはない……!


 まずい……!! 万策尽きたか……!?

 <硬質化>でガードを上げて、<闇火球>で威力を少しでも殺すしか……くそっ……!


 瞬間、脳内に声が響く。

 それは、高い女性のような声だった。


『条件達成を確認……あなたに称号<闇を縫う者>を』


 !?


『称号付与に伴い、あなたに新たな力を――』


 力……スキルか!? なんだかよくわからねえけど、これに頼るしかねえ……頼む!


「――<影渡り>……!」

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