第51話 地上では
同時刻、池袋ゲート――。
「これが八王……?」
「いや、これは外の映像だろ。棺の中で戦いが繰り広げられているはずだ」
「そっちの映像はないのか?」
「連れ込まれた二人が配信者ならあるいは……けど、アイアンナイツは規則で禁止してるって話だぜ」
池袋ゲートの一角、憩いの噴水のある場所に大勢の探索者が集っていた。
見上げるのは、巨大液晶モニター。
そのモニターでは、いつもランダムでピックされた探索者の配信や、初心者向けのガイダンスが流れている。
現在流れる映像の異様さに、大勢が集まってきていたのだ。
三層の墓所に居合わせた配信者が、咄嗟に映像を流していた。
突如現れた棺と、そこから伸びる二本の触手。それは、その場にいた二名の探索者を掴むと、棺の中へと引きずりこんだ。
『おいおい……こんなの見たことねえよ……!』
配信者は興奮気味にそう言うと、映像を主観から三人称モードへと切り替え、墓所を俯瞰して映す。
二人の探索者が引きずり込まれた直後、地面から次々とモンスターが出現したのだ。その場に居合わせた探索者は、全力でその対処に追われていた。
そして、その映像を見ていた誰かが、ネットの海でその配信のURLと共につぶやいた。
【三層に八王の一角現る!】
こうして、瞬くまにその映像を見る人が増え、気が付けば視聴者数が30万を突破していた。
「来栖が引きずり込まれたのは!?」
「十分ほど前です」
「間に合うか……? 反応は?」
「まだ消えてないですが、通話は繋がらないです」
「棺の中は別空間……遮断されているのか」
池袋ゲートの前に、物々しい様子で集まるのは、巨大クラン「アイアンナイツ」。
古株であり幹部の一人でもある来栖の緊急事態に、精鋭が揃えられた。
「アイアンナイツだ、こんなに多く集まるなんて珍しいな」
「知らねえのか? 来栖が消えたんだよ」
「まじ!? あの来栖が……そりゃこうなるか」
周囲の人間たちも、その様子にただ事ではないと感じ取る。
長身で髪の長い、金髪の女性……アイアンナイツ副団長の佐々木が、配下の団員と情報を整理する。
「別空間系でいえば十三層の暁神殿があるが、あれは通話も可能だった。ダンジョン内に存在する隔離空間だったと考えられるが、通話も繋がらないとなるとそもそも次元が絶たれているのか」
「そのようです」
佐々木はネットの映像を見る。
「この地上に出てきているモンスターは?」
「ライブラリと照合しましたが、一致するモンスターはいません」
「三層で未発見のモンスターはいなかったはず……やはり、八王関連か」
「そういう見方が強いですね、ネットでもそういう風に広まってます」
地上の様子が配信されていることで、事態は探索者間に広く広まっていた。
今、探索者界隈で最も注目されている事案だった。
「来栖のパーティは?」
「三層の手がかりを探しに行ったのはアイアンナイツ歴の浅い探索者ばかり……来栖さんに付いていける探索者は今三層にはいないです」
「三層を甘く見すぎたか……八王関連と踏んでの探索なら、もっと精鋭を出すべきだった」
「しょうがないですよ、本体は十六層で新たに発見された古城攻略に駆り出されていたんですから」
近頃動き出した八王関連の情報。少しでもアドバンテージを得るべく、人数を分散させての人海戦術をとったのがあだとなっていた。
「今日ははあくまで視察だけの予定だった。何か手がかりを見つけてもあの来栖が先行するはずがない。何かイレギュラーがあったとしか思えない」
「テンリミ……ですか」
佐々木は眉間にしわを寄せ、頷く。
最近デビューした新人探索者。
一時は探索者のユキと行動を共にし、八王と戦った少年。
情報はまだとれていないが、各クランや勢力が彼の動向を追っている。
今回、あの三層に居たのも偶然ではないだろう。
「彼を抱き込めたところが、この情報戦を制するか」
「でしょうね」
「よし……目標は決まった。来栖の救出とテンリミの確保だ。もちろん手荒な真似はするな、救護の体で接近し、恩を売って情報を引き出す。すぐに向かうぞ」
「「「はい!!」」
こうして、アイアンナイツの精鋭部隊は三層を目指してダンジョンへと入っていった。
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